第140話 星暦553年 黄の月6日 ちょっと趣味に偏った依頼(6)(第三者視点)
>>>サイド ツァレス・メンダラス
『テントの裏の巨木から見て北に200メタ進んだ当たりにも一本あります!
これで大体巨木から等距離に5本、あることになりますね。
その更に離れた所にもあるか、確認します!』
通信機からシェイラの弾んだ声が聞こえてくる。
「そう言えば、樹木が何かの魔術陣に組み込まれていたとシャルロが言っていたが、どの木のことなのか、ウィルに聞いて記録しておいてくれ」
遺跡が現役だった頃から残っている巨木全てが魔術陣に組み込まれているのか、それとも一部だけなのかも興味があるところだ。
『俺が気が付いたのはもう少し外側の樹木だから、さっきの5本に関しては後で調べてみる』
ウィルの声が通信機から聞こえてくる。
おや?
通信機の声って周りの人に漏れないように、それなりに限られた範囲でしか聞こえないようになっているはずなんだけどな。
今の返答のタイミングからして、ウィルは私の声が直接聞こえたようだが・・・あの
まあ、
高いところが苦手なのでシェイラに上空からの観察機会を譲ったが、考えてみたら高いところが平気だったとしても譲って正解だったな。
ウィルだってむさい男と狭いスペースで密着するより、若いシェイラの様な女性と一緒の方が嬉しいだろう。
ふむ。
・・・シェイラと仲良くなって、休暇の時とかにウィル達がこちらに来て手伝ってくれたりしたら嬉しいなぁ。
うん、シェイラが3人のうちの誰かと仲良く出来るよう、魔術師諸君のことはシェイラに完全に任せよう!
『・・・外縁の樹木は7本しか見当たりません。
南と西の間が他の所の倍ぐらい空いているので、樹が枯れてしまったのかも知れませんね』
余計なお節介なことを下心混じりに考えていたら、シェイラの声が通信機から聞こえてきた。
「南西にも何かあったはずなのが見当たらないのか。
ウィル、この外縁の樹が君が魔術陣に組み込まれていると言った物かい?」
『そうですね。
俺が気が付いたのは南側のだけで、南西の部分に何かあるべきと言えるほど、魔術陣の理解が出来ていないので抜けている分がどうなっているのかはなんとも言えませんが』
「南西となると、ちょうどヴァルージャの街の方向ですね。
そこの樹が枯れていたお陰で人避けの結界が弱まっていたのかもしれませんね」
ウィルから言われたことも地上にいる2人の魔術師達に伝えながら遺跡の見取り図を見ていたら、アレクがコメントした。
「・・・ベルダ先生は魔術師だったから人避けの結界に気が付いたんだろう?
結界が弱まっていたのだったら街の住民がもっと入り込んでいたんじゃ無いか?」
シャルロが肩を竦めた。
「本当に優れた人避けの結界というのは、その存在そのものに気づけないよう創られているんです。
それこそ、探しているのがウィルみたいな人並み外れた『魔力を視る能力』を持っている人間じゃない場合は、意識して結界を探しているのでなければ魔術師でも気づけないことも多いんですよ。
単に気楽に散歩していて結界に気づいたということは、結界が弱まっていたからかも?」
いやいやいや。
フォラスタ文明は少なくとも500年近く前の文明だぞ?
そんな昔の遺跡の結界が機能していただけでも驚愕の事実なのに、実はそれが一本の樹が枯れていたせいで完全な状態では無かったというのか??
「つまり・・・もしも魔術陣に組み込まれた樹が枯れていなければ、他にも人避け結界のせいで見つかっていない、より完全な遺跡があるかもしれないと?」
思わず、湧き上がってくる興奮に体が震える。
「まだこの遺跡の魔術陣とかを研究できていないので何とも言えませんが・・・。
他にもここみたいな『隠れの森』モドキな場所があったら、調べてみると良いかもしれませんね。
もっとも、そういう人が迷う場所の場合、サラフォード地方の森のように幻想界などとの境界に近い場所というケースもありますが」
アレクが答えた。
「でも、このフォラスタ文明って面白いですね。
魔術陣に樹木を組み込むことで魔力を供給し続けるなんて魔術、始めて見ました」
シャルロがニコニコしながら声を上げる。
フォラスタ文明は自然と融合して暮していた文明では無いかと思われており、一部の学者からは『原始的な文明』と言われてきたが、その『原始的な文明』が500年もその魔術陣を活かすことが出来るだなんて聞いたら、魔術院も目の色を変えるかも知れない。
・・・とは言え、今まで見つかった『フォラスタ文明のものと思われる』遺跡は殆どが森に飲まれて僅かな痕跡が見える程度にしか残っていない物が多かったが。
この遺跡だけ、何か違うことがあるのだろうか?
ううむ。
調べたいことが山ほどある!!
早くシェイラに降りてきて貰って、詳しくその昔からある樹木とかを調べなくては!
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