第138話 星暦553年 黄の月6日 ちょっと趣味に偏った依頼(4)(第三者視点)

>>>サイド シェイラ・オスレイダ


「おはよ~

今日も南のセクションから西に向かって作業していくということで、良い?」

テントで1日の予定を確認していたら、魔術師3人組が現れ、シャルロが声を掛けてきた。

相変わらず、彼らも朝が早い。


昨日は結局、午後は自由にと言ってあったのに『早く全体像を把握したい』というウィルがずっと働き続け、それに付き合ってシャルロも数刻は余分に固定化の作業をしてくれた。

後で提出された見取り図によると、どうも南のセクションのかなりの部分が既にカバーされているようだった。


「ええ、お願い。

だけど、午後は無理はせずに好きなことをして貰って良いんだからね?

契約以上に働いて貰っても払う予算がないから」

彼らが何か即時に現金か出来る魔具なり魔術陣を見つけてくれない限り、現時点で発掘隊の予算は既にかなりギリギリだ。


美術品などは見つかっても、まず研究してからオークションに出すので資金のやりくりに貢献するには時間が掛る。


「構わない。

こちらも、半ば趣味も兼ねて楽しみながら作業をしているからな」

ウィルが肩を竦めながら答えた。


机の上に用意してあったお茶に手を伸ばしながら、彼が続ける。

「そう言えば・・・この遺跡の魔術は一部、樹木の生命力を利用して魔術陣そのものに樹木を取り込んでいる物もあった。

そのお陰で、これだけ長い間人避けの結界が機能し続けたんだと思う。

今まで見たことがない技術なので我々がそれを再現できる形で利用出来るかは不明だけど、魔術だけで無く他のことにも生きた樹木を絡めて居るかも知れないから、誰か身軽な者に遺跡の中の大木を登らせて確認した方が良いかもしれないな」


へぇぇ??

この遺跡はフォラスタ文明の遺跡である可能性が高いとツァレスは言っていた。

だから比較的若いながらも、フォラスタ文明の専門家として頭角を示し始めてきた彼がチームリーダーになったのだ。

フォラスタ文明は自然と融合して生活するスタイルだったのではないかと言われているのだが、何分自然と融合するスタイルなだけに年月の流れと共に風化して姿を消すことが多く、今まで彼らの文明についてあまりはっきりしたことは分かっていない。


だが。

この遺跡は幾つかの魔術が生きていた為、他の遺跡よりも保存状態が良い。

上手くいけば『自然と融合したスタイル』の文明における樹木の利用方法が実際に観察できるかも知れない。


ふふふ。

これは是非、動きやすいパンツドレスに着替えて早速木に登らねば!


「まあ、素晴らしい話だわ!

早速登ってみる!」


ギョッとしたように3人がこちらを凝視した。

「え??

君が登るの??」

シャルロがつぶやく。


「勿論よ。

私が一番若いし、体力もあるもの」

生きたフォレスタ文明の形を見られる機会なんて、誰にも譲れない!

他の連中に話す前に、探してみよう。

それに、研究熱心すぎて不健康な生活を送っているために筋力が殆どついていない他の連中では、夢中になって登っても降りてこられなくなる可能性が高い。

幸い自分は子供の頃に田舎にある叔母の家の近所の森で色々と木にも登ってきた。


きっと、何とかなる!


「あ~。

ここの樹木ってそれなりに高くまで育っているから・・・。

ちょっと危ないと思うぞ」

アレクが言いにくそうに口を出してきた。


危ないと言うよりも、はしたないと思っているのかな?

学者の研究に、はしたないなんて考え方は無いのよ!

動き周りやすいように、ちゃんとパンツドレスも持ってきてあるし。


空滑機グライダーにデフォルトで付けている安全装置があるから、それを付けて登ってはどうだ?

昼休みにでも宿に預けてある空滑機グライダーを取ってくるから、それまで待てないか?」

ウィルが苦笑しながら言った。


空滑機グライダー用の安全装置?

そんな物があるのか。


数年前に空滑機グライダーが開発され、それの貸出も行われるようになっているという話は耳にしていたが、危なそうなので興味を持たないようにしていた。

だが、安全装置が付いているのか。


だったら、ついでにこの遺跡を上から観察するためにも貸して貰えないだろうか?


「あら、それは良いわね。

是非、貸して貰えるかしら?

どうせだったら昼に空滑機グライダーを取ってきて、上空からこの遺跡を観察してみない?」

私も是非、乗せてね。

にっこりとこちらの思いを込めて微笑みかけたら、ウィルが一瞬固まってから、ため息をついて頷いた。


「そうだね。

昼休みに取ってくるから、シェイラも動きやすい服装に着替えておいてくれ」





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