第118話 星暦553年 萌葱の月24日 ちょっとした遠出(7)
「で、幻想界に行ってきたお土産がこれなのか?」
下級魔獣退治の後に温泉でリラックスし、西の妖精森の中をノンビリ見て回った俺たちは色々お土産や興味があった物を入手して昨晩帰ってきた。
幻想界の物は現実界であまり長く放置していると消えてしまうとのことなので、早速学院長にお土産を持ってきたのだが・・・。
微妙に、視線が冷たい?
「幻想界の物ってかなりの部分が魔力が凝固して出来た物らしくって、現実界に持ってくるとそのうち魔力が抜けて消えてしまうらしいんですよ。
だから長期的に置いておく物では無く、飲んだら終わるお茶とワインにしたんですが・・・。
消えてしまうとしても木工細工か何かの方が良かったですか?」
魔具だったら魔力を補填しやすいので補填していれば残るって言われたけどね。
自分達用には幾つか買ってきた(と言っても貰った奉仕コインを使ってだけど)が、流石にお土産に気軽に買うにはちょっと高価すぎた。
「・・・どうせなら、私も幻想界へ行きたかったのだが」
ため息をつきながら学院長が答えた。
いや~行きたいだろうと思う人達にそんなことを聞いていたら、何人になったか分かったもんじゃないでしょうが。
だから魔術院への連絡以外、誰にも前もって言わなかったんだし。
「シャルロが彼の使い魔から話を聞いたのもかなり間際だったので。
我々も慌ててサラフォードの森のこととかを調べて直ぐに出発だったんですよ。
学院長だってお忙しくて急に何日も姿を消すわけにはいかないだろうと思いましたし」
「ふん、どうせ他の人間を連れて行くのが面倒だったから誰にも言わずに出発したんだろうが。
で、幻想界はどんな感じだったんだ?」
鋭いねぇ、学院長。
取り敢えず、次にいつ幻想界が現実界に重なるかはアルフォンスですら知らないらしい。
だから『次回連れて行け』と言われる心配もないので、聞かれるままにあちらでのことを話すことにした。
しっかし。
学院長がそんなに幻想界に興味があるとは思わなかったな。
◆◆◆◆
「さて。
温泉だ!
折角温泉の設備の構造を記録して必要な魔具も貰ってきたんだから、早速行きやすいところに温泉を作ろう!」
それぞれお土産を配って回って帰ってきた俺たちは、その晩居間で地図を開きながら相談していた。
そう。
温泉の源泉からどうやってお湯を引いてきて、どんな風にお風呂場でそれを利用すれば良いのか。
実は俺たちは暗黒界と接触した日とその次の日は西の妖精森を色々と観光がてら見て回ったが、残りの数日は温泉をこちらに実現させるために調べごとで過ごしたのだ。
お陰で源泉さえ見つければ、自分達が楽しむぐらいのことなら直ぐに出来る。
もっとも、温泉設備を作るのとは別に、幻想界の魔具をこちら用に作り直してその魔術回路を魔術院に登録する作業もあるんだが。
アルフォンスに聞いたところ、別にあちらの魔具を俺たちが金儲けに使おうと好きにしてくれとのことだった。
まあ、そうだよなぁ。
妖精が現実界の金儲けに興味を持つ訳がない。
取り敢えず、必要な道具は設置用と研究用に2つ用意したので、源泉さえ見つけられれば直ぐに温泉に入れる。
そしてアスカと蒼流(もしくは清早でも)がいれば源泉の場所なんて直ぐに分かる。
・・・と思っていたのだが。
彼らは源泉は見つけようと思ったら見つけられる。
が。
その場所を俺たちが分かる形では伝えられないことが判明。
精霊も幻獣も、人間が使う地図と自分の感覚で分かっている場所とを繋げられなかったのだ。
ううむ。
「問題は、場所だよねぇ。
あちこちを
シャルロが提案した。
「アスカは
空にいる俺に場所を知らせることは難しいかも。
かといって、地中を連れて貰ってたどり着いても、そこが何処かを俺が知るのも難しそうだし」
「・・・蒼流によると、水が湧いている場所や地下に水がある場所いうのは分かるらしいんだけど、それが熱いかどうかって微妙に分かりにくいらしいんだよねぇ。
勿論、近くに行けば分かるらしいんだけど」
シャルロが困ったように付け加えた。
どうするか。
暫し色々と悩んでいたのだが、最終的にアレクが取り敢えず出来る行動を提案してきた。
「まずは王都の近くにあるかどうかをアスカに確認して貰ったらどうだ?
王都の側にあるなら、そこへウィルがアスカに連れて行ってもらった後に位置追跡装置を使って私かシャルロが馬か
王都の側になかったら・・・似たようなことを転移門で行きやすい街の周囲でするしよう」
ふむ。
アレクの提案でいってみるか。
王都の側にあればそれが一番良いからね。
無かったらどの街に行きやすいか、また後で相談だな。
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