第117話 星暦553年 萌葱の月19日 ちょっとした遠出(6)

「今日は本当にありがとうございました。

暗黒界との接触が起きると、場合によっては街や森が半壊したりといった大規模な被害が出ることもあるのですが、今回は殆ど被害無しに抑えることが出来ました」


半日以上かけて幻想界の住民達と一緒に空から振ってきた黒いのを始末していた俺たちをペトラが態々探し出してお礼を言ってきた。


今回は発現した場所が妖精王の居所に近かったお陰で初動が早かったらしく、俺たちがいなくても何とかなったんじゃないかと思うが・・・まあそれなりに俺たちも役に立ったもんね。


これで色々西の妖精森でお土産とか目を引いた物を買ってもアルフォンスに無心しなくてすむぐらいに奉仕コインを稼げたかな?


というか、奉仕コインを貰えなかったとしても俺はアルフォンスからそれなりに支払いを受ける権利があると考えて、遠慮しないぞ。


「アルフォンスの森だからね。僕も、役に立てて良かったよ。

ところで、皆もバタバタしているとは思うけど、食事処に行ったらお昼ご飯貰えるかなぁ?」

シャルロがにこやかにペトラに返事をする。


確かに。

腹が減った。


ラフェーンと大活躍だったらアレクなんて、疲れ切って岩に座り込んじゃってるからさっさと栄養とって少し休むべきだろう。


今回の幻想界と現実界が触れ合っている期間はまだ数日あるから、無理に今日中に残りの箇所を見て回る必要は無い。

というか、幻想界の住民達もすることがあるだろうし。

住民のうちのかなりの人数が、何もかも放り出してここに来ていたのだ。皆予定が狂いまくっているだろうから、俺たちがノンビリ見物に来ても迷惑だよね。


「勿論です。

戦いの後の栄養補給は何よりも重要ですからね。既に担当の者が頑張っているはずです」

ペトラが頷いたので、俺たちはのそのそと食事処へ足を向けた。


「私達が一緒に居る場合、大量に魔力が必要になるときは大抵シャルロがやってくれていたからな。

最近あまり大量に魔力を使って無かったせいか、凄い疲れた」

ため息をつきながらアレクがつぶやいた。


「まあねぇ。こんなに頑張ったのってそれこそ学院祭以来じゃないか?」

というか、学院祭でもアレクは参謀的な役割を果たしていたことが多かったから、魔力よりも頭脳を使っていたな。


「お昼食べて暫くしたら、また温泉に入りに行こうよ。

今日はもう、ノンビリ休もう」


「「「そうだな」」」

シャルロの提案に俺たちは皆して頷いた。


「しっかしさあ、以前ちょっとした機会に見た悪魔と、今回の暗黒界からの魔獣って何か大分タイプが違ったんだけど。

悪魔は強力だったけど、あんな触ったらじゅわっと死んじまうようなとんでもない存在じゃあなかったぜ。

悪魔の方が下級魔獣よりもランクが上なのに脅威度が低いって何で?」

闘いながら疑問に思っていたことを声に出して聞いてみた。


「世界が違うからね~。

殆どの幻想界の生き物は物質というよりも魔力で構成されているから、魔力を奪われるとああいう死に方をする訳。

だから下級魔獣を現実界に喚び出して向こうの樹を攻撃させても、ああいう結果にはならないぜ」

ペトラよりも先に清早が答えてくれた。


まじ??

「え、じゃあこっちの木細工を持って帰っても、現実界で魔力が抜けたら消えちゃう訳??」

お土産のアイディアが・・・。

魔力が抜けきる前に使い終わる量の茶葉とかしか持って行けないのか?

だけど、どの位の時間で魔力が抜けるかなんて分からんぞ。


「魔力を固定化する術を掛けていない木材や牙とかの細工物は現実界に持って行くと時の経過と共に消えてしまうそうですよ。

ワインなどですと変質して味が落ちるらしいですし。

位の高い魔獣や幻獣の牙や骨でしたら魔力が凝って物質化しているのでかなりの期間は保つはずですけどね。

石細工だったら大丈夫ですからそちらの方が良いかもしれません。

魔石を使った魔道具やアクセサリーなら魔力の固定化の術が掛けてありますし、使ったら魔力を補充できるようになっていますからそれらも持って帰るのに向いているでしょう」


ううむ。

なんかぐっと高価なりそうなんだが。

俺たちの今日の働きってそんな魔石を使った魔道具を買えるレベルだったのだろうか。


でも、幻想界の魔道具とかって凄く斬新な技術を使っていそうな気もするんだよな~。

アクセサリーに魔石を使うというのも面白いし。


・・・どうすっかな。

妖精に『俺たちの働きって幾ら相当だったの?』なんて俗っぽいことを聞くのって何か気が引けるんだけど。

あとでニルスを探し出してみて、そこら辺のことをを聞いてみようかな?

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