第106話 星暦553年 翠の月20日 お手伝い(2)(第三者視点)
>>>サイド ラルト・サリエル
サリエル商会の本店は、ごく小さな商品スペースがあるほかは事務所や倉庫からなっている。元々、後ろ暗い事が多かったサリエル商会の事業はそれ程大量に商品を表立って見せるようなタイプではなかったからだ。
セビウス・シェフィートはさっさと奥へ進み、1階にある事務員用のオフィス・スペースをのぞき込むと、部下に資料の確認を命じて出てきた。
まあねぇ。
表向きの帳簿なんぞ調べるのに、セビウス自身が関与する必要は無いだろう。
少なくともこの段階では。
とは言え、貸金庫や隠し財産探しに彼が関与する必要があるのかというのも微妙な点だが。
セビウスは商品スペースにも首を突っ込んでちらっと中を見たものの、通信機を手にそのまま次の部屋へと向かっていた。
さて。
奥の倉庫の下には隠し部屋があるのだが、見つかるだろうか?
勿論見つかったら困る物は既に処分してあるが。
建物の壁を全て叩いて周り床板を全部剥がせば、当然隠し金庫も隠し部屋も全て見つかる。
絶対にあるはずだと主張して数年前の初期監査の際に父はシェフィート商会の本邸と本店を荒らしまくったのだが、普通にあるような防犯用の隠し金庫しか見つからず、単なる嫌がらせとしては復旧の費用が掛った上に本店での事業にも支障を起こさせたとして商業ギルドではかなりの顰蹙を買った。
シェフィート商会が同じレベルまで落ちてくるとは考えにくいが、サリエル商会が隠し金庫や隠し部屋を持たないと考えるのも非現実的だ。
としたら、どうするのだろうか?
セビウスの取り得る手段を考えながらのんびり後を追ったら・・・倉庫の奥にあった本棚が回され、下に隠れていた床板がずらされて隠し部屋へ続く階段が見えていた。
え??
もう扉を見つけたのか????
地下の隠し部屋というのは、そこへの階段がある部分の床の響きが変わってしまって見つかる可能性が高い。
だからその部分の床をたたけないように、上に本棚を置いていたのだが・・・。
本棚を横に回転させてどける仕組みを自分がのんびり数十メタ歩いていた間に見つけたというのか??
・・・もしかして、誰か内通者がいるのだろうか。
だが、あの隠し部屋のことを知る人間は少ない。
しかも今では大した物は置いていないのだから、内通者がいると言うことを分からせてしまうリスクを犯してまでしてこんなに早く暴く必要は無いように思える。
隠し部屋への行き方を知っていて、かつ最近の『掃除』のことを知らぬ人間は誰だろうか?
頭の中で該当する人間をリストアップしながら部屋へ入っていったら、ちょうどセビウスが出てきたところだった。
「こんなに工夫された地下室をワインセラーとして使うなんて、勿体ない気がしますね」
「いえいえ、良いワインというのは従業員に盗まれる可能性が高いので、隠す必要があるのですよ。
地下室だと温度も一定に保てますし」
にこやかに答えたが、セビウスから冷たい一瞥を食らっただけだった。
まあなぁ。
ガルヴァ・サリエルから高級ワインを盗む度胸がある従業員はあまり居ないだろう。
他の商会ならまだしも、数年前までだったらウチでそんなことをしたら、数日後には人知れず海に沈む羽目になる可能性が高かったのだから。
とは言え、言い訳としては悪くはない。
流石にこんな仕組みまである隠し部屋を、普通の掃除道具置き場に使うというのは無理があるし。
通信機を手にセビウスがそのまま隣の部屋へ進む。
何か話しているようだが、こちらに背を向けて声を低めているため、何を言っているのか聞こえない。
内通者と連絡を取り合っているのか?
だが、態々通信機なぞ使って本店を探している最中に説明するよりも、最初から分かっていることを全部教えておけば良いのに。
一体何が起きているのやら。
不思議に思いながら隣の部屋に行ったら、今度は壁に掛けてあったタペストリーをどけて羽目板を外し、隠し金庫を露わにしていた。
「開けて貰えますか?」
◆◆◆◆
そんなこんなで、昼食までに本店の隠し金庫は全て暴かれていた。
中には自分が知らなかった隠し場所もあり、冷や汗を流しながらセビウスが暴くのを見守る羽目になった場面もあったが、幸い出てきたのはちょっと怪しげな手紙だった。
多分脅迫か保険用に保管していたのだろうが、脅迫していいたという証拠はないし、今となってはどういう状況での手紙なのかも分からないからあからさまに胡散臭いものの悪事の証拠ではなかった。
「では、昼食に行ってきますので、11刻ぐらいからまたよろしくお願いしますね」
にこやかに笑いながらセビウスが挨拶をして出て行った。
「・・・親父、他にも俺が知らない隠し場所なんて、無いんだよな?」
セビウスを見送りながら父親に低い声で尋ねる。
一体何が起きているのだろうか。
確かに、襲撃された時用に隠し場所が各部屋に複数あるサリエル商会の本店の構造もちょっと不自然だが、自分ですら知らない隠し場所を午前中だけでああもあっさり暴いて回るなんて、どう考えてもおかしい。
内通者がいたにしたってここまで知る事なんて出来ないだろう。
「・・・無いと思いたい」
深くため息をつきながら父親が答えた。
「有名な盗品をほとぼりが冷めるまで放置しよう、なんて思って隠して忘れたりしていないだろうな?
セビウス・シェフィートの後ろをついて回っていた壮年の男は、盗難関係を主に扱っている審議官だった。
古い盗品でも知っている可能性が高そうだ」
深くため息をつきながら親父が側にあったチェストに腰掛けて頭を抱えた。
「アレシアと再婚した頃からそういうヤバい品を扱うのを止めたからなぁ。
もう10年近く前のことなんて、忘れていたとしたら今すぐは思い出せん」
『一応の保険』として保管していて忘れた手紙はいいが、盗品が出てきたらヤバい。
・・・だが、皮肉なことに隠し場所を全て暴いて回っているセビウス・シェフィート以外にその場所が分からないから、自分達には前もって隠せない。
「なんだってああも完全に全ての隠し場所が分かるんだ??」
ため息をつきながらガルヴァが立ち上がった。
「もしかしたら、
そんな依頼が来たと言う話はウチの情報源からは聞いていないから、依頼したとしたら情報漏洩防止用に追加報酬を払っているんだろう」
やっぱり、アレク・シェフィートが魔術学院に入った際の監査での嫌がらせはやり過ぎだったんだよ、親父・・・。
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