第97話 星暦553年 翠の月2日 祭りの後(4)

「ちょっとあんた、何て子を見つけちゃったのよ!」

シェフィート商会への顔合わせが終わった後、一応にと言うことで挨拶に魔術院へアルヌを連れてきたのだが・・・。

以前魔術院当番だった時に一緒に働いたセイラ・アシュフォードに個室へ連れ込まれた。


どうもご立腹の様だ。


「幾ら孤児だと言ってもそこまで酷い言い方をしなくても良いのでは?」

俺も孤児である。

ギルドの事は俺もアルヌも公開していないのだから、『孤児である』ということだけでここまで言われるのは腹が立つ。


「はぁ?

孤児?

何の話をしているのよ。私が言っているのはサリエル商会の娘の事よ!」


サリエル商会と言えば、ありとあらゆる後ろ暗いことを手広くやっていて、裏社会とも付き合いの多い商会だ。


扱っている物が多いとは言え、あそこの羽振りの良さは表向きに売った物では無く、盗品や違法品の扱いから来ているのは、裏社会では有名な話だった。


しかも、裏稼業で大人しく儲けていれば良いのに、表向きの商会でも成功したいのか気に入らないライバル商会にごろつきを雇って強盗に入らせ、高級品を奪い取った上で店の商品や内装に被害を与えるとボーナスを与えるという質の悪い事もやっている。


最初は盗賊シーフギルドに頼もうとしたのだが、そういう破壊行為はやらない、盗みだけをすると返答がきたら二度目からは自分でごろつきを雇うようになったのだから、相当だ。


なまじ表社会の『名士』を気取っている為か、裏社会の仁義すら無視する一番嫌なタイプだ。


「サリエル商会がどうしたんですか?」


「貴方が昨日行った魔力テストで見つけた女の子がいたでしょう?

あれがサリエル商会の娘よ。

親が悪徳商人でも、それを反面教師にして子供がまともに育つこともあるけど・・・あの子は駄目ね。

こちらに来た際にも散々男どもに媚びを売っていたわ。

ちなみに、貴方にも目を付けたみたいよ。父親までもが『お世話になったから是非お話ししたい』って貴方のことを探してたわ」


うげぇ。

あの幼いくせにきゃぴきゃぴ媚びてきた小娘か。


小さいくせに媚びて人を利用しようとする臭いがしたのだが、サリエル商会の人間だとはね。


「性格に難があるから魔力を封じるという訳にはいかないんですか?

サリエル商会だったら絶対、将来的には魔術を違法な目的で使いますよ。

態々魔術を学ばせて周囲への被害を増やしてから封じるのでは無く、前もって封じた方が絶対に経済的だし魔術院の風評被害も避けられると思いますが」


セイラがため息をつきながら首を横に振った。


「魔力の封印は、本人が希望した時以外は実際に法律の条件を満たしていないと施行できないのよ。

魔術院の担当者が気に入らない人間の魔力を片っ端から封じることが出来たりしたら、問題でしょう?」


うげぇ。

サリエル商会の人間だろ?

将来悪事を働くと分かっている人間を魔術院に連れてきた魔術師として有名になりそうで、嫌なんだけど・・・。


◆◆◆◆


新人登録局に挨拶に行かせていたアルヌをシェフィート商会へ送った後、帰宅した。


あ~あ。

なんか折角アルヌの事が上手くいきそうで良い事したと思っていたのに、台無しになった気分だ。


「あれ、ウィル帰ってきてたんだね。

どうだった?」

リビングにお茶を飲みに行ったらシャルロが先にお茶を淹れていた。


「アルヌの方は問題無かったんだけどね。

魔術院に挨拶に連れて行ったら、以前相談課で一緒に働いていた女性に怒られちまった」


シャルロが俺にもお茶を注ぎながら目を丸くした。

「怒られたの?

何をしたの、ウィル?」


おいおい。

俺は無実だ。

そりゃあ、あの小娘がサリエル商会の娘だと知っていたらもう少し陰から本人の性格を確認して、難があるようだったら密かに魔力を封じたかも知れないけどさぁ。


流石にあの悪評高いサリエル商会の娘があの場に居るなんて、想像出来ないだろう??


「昨日魔力テストで見つけた人間は3人いたんだけどさ、そのうちの一人が実は裏社会でも有名なほど悪評高いサリエル商会の娘だったらしいんだよ」


「別に、親が悪徳商人でも、娘が良い子かもよ?」


いや、あれは絶対に『良い子』ではないな。

『良い子』はあんな慣れた感じで媚びを売ったりなんぞしない。

「初対面で俺に媚びを売ってきた小娘だぜ?

言われてみれば、あの親にしてあの娘有りという感じだったな」


はぁぁ。

魔術学院を卒業したら見張っておいて、違法行為をしたらいち早く魔術院に報告して取り締まらせるかなぁ。


なんたる時間の無駄。


しかも、あのタイプはきっと魔術学院でも周りの少年達に媚びを売って振り回し、皆の勉学の邪魔になるに違いない。


・・・学院長に警告して、できるだけ早い段階で魔力を封じられるように見張っておいてくれって頼んだら卒業前に何か大きな事をやらかして魔力を封じることも可能かな?


それが一番有り難いんだが。


「どうしたんだ?」

キッチンの方から、パディン夫人のケーキを乗せた皿を片手にアレクが現れた。


「昨日行った神殿教室ではさ、魔力がある子供が3人居たんだよ。

一人はギリギリ魔術師になれる程度しか魔力が無くって、親が大工で本人も将来は大工になるって言っていた。

もう一人がアルヌね。

で、最後の一人がまだ幼いのに俺に早速媚びを売ろうとした小娘だったんだが・・・そいつが実はサリエル商会の娘らしくて。

魔術院にアルヌを挨拶に連れて行ったら、相談課のセイラ・アシュフォードに怒られちまったよ」


ケーキを切り分けながらアレクがにやりと笑った。

「サリエル商会とはねぇ。

素晴らしいじゃ無いか」


いや、俺は頭を抱えているんだけど。

何を喜んでいるの??

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