第64話 星歴553年 赤の月17日 疑問(7)

「結局、あの代官は商人のジャルド・バンダールとしても商売をしていて、そちらで意外と儲けていたから横領されていた金額は殆ど全部返ってきたらしいよ」

スラフォード伯爵から事件の決着の詳細を聞いてきたシャルロがお茶を淹れながら報告した。


「会ったことはなかったらしいが、兄の話ではジャルド・バンダールは貸金業者としてそれなりに成功していたらしいぞ」

アレクがお茶を受取ながらコメントする。


「あの審議官も中々のものだよな。あの代官のしらの切り方から別に資産があるに違いないと睨んで捜査してちゃんと見つけるんだから」

どうも俺のことを便利な技能を持った魔術師として目を付けたような気がするのは微妙だが、まあ最近は審議官に知られたら困るようなことは殆どしていないので構わないだろう。

魔術院経由で単発の仕事が偶に入る程度だったら魔術院に対する実績を積み上げられるし。


「あの酷いカツラを被ってずっと仕事をしていたっていうことが信じられないけどね~。

まあ、実際にお金を貸すのは部下の人がやっていたんだろうけど」

俺にもお茶を渡した後、シャルロがソファに座った。


「だけど、もうずっと手抜き工事やごまかしを続けてきて、文句を言いそうな人をあの手この手でクビにしてきたから伯爵領の方であるべき補修手続きとかが分からなくなっちゃってあっちは大変だったんだって。

ウィルの言っていた愛人さんに今まで代官が手を抜いてきた工事や補修のことを教えてくれたら幾らかお金を上げると言ったら、かなり詳細に教えてくれたお陰で大分助かったって叔父上が言っていた」


なんと、あの愛人2号(愛人になった順番からいくと愛人1号らしいが)は代官が横領を始めた頃からの愛人で、初期から彼の悪事を詳細に記録していたらしい。

10年近く愛人を続けられたその手管は凄いが、その悪事の記録を気付かれぬようただひたすら記録してきたその精神力にも感心する。

裏ギルドの事務方で働いたら良いんじゃないかな。

細かいことを厭わず、口が堅い事務方に向いた人間なんてあまり居ないからな。


次に盗賊シーフギルドの長に会ったら彼女のことを言及しておこう。

小さな街では悪事を働いた代官の元愛人というのもあまり居心地の良い立場じゃないだろうが、もう若くも無いのに生活費が高い王都や他の大都市へ引っ越すのも厳しいだろう。


「そう言えば、防寒・防御結界の魔道具は無事シェフィート商会に売りつけたけど、次はどうする?」

アレクがクッキーに手を伸ばしながら聞いてきた。


防寒・防御結界は2種類の結界の魔石と回路を別にしたことが幸いして、かなり広い客層に向けて売れそうだとアレクの兄貴が喜んでいた。

それなりに収入になったので暫く好きなことをしていても良さそうだ。


「おばあさまの所の傍の廃墟でまた考古学者たちの手伝いしに遊びに行くのはどう?」

シャルロが提案した。


「ほ~。

またケレナがあちらに行っているのかい?」

アレクがシャルロをからかう。


「そう!いい加減、社交界で夜会やお茶会に出るのに飽きたから、ケレナも廃墟で手伝いしたいって言ってきたんだ」


マジかよ。

貴族のお嬢様にあんな埃っぽい廃墟で手伝いが出来るのかね?

まあ、ケレナは平民のような格好をして馬や鷹を訓練しているらしいから、平気かも知れないが。


「・・・そうなんだ。

まあ、あの廃墟にはまた行きたいところだったし、そうしようか。今回の防寒結界を付けていけば廃墟の中でもあまり寒い思いをしないで済むだろうし」

臆面無いシャルロの言葉に一瞬あっけにとられたアレクだったが、軽く肩を竦めて合意した。


「そうだな。防寒結界があれば空滑機グライダーでの移動も辛くないだろうし。

久しぶりに廃墟でぷらぷらするか」

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