第14話 星暦552年 紫の月 3日 呼び出し(4)
光と闇の神殿長と学院長だけと言うメンバーでの突撃には・・・流石にならなかった。
もしもそうなったら俺はどうするべきなのか、悩んで損したよ。
とは言え、光の神殿の神殿兵5人と近衛兵10人ってそれ程多いとも思えないけど。
まあ、悪魔と言う最大戦力を学院長と神殿長達が押さえる予定なのだ。相手側も悪魔に加えて純粋な物理的な兵力をそれ程沢山は集めていないだろう。
親に秘密でこっそりやる為に、悪魔を呼び出したんだし。
多分。
願わくは。
神殿兵と近衛兵相手に戦うと言うのは宗教および国家に対する謀反を意味する。
向こう側の兵も余程の覚悟が出来て参加しているのでない限り、剣を向ける事を躊躇する可能性も高い。
ちょっと毛色の変わったお家騒動程度に思って雇われているなら、近衛の制服を見た段階で降伏するだろう。
バアグナル家の別邸は静かな貴族街にあった。
その隣の家に光の神殿長の権限で押し入った(『至急の事態が生じた。庭を借りる』で押しきっちゃうって・・・。本当は神殿ってそんな権力ないはずなんだけど、あのバーさんの迫力はそこら辺の貴族に太刀打ちできるもんじゃあない)俺たちは、突入前の作戦会議を開いていた。
「ウィル。何が視える?」
基本的に黙って学院長の後を付いてきていた俺に学院長が突然振り返って尋ねた。
目を閉じて、隣の邸宅へ
「武装している人間が・・・5、6・・・いや、7人。使用人らしき動き回っている人間が5人。
地下に纏めて拘束されているらしき人間が5人。2階の正面に面した部屋に・・・3人の人間と『何か』がい・・」
『ウィル!!』
バシャ!!
その『何か』から俺に向けて力が発せられるのと、清早が俺の周りに水の結界を張るのとはほぼ同時だった。
結界が殆どを遮ったものの、余波の一部が直撃して俺は頭を抱えて地面にうずくまる羽目になった。
「ってぇぇぇ!」
「闇の安らぎと守りを!」
闇の神殿長の声が響き渡り、バアグナル家から放たれた力がかき消された。
「どうやら、2階の正面の部屋にその大悪魔とバアグナルの小倅がいるようだね。
神殿兵は私たちと共に。
近衛兵は敷地内の兵力を無力化し、地下に捕まっている人を助けなさい」
光の神殿長が凛々しく命令を下した。
何か、イメージとして光の神殿が人を守り、闇の神殿が戦うって言う風に想像していたんだけど、どうも光が戦って闇が守り??
少なくとも個性としてはこの光の神殿長の方がずっと好戦的みたいだなぁ。
さて。
俺はどうすべきなのだろう?
ここで神殿長達に名前を覚えてもらえればいつか役に立つかもしれないが・・・大悪魔との戦いに俺が役に立てるとも思えないし、あまり危険な戦闘の傍には居たくない。
大人しく近衛兵たちに付いて行って鍵開けの手伝いでもした方がいいよな?
「ウィル。こっちだ」
さりげなく近衛兵たちの後に付いていこうとした俺に学院長が声をかけた。
ちっ。
◆◆◆
「ヨレトール神の名の下に命ずる!悪魔を召喚したザカリー・バアグナルを擁護することはならぬ!」
光の神殿長がずんずんとバアグナル別邸の中を進んで行く。
使用人はさっさと神殿兵と近衛兵を見たら姿を消し、兵たちは・・・何人かは剣を振り上げてきたものの、殆どは神殿長の迫力に負けて降伏していた。
強いねぇ。
光の神殿ってこんなところだとは知らなかった。
2階に上がり、『何か』がいる部屋に向かう。
これだけ近くなったら俺じゃなくてもその『存在』を感じられるらしく、神殿長達も学院長も俺に確認しようともせずに進んで行く。
・・・ますます、俺必要ないじゃん。
そのままの勢いで扉を押しあけそうだった神殿長に流石に不味いと思ったのか、神殿兵が走って行って先に扉を開く。
「ヨレトール神!この次元にあるべからず存在を消し去りたまえ!」
おいおい。
そんな術ってあるの??
なんて思って聞いていたら、突然神殿長の横に光り輝く手のひらサイズの鳥のようなものが姿を現し、チェス台の横に座っていた存在に対して強烈な光を発した。
「おやおや。私はこれでも招かれてきたのだがね。彼は私の糧なんだよ。いいのかい、私を攻撃して?」
それが片手でその光を受けとめながら尋ねる。
「がはっ・・・」
チェスで対していた男が椅子から呻きながら崩れ落ちた。
どうやら、悪魔はダルス・バリダスから防御の為のエネルギーを引き出しているようだ。
「ルシャーナ神!御身の愛し子を守りたまえ!」
闇の神殿長の声にこたえ、闇がダルス・バリダスを取り囲み、姿を隠した。
これって知らなかったら闇にダルス・バリダスが喰われたみたいで怖いぞ・・・。
「ちっ。光だけでなく、闇の神殿長本人が現れるとはね。最近は神に直接願い事の出来る神殿長も減ってきたという話だったのにまだまだこの次元は見捨てられていないと言うことか」
悪魔が小さく舌打ちをしながら部屋を見回す。
一瞬、その目が俺に止まった気がして心臓が止まるかと思ったが、清早が突然俺を抱きかかえるような形で具現化してくれた。
「ありがと」
『どういたしまして。あんなのにウィルを浚われるなんて、許せないからね』
「ふん、つまらん。出かけ駄賃にお前だけでも貰っていくか」
部屋の奥で机の前に座っていた蒼白の男に悪魔が手を差し出す。
「ぎゃぁぁぁっぁ!」
まるで臓腑を抉り取られているかのような悲鳴が響き渡った。
・・・抉り取られたのは臓腑じゃなくって魂だったけど。
初めて魂が体から引き抜かれる姿って言うモノを見た。
「本当はそちらの彼の方がずっと面白いと思うんだけどねぇ。怖い守り神が2柱も現れたようだから、諦めるとするよ」
そんな捨て台詞とともに、悪魔の姿がかき消えた。
・・・。
消えたふりかも・・・と疑って誰もが暫くの間は警戒を解かなかったが、やがて大きく息を吐き出して光の神殿長がソファに座りこんだ。
「光よ、結界たれ」
神殿長の横にいた光の鳥が小さな光の粒へと姿を消し、屋敷全体を覆う結界に姿を変えた。
闇の神殿長がダルス・バリダスの横に行き、いつの間にか闇から姿を現していた彼を椅子へ助けていた。
ふう。
何か、想像していたよりもスケールが大きかったと言うか、あっけなくあっという間に終わったと言うか・・・。
何とも言えん。
はっきり言って、神の奇跡がこんなにあっさり都合よく見えるものだとは思わなかった。
それともあれって奇跡ではなく、神殿長達の術なのだろうか?
ふと、魂を引きずり出された体の方へ目をやると・・・そこに在ったのはまるで土くれの模型だった。
かなり濁って美しくない光を放っていたとはいえ、魂が無くなった体は明らかに抜け殻という感じだ。
ちゃんと人間としての色彩があるのに、まるでそこだけ色が存在しないかのように視える。
まあ、俺の見方が特殊なのかもしれないが。
「さて。
残った唯一の首謀者として、何が起きたのか説明してもらおうか」
部屋に残っていたもう一人の男に学院長が穏やかに声をかけた。
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