125話 魂喰、もしくは雷刀のこと

魂喰、もしくは雷刀のこと








夢を見ている。


・・・ということを自覚している。


俗に言う、明晰夢ってやつだろう。


しかも悪夢だ、たぶん。


空気でわかる・・・なんか暗いもん。




・・・おかしい、俺には対悪夢用最終兵器もこふわサクラシールドがあるはずだ。


なんで今日に限ってこんな所に・・・


あ、疲れてるからかな。




周囲は暗闇に閉ざされている。


ある一点を除いて。




かぁん




かぁん




鉄を打つ音が聞こえる。


暗闇の中に、ぼうっと光る場所から聞こえてくる。




とりあえず行ってみようかな。


他に目印ないし。






そこにいたのは、隻腕の老人だった。


大昔の刀工の服を着た老人が、一心不乱に赤熱する鉄を打っている。


隻腕に、血がにじむほど槌を握りしめて。




・・・これあれじゃん。


絶対、庚迅雷大先生じゃん。


『魂喰』制作者の。




『・・・わっぱ』




うおうびっくりしたァ!?


え、俺?


わっぱっていう年齢じゃないんですけど・・・


あ、向こうは何百年も生きて?るんだよな、幽霊だとしたら。


そりゃあ俺なんてちんちくりんの糞餓鬼ですわ。




・・・そして参った。




礼儀として答えようとしたがなんか口が動かん。


頑張れよ俺の体!悪霊?の機嫌を損ねたらどうする!?


祟りフルコースとか嫌だからね!!




『・・・お主はどうして刀を握る』




ひええまた話しかけられたァ!!


だから口が動かないんですって!許してください迅雷様ァ!!




「・・・こ」




アレ動くわこれ。


やったぜ。


・・・でもなんて言えばいいやら・・・


変なこと言ったら倍率ドンで祟られそうだし。




俺の・・・理由か。


俺の・・・理念。






ゆかちゃんの顔がふと、浮かんだ。






・・・そうか。


だったら、これだな。






「―――『殊更卒爾、粗野、鬼畜の者。また無辜の民に享楽の刃を振るいし者、生きて帰すべからず』」






これしかない。


借りものだけど。


・・・お気に召すといいなあ。




しばしの沈黙。


槌で鉄を打つ音だけが響いている。


・・・どうだ?




老人はゆっくりと顔を上げ、俺の方を見つめる。


その虚ろに見えた眼光の奥には、消えることのない燃え盛る炎のような意思があった。




・・・すっげえ迫力。


刀工じゃなくて武芸家ですって言われても信じるぞ、俺。






『―――であれば、斬れ。外道を、鬼を、畜生を・・・一切合切斬ればよい』






そう言ってその老人は・・・少しだけ。


ほんの少しだけ、微笑んだ。




『懐かしきことよ・・・まだ残っておったか、南雲を冠する武士が。まこと、数奇なことよな』




何か言ってるみたいだけど後半全然聞き取れないんですけど・・・うおまぶしっ!?






「へぅ!?」




腹に受けた衝撃で急激に覚醒。


な、なんだ!?襲撃か!?


誰だ俺の腹に乗ってるのは!?




「ぎゃう!くるるるぅ!」




・・・なんだレッサーパンダか。




「あの・・・もうちょっと優しく起こしてくんないかなあ・・・知ってるかいレオンくん?優しい男ってのはモテるらしいぜよ?」




「きゃぁう!」




のそのそと胸の上に乗ってきたレオンくんが、俺の目の辺りに執拗なレッサーパンチ。


地味に痛い。




「起きる起きる起きるからゆるして」




上半身を起こして無理やりレオンくんを抱っこする。


まったくいつもいつもこのレッサーパンダは・・・一応怪我人なんだぞ俺は。




「あれぇ?」




・・・痛みが昨日の半分くらいになってるんですが?


映画とか見てリラックスしたのがよかったのかな?


それとも特製カレーの効能だろうか。




「あー・・・なんか怖い夢を見ていた気がするんだけど・・・全然記憶にねえ」




なんか・・・大層おっかない人が出てきたような・・・ううむ、わからん。


レオンくんの腹パンどころか腹ドンで忘れちまったらしい。


まったく罪なレッサーパンダだぜ。




「きゅるう!るるるるぅ!」




・・・可愛いから許しちゃおうかな!




「おにっ!おにーさぁああん!!!」




「うお!?」




「ぎゃう!?」




突然乱暴にドアを開け、由紀子ちゃんが入ってきた。


・・・どうしたどうした朝っぱらから。


その後ろには青い顔の小鳥遊さんまで。


お久しぶりでーす。




「よがっ・・・」




ヨガ?




「よがっだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」




「いぎゅん!?!?」




由紀子ちゃんは凄まじい勢いで、俺に向かって飛びついてきた。


がああああ全身に波紋のように痛みがあああああああああああああ?!?!?!?!?


おちついて!おちついてえ!!




「うぐうううううううう・・・!!!」




俺にしがみついてわんわん泣く由紀子ちゃんを無視し、小鳥遊さんに目線を送る。


誰か説明してくれよォ!?




「あの、田中野さん・・・お体の具合はどうですか?」




「現在進行形で骨が砕けそうですう・・・あ、あの、由紀子ちゃんはなんで!?」




おい由紀子ちゃん!


背中に回した手同士をロックさせるんじゃないの!!


それはもうハグじゃなくてベアハッグなんよ!!!!




「田中野さん、その・・・3日も起きなかったので」




・・・3日?


3日ってのはつまり・・・72時間じゃな?


ふむ・・・


ほう・・・




「3日ァ!?」




どうりで体が楽だと思ったよ!!


そんだけ寝てればなあ!!


あと今意識したからか・・・むっちゃくちゃお腹が空いているで御座候!!


由紀子ちゃんに抱きしめられてるけどグーグー鳴ってるから!




「マジか、8時間くらい寝たなあ・・・みたいな感想なんですがね」




「・・・でもよかったです、その、お元気そうで」




俺の間の抜けた答えに、小鳥遊さんは笑顔で返してきた。


優しさが心に沁みるんや・・・




「うえええん!よがっだああああ!!!」




そしてキミのハグは骨に沁みるんや・・・




「おーよしよし、この通り超元気だからな。心配かけて悪かったね」




唯一ハグから逃れている右手で、由紀子ちゃんの頭を撫でる。


あっ・・・これ子供扱いしすぎかな・・・でも俺から見ればJKは子供だしなあ。


ジャンル的には美玖ちゃんたちと同じ。




「田中野っ!田中野さんっ!!」「おじさん!」「おじちゃーん!」「わふ!あおぉん!!」




おっと・・・やべえ、増援が来たぞ。


だが神崎さんは大人だ、由紀子ちゃんみたいに飛びつかずにみんなをなだめてくれるだろう。


・・・うん、きっとそうに違いない。




俺に向かってタックルでもするかのように加速してくる神崎さんを見ながら、俺は現実から逃避することにした。


・・・はい無理!!








「はいおにーさん!食べて食べて!!」




「もがごごごごご」




「田中野さんっ!お水どうぞっ!!」




「むむめめめめめ」




食料と水が交互に口へ押し込まれる。


・・・新しいジャンルの拷問かな?




由紀子ちゃんと比奈ちゃんが、泣き腫らした目で続々と口に押し込んでくるのだ。


・・・心配かけたから仕方ないけど、ちょいと苦しい。


後ろに見える食料から逆算すると・・・俺は牛くらい食うと思われているのかもしれん。




・・・たすけて神崎さん!フォアグラにされちゃう!!




後ろに控える神崎さんに必死でアイコンタクトするも、彼女はにっこり笑ってカロリーバーを持ち上げた。


・・・デジャブゥ!!!






どうやら3日間スヤり続けた俺を、みんな大層心配してくれていたらしい。


美玖ちゃんは泣くし、おっちゃんにはげんこつを喰らうし、葵ちゃんはポロポロ静かに涙を零すし。


保育園組は泣き叫ぶし、璃子ちゃんは半泣きで肩をバンバン叩くし、大木くんはよくわからないダンスをレオンくんと踊るし。


・・・マジで大木くんは何してんだ。




まあそんなわけで騒動も落ち着き、俺は生まれたての雛鳥よろしくひたすら給仕されているというわけだ。




いやね?体も元気になってきたから自分で食うとは一応言ったんだよ?


それに対し由紀子ちゃんは『ヤダーッ!!』って叫ぶし比奈ちゃんは『お断りしますう!!』って泣くし。


ははは、泣く子とじ・・・じじ、地雷?には勝てんとはよく言ったものである。


甘んじて受けることとなった。




JKに餌付けされる30代無職男性(宇宙海賊型傷跡付き)、かあ・・・


うん、深く考えると死にたくなるから考えないことにしようっ!!




「まったくもうっ、布団に入れるほど刀が好きなんて・・・おにいさんらしいねっ」




由紀子ちゃんの声に視線を落とせば、なるほど俺の横に鎮座する『魂喰』


・・・寝る前に触った覚えがないんですけどォ!?


えっなんで?


傷付けたらいけないから・・・たしか机の上に安置したはず・・・なんだけどォ!?


こわ、考えないようにしとこ。








咥えた煙草に火を点ける。


ゆっくり吸うと、紫煙が喉を通って肺に落ちていく。


しばし堪能し、またもゆっくり吐き出す。


頭がズンと重くなり、体から力が抜ける。




「ぶはぁああ~~・・・う、うめぇえ~~~~~」




吐き出した煙は、澄み渡る青空にゆっくりと溶けていった。


はあ~・・・うま、世界一おいしい。




屋上の床に背中を預け、大の字になっている俺。


都合4日・・・5日?振りのニコチンが効きすぎるぜよ・・・




耳を澄ますと、階下からの楽しそうな声が聞こえてくる。


ううむ、大所帯。


陸郷さんとチェイスくんは俺がスヤスヤしている間に帰っちゃったらしいけど、それでもおっちゃん一家がいる。


ついでにすっかり子供たちのアイドルになったレオンくんも。


流石人気投票上位常連だっただけのことはある。


一挙手一投足が・・・なんというかあざといのだ、彼は。




「アニマルセラピーって効くんだなあ・・・」




サクラやソラ、そしてレオンくん。


そしてこの前までいたチェイスくん。


彼らのお陰で、子供たちは以前とは比べられないくらいに明るくなった。




「でもな、その先がな・・・」




明るくなったが・・・それでも闇は深い。


そりゃそうだ、彼らは『ふれあいセンター』で・・・それこそ地獄を見たのだ。


大人でもトラウマ必至という状況なのに、年端も行かない子供なのだ。


自分たちを守るために、大人たちは死に・・・同じ子供たちも何人か死んでしまった。


その絶望は、どれほどのものだろう。




現に、まだ何人かは・・・七塚原先輩や巴さんにしがみついていなければ夜に眠ることもできない。


加えて、電気は点けっぱなしでないといけない。


闇が、酷く恐ろしいそうだ。




「・・・時間薬に頼るしかない、なあ」




全ては時間が解決する―――というか、時間でしか解決できない。


体の傷と違って、心の傷は回復するまでに膨大な時間がかかるのだ。




傍らに置いていた『魂喰』を持ち、目の前でゆっくりと引き抜く。


・・・や、なんかこう・・・手元に置いておかないといけないような気がして・・・




青空をバックにした刀身は、変わらずに美しい。


優美ではない、ないが・・・言葉にできない美しさがある。




「だから俺は、あの子たちが治るまでの時間を・・・作ってやらにゃ、なあ」




俺にできる数少ない事の1つだ。


俺は医者でもないし保育士でもない、カウンセラーでもない。


だからせめて・・・あの子たちがこれ以上何も心配しなくてもいい時間を、作る。


そうすれば、他の誰かがきっと心を癒してくれるだろう。


巴さんだったり、璃子ちゃんだったり。


あの子たちに寄り添える存在が。




「・・・子供がただただ 殺されるようなことだけは、あっちゃいけねえんだ。それだけは、決して」




この世界にどれほどの子供がいるかは知らん。


その全員を、守ることはできん。


だが―――


あの海で会ったおじさんたち、その中の1人が言ってたじゃないか。






『俺たちがここで子供をさ、助けてたら・・・ウチらの嫁さんや子供たちも、どっかの誰かが助けてくれてるような気がするんだよ・・・はは』






俺も、そう信じたい。


俺たちだけじゃないはずだ、そう考えているのは。


こんなくそったれな世界でも、絶対にいるはずだ。


だからそれを信じて―――俺は、俺の周りを全力で守る。




「身軽に生きたいなんて思ってたけど、助けちゃったもんは仕方ないよなあ」




この現状は、俺が行動したことの結果だ。


俺が、俺がそうしたいから・・・そうした結果だ。




「だったらこれは・・・やりたいことで、やらなきゃいけないことだ」




雲一つない青空を見つめる。


咥え煙草の煙が、ゆらゆらと昇っていく。


それを見ながら納刀した。




「完璧に使いこなしてみせるからな、ヘッポコかもしれんけど・・・よろしく」




『魂喰』に、そう告げる。




ちり・・・と不可思議な鍔鳴りのような音がどこからか聞こえたのは、幻聴だと信じたい。








「がああああああ・・・!!!」




「お、おじさんほんとに大丈夫?なんかベキベキ聞こえるんだけど・・・」




「か、構わん!俺ごとやれええ・・・!!」




「おじさんしかいないじゃん・・・」




背中、肩、腰。


体の内部から盛大にベキベキボキボキと音が響く。


3日も寝たきりだったから仕方ないが・・・ぐおお、効くぅう・・・!




あの後様子を見に来た璃子ちゃんに手伝ってもらって、現在はストレッチの真っ最中だ。


いつもなら前屈なんて一人でもできるんだが、どうもしばらくやっていなかったせいで体が硬くなっているようだからな。


健康的にはどうかしらんが、無理やりにでもほぐしておかんといざという時に動けない。


鍛治屋敷の口振りからして、今日いきなり攻めてくるということはないだろうが・・・何が起こるかわからんのが今の世界だしな。




「おじさん、ほんとに・・・ほんとにだいじょぶ?」




「んだ、大丈夫・・・っていうか今回は前ほど大怪我してないから・・・肋骨にヒビが入って足に穴がちょっと空いただけだから・・・」




「世間一般ではそれ重傷って言うんだと思うな、私」




「何を仰る、腕も足もまだくっついているじゃないか。歩けて走れて刀が振れればそれはもう五体満足だぞ」




「おじさんって時々すっごいおバカさんだと思うな、私」




呆れ顔ながら、璃子ちゃんはしっかりと背中を押してくれている。


いい子や・・・




「・・・今度さ、皆で釣りに行こうぜ」




「それほんとっ!?」




「グワーッ!?」




急に押す力を強くしないでいただきたい!!


俺はうどんの生地じゃないぞ!!




「おごご・・・うん、俺たちが治ってからだけどね。食料調達も兼ねて・・・安全な海か山にね」




いつも釣りに行ってる秘密スポットか、おっちゃん宅の近くの溜池か。


周囲は見晴らしがいいし、ゾンビはいない。


加えて頼りになる大人たちがいるからな。


いくらいい子たちばかりだって言っても、たまには気分転換しても罰は当たらんだろう。




「おじさんのナミキリノタチが見れるね!」




「・・・海水は勘弁してくれませんかな?」




凄い勢いで錆びちゃうと思うの。






璃子ちゃんのストレッチによって大分スムーズに体が動くようになったので、軽く素振りでもすることにする。


腰に差しているのはもちろん『魂喰』だ。


一刻も早く慣れないといけないからな。




屋上の隅には、『おじさんが無理しないように監視でーす!』と主張した璃子ちゃんが座ってこちらを見ている。


・・・まあ仕方ないか。




足を緩く開き、腰を落とす。




左手で鯉口を切りつつ、右手を前に。


腰を回しつつ、抜刀。


中段を薙ぐ。




・・・む?




微かな違和感を覚え、もう一度納刀。


先程と同じように・・・今度はより勢いをつけて抜刀。


速度の乗った斬撃が、同じように放たれる。




・・・ぬ?




やはり違和感。


これは・・・




「音がしない」




まじまじと刀身を見る。


・・・何故?




この刀には『樋ひ』が入っていない。


刀身に沿って掘られた溝のことだ。


別名で『血流し』と呼ばれるそれは、剛性を高めるためだとか、刺した際に相手の血を流すためだとか、空気抵抗で斬撃を重くするだとか言われている。


つまるところ、振ればいい音が出るのだ。




だがしかし、樋が入っていない刀身でも音は出る。


現に『松竹梅』の三振りは入っていなかったが音は鳴った。


もちろん、適当な振り方では出ない。


正しく刃筋を立たせたしっかりとした斬撃なら必ず音は出るのだ。




・・・でもこいつは鳴らない。




いつものように、刃筋を立てて振っているにも関わらずだ。


・・・なんで?




息を吸い、再度納刀。


今度は勢いをつけ、さらに足を踏み出して強めに抜刀する。


樋の入っていない刀でも盛大に音が鳴るであろう勢いで。




空気を切り裂いた刀身は、それでも音を発することはなかった。




・・・ほう。


・・・ほうほう。


なるほど・・・なるほどねえ。


あの『噂』も本当だったか。




曰く、『魂喰』はその別名、『雷刀』の如く。


それこそ稲妻のような速さ、鋭さで振らねば鳴ることはない。


風切り音をさせることが一種のステータスなのだ、と。


使い手の力量を如実に示すのだ、と。




「上等じゃねえか・・・!」




なんかちょっとワクワクしてきたぞ、おい。


見てろよ・・・ビュンビュン鳴らしてやるからなあ!!




「すうぅ・・・」




深く息を吸い込み、上段に構える。




「・・・っしぃいあ!!」




足元の地面よ割れろ、とばかりに力を込めて踏みこんだ。








「ちょっと!おじさん!もうやめなってば!汗が大変なことになってるんだけどっ!」




「ちょっとまって璃子ちゃん・・・もうちょっと・・・もうちょっとだから・・・先っちょだけだから・・・」




「おじさんの目が怖すぎ!顔色真っ青じゃん!!ガクガク震えてるじゃあん!!」




「ガクガク震え出してからが・・・本番・・・聖書にもそう書いてある・・・」




「邪教だよその宗教!」




ぐぐぐ、ち・・・畜生。


鳴らねえ。


あれだけ振り回してもウンともスンとも鳴らねえ。




着ている服は汗でびしょびしょだ。


何かする度に全身に痛みが響く。


完全なオーバーワークだ。


だが、だがそれでも・・・


俺は退くわけにはいかん、いかんのだ。




「こ・・・これはアレだよ、男と男の勝負・・・勝負だから・・・」




「わけわかんないよー!っていうかその刀はオスなの?・・・ぴゃあ!?おじさん、足の傷開いてる開いてるっ!ねえねえもうやめてって!!」




あと少し・・・もう少しで何か掴めそうなんだ。




「あと1回ィ・・・」




「それもう125回目なんだけど!!」




・・・律儀に数えてたらしい。




「じゃあ・・・キリがいい・・・とこで・・・あと75回ィ・・・」




「おじさんのIQが馬鹿みたいに低いっ!?」




そりゃIQが低けりゃ馬鹿なんじゃないの?




震える体に鞭を入れ、居合の体勢に入る。


やめなよーっと涙目の璃子ちゃんが、間合いギリギリのところで説得している。


・・・ぶっちゃけあと1回しか振れなさそう。




息を整え、痛みを無視する。




足を回し、腰を回し、発生する全ての力を刀に注ぎ込む。


疲れ果てている分、余計な力が入っていないのがよかったのだろう。


今日一番の鋭さで、鞘から刀身が射出される。






―――ひゅお。






まるで何のことはないように、刀身が涼やかな音を立てた。




「や・・・やっ・・・た、ぜ」




それが幻聴でないことを祈りつつ、屋上に尻もちをついた。


もう腕が棒のようだ・・・


だが、凄まじい達成感がある。


この感覚を忘れないようにしとかないとな・・・




そう思って見つめた刀身は、何かを訴えているように光を反射していた。






なお、その後神崎さんに無茶苦茶怒られて3日間の稽古禁止を言い渡された。


・・・ぎゃふん。

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