111話 がんばれ森山さんのこと 後編

がんばれ森山さんのこと 後編








「えーとあのスーパーがこの先だから・・・よぉーしっ!後少しで到着します!頼みますよォ!遠距離要員!!」




相も変わらず放置車両だらけの市街地を、我が愛車は疾走する。


襲撃されているであろう、詩谷中央図書館を目指して。




道は・・・前に来た時と全然変わってないように見えるな。


が、ビルの上やオフィス内に前にはなかった生活の痕跡がチラチラ見える。


市民の皆さんもこの環境に順応してきたってことかな。


・・・頼むから突発的に襲撃とかしてこないでくれよな・・・?


今は余裕がないんだからさ。




「はいっ!」




「オマカセ!!」




助手席と荷台から、頼もしい返事が返ってくる。




ライアンさんも。森山さんも闘志は十分だな。


特に、森山さんは。


そりゃそうだろう、未来の嫁さんを助けに行くんだから。


気合が違う。




友愛の森山くんと本当によく似ているが、その目に宿す輝きは全く別のものだ。


・・・まあ、彼もこないだ久しぶりに見た時には少しはマシになってたけどなあ。




「現場を見ないと何とも言えませんが・・・ライアンさん!」




「ハイ!」




「あなたの重装甲と面制圧力が頼りですからね!初手は!」




「メン・・・?」




おっとと、流石にこれは通じなかったか。


いつも会話できるくらい日本語が上手いから、時々外人さんだって忘れちゃうな。


えーっと・・・




「ユア、ヘビーアーマー、アンド・・・お、オフェンシブパワー!トラスト!!」




「オゥ!!ガッテンショウチ!!」




・・・通じたからいいや!


俺は国文系なんだから!




黒光りする装甲板を持ち上げ、大きくサムズアップしたライアンんがミラーに映る。


そう、現在の彼は正に重装甲兵である。




何かの鉄板を応用したらしき、体の正面と急所を覆うアーマー。


警察の盾を使ったヘルメットも、どこか某ロボ警察くんを思い出させる感じだ。


アレと違うのは、口元も露出してないってところだな。




加えて、前にも見た厳ついマシンガンにも鉄板が装備されている。


正面から見たら、装甲板の中心から銃口が飛び出ているように見えるだろう。




見た感じは・・・歩く砲台そのものだ。




・・・初めに見た時はびっくりしちゃったよ。


なんでも、白黒ゾンビに至近距離から銃撃をぶち込むために試作された装備だとか。


全身で何キロになるかわからんが・・・ライアンさんは普通に着こなして?いる。




『走るノ、チョットしんどい・・・デス』




なんて笑っていたが、普通の人間はまず動けないと思うの。


さすが七塚原先輩と互角のパワーだぜ。


俺なら着込んだ瞬間にカタツムリ並みの速度でしか動けなさそう。




まあとにかく、ライアンさんは現在我が愛車以上の防御力を誇っているわけだ。


派手にぶっ放してもらって、敵の目を引き付けていただこう。




俺と森山さんはノーマル防弾チョッキとヘルメットだしな。






そうこうしているうちに車は進み・・・目的地はもう目前だ!




「あの信号を左折すると、左手に図書館が見えてきます・・・見えた瞬間にもう撃ちまくっちゃってください!」




「了解!」




「ラージャ!!」




このままいくと、軽トラの左側面が相手方に向く格好になる。


頼むぞ・・・


まだ侵入されていないといいなあ。




風に乗って、銃声が響いてくる。


おお、やってるやってる。


間に合ったか!




ドリフト気味に交差点を左折すると、図書館が見えてきた。




「うお!?やることが派手だねぇ!」




図書館前方の駐車場に、鉄板をゴテゴテ張り付けたバスらしきものが5台見える。


その後ろ・・・道路側には、筒状のものを持った集団の姿も。




図書館の窓からは、時々発砲炎が見える。


撃ち合っているな。


まだ壊滅はしていなさそうだ。




よし・・・これなら絶好の横槍を入れてやれる!!




「よかった!まだ膠着状態だ!・・・行きますよォ!!」




返事を待たずに、最高速までアクセルを踏み込む。


襲撃者たちの姿が、ぐんぐん近付いてくる。


・・・たしかに、黒ローブじゃない。


なんていうか・・・チンピラの集団って感じだ。


だが、その恰好とは不釣り合いに手には雑多な銃器の姿がある。


龍宮じゃあるまいし・・・なんであんなに銃があるんだよ!?




「発射の判断はそちらに任せます!とりあえず1回は横を突っ切りますからね!!」




襲撃者が思いもしない方向からの銃撃。


奴らの練度がどの程度かは知らんが、少なくともパニックにはさせられるだろう!


銃撃の音がこれほど大きければ、俺たちの接近も気付かれないはずだ!




「あー・・・ライアンさん・・・オールウェポンズ!フリー!ユーハブコントロール!!」




「ハイ!!」




森山さんは、いつでも発射できるように・・・器用に助手席でライフルを構えている。


うん、凄い集中力だ。


避難所が手放さないほどの射撃の腕前・・・見せてもらおうか!


あんまり見てたら事故るから横目でだけど!




そして、軽トラがある程度近付いた瞬間。


まずは、荷台から轟音が響き始めた。


ライアンさんだ。


うおお・・・神崎さんの持ってる奴より腹に響くなあ、音。




俺は運転手なのであまり見るわけにはいかないが、横目で確認。


バスの影にいる襲撃者たちが、下手くそなダンスでも踊るようにのたうち回っているのが見える。




「撃ちます」




続いて、すぐ耳元で銃声。


サイレンサー的なもので音を殺しているのか、いつぞやの神崎さんの拳銃にも似た音だ。




すると、視界の隅で・・・何やら周囲に指示を出していた奴が頭をのけ反らせている。


背後のバスの車体に、ぱっと花でも咲いたかのような血飛沫が広がる。


おお・・・すげえ狙撃だ。




ライアンさんが有象無象をマシンガンでなぎ倒し、森山さんが偉そうな奴を撃つ。


道すがら考えた作戦とも言えないような作戦だが、この2人の力量ならばいけるだろう!




あっという間に図書館前を通り過ぎ、ほんの少しだけ走行してすぐの交差点を左折。


トップスピードからのカーブなので、体にかかる重力がすごい!


頑張れ!そこら辺の軽トラからもぎ取ったよさそうなタイヤくん!!




「一周して、もう一回同じ方向から行きますよ!」




「了解!」「ラージャッ!!」




頼もしい返事を聞きつつ、さらに左折。


横目に、図書館の裏側が見える・・・お。


避難民の皆様が、屋上のこっち側に固まっているのがちらと見えた。


なるほど、襲撃者は正面のみに布陣している訳か。


返す返すも、早めに到着できてよかった。




さて・・・さっきは不意打ちだから何とかなったが、今度は違う。


相手も、俺たちの存在に感付いたことだろう。


こちらばかりを気にしていては図書館からの射撃にやられるが、それでもさっきみたいなつるべ撃ちというわけにはいかんだろうな。


こちらが反撃を喰らう可能性も十分考えられる。


・・・気を引き締めねば。




図書館の裏を通り過ぎ、左折。


さて・・・もいっちょいくかあ!!




ギアをトップに入れ、アクセルを踏み込む。


ぐんと加速した車体が、風切り音とエンジン音で一層騒がしくなる。


このままトップスピードを維持したまま左折し、先程と同じことをする予定だ。




道は走りやすいので、スムーズにいけそうだ!


太田さんたちが掃除しててくれたんだろうか?


なんにせよ、ありがた・・・




「んなっ!?」




左折した瞬間、図書館正面の角からこちら目掛けて装甲バスが突っ込んでくるのが見えた。


畜生!あっちにも判断が早いやつがいるようだな!!




「とりあえず反転してやり過ごしm」




「いえ!そのままでっ!!」




咄嗟にハンドルを切ろうとした俺を、森山さんが止める。


彼は・・・おいおいおい!そのまま窓から身を乗り出してライフルを構えた!?




「真っ直ぐ・・・そのまま真っ直ぐです!任せてください!!」




その声に、俺も腹を括った。


よし、ぶつかる寸前までは行くか!


チキンレースの始まりだ!!




装甲バスは、バンパーやら車体やらがいかにも硬そうに補強されている。


だが、さすがにフロントガラスまで塞ぐわけにはいかないのか運転手がよく見える。


やはり、黒ローブではない。


が、ただのチンピラとも思えない。


今まで戦ってきた奴らと違って、判断力に優れすぎてないか?




そんなことを考えていると、装甲バスのフロントガラスに蜘蛛の巣状のヒビが入った。


森山さんの銃撃だ。




だが、その状況にも運転手は動じていない。


やはりこいつら、ただのチンピラじゃねえな・・・!!




「・・・ふぅ」




森山さんは、素早くライフルのボルトを操作し薬莢を放出。


すぐさま発砲した。


それを、何度も正確に繰り返す。




装甲バスのフロントガラスが再び破損。


運転手の頭が仰け反るのが見えた。


続いて、その体が胸から座席に叩きつけられる。


血が飛び散るのが見えた。




・・・頭と胸を正確に撃ち抜いたのか!?


森山さん・・・すげえ!!


そら避難所も手放したがらんわ、こんな腕前!




驚愕している俺をよそに、装甲バスが突然右に傾く。


なんだ!?一体何が・・・


・・・タイヤか!タイヤを撃ち抜いたのか!?




運転手を失った装甲バスは、右に傾きながら正面衝突コースから外れていく。




「・・・よし」




小さくそう呟いた森山さん。


それと同時くらいに、装甲バスとすれ違った。




バックミラーで確認すると、ガードレールに衝突した装甲バスは豪快に横転。


・・・さっきまで走ってきた道を塞ぐように、横になってしまった。


あらら、もう何周かしようと思っていたが・・・どうやら無理らしいな。




「・・・予定変更!銃撃の後に死角に停車します!!」




そう言うと、俺はトップスピードで左折した。




再び図書館正面に戻ってきた。


当然だが、装甲バスは1台減っている。




何人かが俺の方へ銃を向けようとしている。


おっと!もうこちらをターゲットにしたか!




今度は先程よりも早く、ライアンさんが射撃を開始した。


バタバタと薙ぎ払われるように、こちらを撃とうとした奴らが何人も倒れ始める。




森山さんも、身を乗り出したまま発砲。


若干偉そうな奴らが、銃声と共に頭を撃ち抜かれて倒れている。


指示を出す奴を的確に狙っているな。


・・・神崎さんより射撃が上手い人、はじめて見た。




そのまま銃撃を加えながら、図書館前を通過。




何発かこちらに向かって発砲されたが、運のいいことに俺の愛車は無傷・・・




「うおっ!?」




助手席側のミラーが壊れた!!


畜生・・・まあいいや!森山さんに怪我はないようだし!


今度もっといいミラーを調達してやるからな!




今度は左折せず、図書館の隣にある無料駐車場に入る。


図書館方面からは狙えない位置に停車した。




「じゃあこっからは徒歩で行きましょうね!」




運転席から兜割を引っ掴んで降りる。


このままUターンすれば、右側面が向く方向になるので攻撃力が減っちまうしな。




「ハイ!」




どずん、という重々しい音と共にライアンさんが荷台から飛び降りてきた。


その装甲には、表面に着弾の痕が見えるが・・・中身は大丈夫そうだ。


即席重装甲、すげえ。




「森山サンは、ワタシの後ろニ!」




「了解!」




ライフルの弾倉を交換しながら、森山さんもやる気満々である。


さて、こっからは俺も働かないとな。




「じゃあ、作戦会議といきましょうか」




俺たちは、円陣を組んで手早く話し合った。








「また来やがった!」「撃て撃て・・・っが!?」「先頭のアイツ、一体なんなんだ!銃弾が効かねえぞ!!」




襲撃者が悲鳴を上げているのが聞こえる。


ライアンさん、無茶だけはしないでくれよな。


俺は兜割を背負って移動を開始した。




作戦とも呼べない作戦の詳細はこうだ。




ライアンさんたちが、図書館の側面から柱を壁にして銃撃。


それに気を取られているうちに、俺が奴らの死角を移動して逆方向から攻撃を加える。


2人は最後まで自分たちの後ろに隠れていろと主張したが、遠距離において俺は完全に役立たずだ。


ああまで大見得切ったんだ、俺も少しは貢献しないとな。




奴らは完全に2人に気を取られている。


移動するなら今だな。




・・・ということで、俺は装甲バスの側面にいる。


図書館側の方だ。




間違って撃たれたら今世紀でランキング入り不可避の馬鹿な死に方をしそうなので、図書館の窓にだけ見えるように白いタオルを振り回す。




すると、3階の窓に見知った顔が見えた。


遠くて微妙にわかり辛いが、太田さんだろう。


彼は、周囲の警官に何事か叫んでいる。


『味方だから撃つな』とでも言っているんだろう・・・そう信じたい。




しばらく見ていると、太田さんが俺にだけ見えるような角度でサムズアップした。


・・・よし!


じゃあお仕事はじめますか!




足音を極力立てないように、装甲バスの横を走る。


攪乱のつもりか、警官たちが派手に撃ってくれている。


装甲が張り付けられているので、窓から俺の姿は確認できないだろうが・・・それでもチンタラ動くわけにはいかん。




手前から4台目のバスに着いた。


そのまま回り込むのではなく、俺は張り付いた装甲板の隙間を掴んでバスを登る。


ひょっとしたら察知されとるかもしれんしな。


意表を突かねば。


天井に登り、こっそり裏の奴らの声を聞く。




「駄目だ!このままじゃ撃たれっぱなしになる!バスを動かせ!」「そうしたら図書館側から撃たれちまうだろ間抜け!」




・・・よし、俺は気付かれてはいないな。


俺は、天井を蹴って向こう側へ跳んだ。


空中で兜割を構えつつ、裏側を確認。




「・・・はぇ?」




裏には、生きてるやつが5人。


ライアンさんたちの銃撃によって、大変なことになった死体の中にいる。


その内の1人が、空中の俺を見て阿呆面を晒している。




・・・キミに決めたァ!!




「ぬぅ・・・ん!!!」「へぎ!?」




落下の勢いを乗せ、兜割を打ち下ろす。


俺を撃とうと宙に向けられつつあった猟銃を破壊しながら、兜割は真っ直ぐ奴の首筋に叩きつけられた。


骨の折れる感触が、手に届く。




白目を剥き、崩れ落ちそうになるそいつの手前に着地。


間髪入れずに、弛緩する体を片手で保持する。




「なん!?」「おま・・・!」「敵っ!!」




どよめく声を聞きながら、肉壁にしたそいつを・・・蹴り飛ばす!




「うが!?」




側面のライアンさんたちと図書館からの銃撃を警戒し、身を寄せ合っていた奴ら。


こうも密集してちゃ、咄嗟に撃てまい!!


すぐさま十字手裏剣を取り出し、最も遠くにいる奴に投擲。




「あぎ!?」




右目に着弾するのを見つつ、次!




「かひゅ!?」




2枚目の十字手裏剣が、その横にいた奴の喉に突き刺さる。


それと同時に、限界まで姿勢を低くして突進。




「っふ!!」「あがぁ!?」




残る2人の近い方・・・そいつの足を刈り取り、地面に引き倒す。




「っこのぉ!?」




最後の1人が、手に持った拳銃を俺に向けろうとする。




「っはぁ!!」




下段から伸びあがるように兜割を振り、その銃身をぶっ叩く。




「いぃい!?」




今まさに発砲しようとしていたのか、引き金を引こうとしていた人差し指がトリガーガードに引っかかってへし折れる。




「しゃぁあっ!!!」「おぼ!?」




引き戻した兜割を突き出し、切っ先を悲鳴を上げるその口にねじ込む。


突き刺さった兜割から手を離しつつ、後ろ腰の脇差を抜刀。




「いぎゅん!?」




足を刈り取って引き倒した奴の喉を切り裂いて息の根を止める。




「うが・・・ああ!あああああ!!」




右目に手裏剣を突き刺した奴が、吠えながらライフルを持ち上げる。


足元に転がっていた散弾銃を掴み、大体の狙いを付けて伏せながら引き金を引いた。


いつも撃っている拳銃とは違う、重々しい衝撃、そして銃声。




「おぐ!?」




俺を撃とうとした奴の土手っ腹に、細かい円状の傷が瞬く間に発生。


吹き飛ばされるように、奴は倒れた。


・・・散弾銃ってこんななのか。


咄嗟に撃ったが、手首を痛めそうだ。


至近距離なので問題なく当たったが、遠いと当たる気がせんな。




ともあれ、これでここの奴らは全員無力化した。


兜割に口内を蹂躙され、細かく痙攣する奴からそれを引き抜く。


全員戦えないとは思うが、一応銃器を遠ざけておく。


・・・さて、残りは3台だ。




装甲バスは微妙に扇形のような陣形で駐車されているので、いきなり残りから撃たれるようなことはない。


だが、モタモタしていると応援が来そうだな。


俺は、懐から鉄パイプを取り出した。




再びバスの天井に登り、姿勢を低くしながら偵察。




「なんだよ!簡単な仕事だったんじゃねえのかよ!!」「今更ジタバタしても仕方ねえだろ!撃て撃て」「畜生!畜生!!こんなはずじゃなかったのに!!畜生っ!!」




おうおう、ピイピイ吠えてる。


だが・・・逃げ出そうとしたりする奴がいないのは、今までの奴らとは違うな。


ま、どうせ全滅するんだけど。


・・・あ、でも何人かは捕虜にしとかんといかんな。


後で考えよっか。




そんなことを考えながら、手元に握った例の鉄パイプの赤いスイッチを押す。


定期的に大木くんが作ってくれるので、在庫は武器屋が開けるくらいあるのだ。


・・・物騒な店だなあ。




ピーッと、聞き馴れた電子音。


さて、押してから3秒だったな。




「グレネエエエエエエエドッ!!!!」




そう叫びながら、奴らに向かって鉄パイプを放る。


同時に、屋根に伏せる。




「なっ」「えっ」「ひゃ」




俺の声に驚いた何人かが叫ぼうとし―――


続く言葉は、轟音にかき消された。


おお、バスが揺れる揺れる。




しばらくそのまま待機し・・・耳鳴りが落ち着くのを待ってから顔を出して惨状を確認。




「いりょくはばつぐんだ!・・・ってか」




さっきまで元気に叫んでいた奴らは、残らず地面に倒れている。


その体には、陽光を反射する金属片が所狭しと突き刺さっている。




『田中野さん!新型でーす!金属片を四方にぶちまける爆弾です~。建造物への被害が少ない、エコな逸品ですよ~!』




どこらへんがエコなのかはよくわからんが、とにかくありがとう大木くん。


バスの角度から、味方には被害が及ばなさそうなので使用したが・・・うん、楽だった。




「うが・・・ああ・・・い、いでえ・・・」




お、上手い具合に仲間の影で生き残っている奴がいる!


両足は針鼠になっているが、すぐに死ぬことはなさそうだ。


捕虜枠ゲットだな。




「ああ!?な、なんだお前!いったいなに」




屋根から飛び降り、俺を見つけた生き残りの顎を蹴り抜く。


そいつは白目を剥いて失神した。


捕虜、ヨシ!




失神したそいつをテグスで拘束しながら、様子を窺う。


これで残るは、隣のバスだけ。




「おい!今のって爆弾・・・爆弾じゃないか!?」「馬鹿!よそ見すんな!撃たれるぞ!!」「ああくそ!なんだよあの装甲板のバケモンは!!」




奴らも流石にこの爆発には気付いているようだが、ライアンさんたちと警官に気を取られてこっちまで手が回らんようだ。


さてさて・・・仕上げといきますか!




横のバスを覗き込むと、ライアンさんたちの方へ向けてひたすら撃ちまくっている。


俺の方は、気にはしているようだが視線をやる奴はいない。


兜割を担ぎ、低い姿勢で跳び出した。




「っひぇ!?おい!なんか来たぞぉおぐ!?」




初めに足音に気付いた奴が振り向こうとするが、その脳天をぶん殴って無力化。




「なにがおきょ!?」




すぐ後ろに控えていた奴も、同様に。


よし、これで2人!


残りは・・・6人!


あ、今頭を撃たれて1人死んだから5人!!




だが、若干の距離がある。


奴らは反対側・・・運転席の方へ陣取っている。


ちょっと距離があるな!




「て、てめえええ!!」




一番手前側にいる男が、振り返りながら俺に拳銃を向ける。




その瞬間、バスの側面を蹴りつけて横に跳ぶ。


跳びながら、棒手裏剣を投擲。




「っがぁあ!?」




返し付きの棒手裏剣が、そいつの銃を持つ手首に突き刺さった。


たまらず、そいつは拳銃を取り落とした。




南雲流剣術、『遠間断』!




「こっちは任せろ!お前らはそのまま撃て!!」




腕に自信があるらしい男が、マチェットのようなものを掴みながら俺に向き・・・




「随分と好き勝手やってくれたなぁあ!?ああ!?あっ・・・」




上半身を後ろから撃たれて前のめりに倒れた。


肉が弾け飛ぶ銃撃・・・ライアンさんだな。


射線が通るくらい前進してきたらしい。




「くそっ!くそおお!!」




懲りずにもう1人が、足元に転がったマチェットを取って低い姿勢で走ってくる。


あれなら、ライアンさんから撃たれることはないと確信したんだろう。




「てめえのせいで・・・何もかも台無しだぁあ!!!」




「っへ、ついでに人生も台無しにしてやろうじゃねえかっ!!」




世迷言に叫び返しながら兜割を構える。


さあ、かかってこい!!


正面からぶち殺してやる!!




「しねええええええええっ!?え!?ええええええ!?!?!」




が、そうはならんかった。




その男は、斜め上から飛来した何かに首を貫かれて横に吹き飛んだ。


不自然に首を伸ばしたそいつは、地面の上で何度か痙攣して永遠に黙ることになった。




あれは・・・鉄パイプ・・・か?




男の首を見事に貫通した鉄パイプ。


それは・・・先端を斜めに尖らせただけの、簡単なものだった。




飛来した方向を逆算し、見上げる。


屋上の端から、か?




そこには、背に同じような即席投げ槍をいくつも背負った、太田さんが立っていた。




あそこから動く相手に投げたのか・・・そういや、モンドのおっちゃんが太田さんは槍の達人だって言ってたな。


恐れ入るぜ。


身近に達人、多いなあ。




「う、うわああああ!!やめて!降参!!降参だああ!!!」




最後に残った1人が、持っていた銃を放り出して両手を上げている。


意外と潔いな。


損得が計算できる程度の脳味噌は持っているようだ。


これで・・・捕虜は2人か。




周囲を確認し、動けそうな人間がいないことを確認する。


捕虜以外は死体しかいないな。




「降参する!するから!すりゅっ!?」




喚く男に近付き、顎を兜割で殴って失神させる。


これで静かになったな・・・






「鷹目さんっ!!たかめさあああああああああああああああああああんっ!!!」






ライフルを放り出し、猛然と図書館へ走り出す森山さんが見える。


おいおい・・・いくら心配だからってライフル捨てちゃ駄目でしょ・・・


それだけ嬉しかったんだろうけどさあ・・・




図書館の方から、鷹目さんらしき人影が走り出てくるのを眺めながら・・・俺はどこか満ち足りた気分で煙草に火を点けた。

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