第83話 南雲流無双のこと

南雲流無双のこと








「っふ!」「ぎいあっ!?」




ほぼ地面に張り付いたような姿勢から、後藤倫先輩が長巻を振るう。


一瞬銀色の閃光が閃いたかと思うと、次の瞬間には黒ローブの足首が切断されている。


あんだけ低い姿勢で、よくもまああれだけ力を乗せられるもんだよ・・・




「やめぎ!?」「ひゃあ!?」「このやr!?」




その後方では、神崎さんが腰から抜いた拳銃を至近距離で発砲しまくっている。


探索の時とは違い、消音されていない銃声が周囲に鳴り響いている。


っていうかなんで全部頭部に当たるの・・・?


あんなに動き回ってんのに・・・




「見とれとる場合か?」




「んな!?何を仰いますやら・・・!!」




七塚原先輩が勢いよく背中を叩いてくる。


いや・・・見とれるっていうか俺いるかなって・・・


だが、援護に来てくれたんだ。


俺も行かねば。




俺たちは、遮蔽物にしていた瓦礫を飛び出した。






「田中野さんっ!ご無事でしたか!七塚原さんも!!」




距離が近付き、物音に気付いた神崎さんが俺たちを見て目を輝かせた。


至近距離での戦闘の影響か、返り血が凄いのでとんでもない迫力である。




「ええ、お陰様・・・っで!!」




神崎さんの背後で立ち上がった影に、咄嗟に手裏剣を投擲。


彼女の顔の真横を通過した棒手裏剣が、黒ローブの喉に吸い込まれた。




「げぐ!?っが!?」




黒ローブは、必死で喉をかきむしっている所を振り返った神崎さんに撃たれた。


額のど真ん中に穴を開け、そいつは仰け反って倒れる。




「す、すみません!助かりました!」




「なんのなんの、困った時はお互い様ですかr」




銃声。


俺の背後で呻き声がする。


振り返ると、立ち上がりかけていた黒ローブがまた倒れ伏した。


・・・後藤倫先輩に撥ねられた奴か。


あっぶねえ!




「・・・お、お互い様ですからねえ」




「はいっ!」




神崎さんは何が嬉しいのか、満面の笑みである。




「弱っちい癖に生きててえらいぞ、田中」




後藤倫先輩はどこか嬉しそうに、死んだ黒ローブで長巻の刀身を拭っている。


・・・ちくしょう。




俺たちは合流すると、お互いに背中を合わせる形で構える。


周囲には、遠巻きに俺たちを認識した黒ローブがあちらこちらに見えた。




まだまだいるなあ・・・


でもなんで一斉にかかってこないんだ・・・?


ビビってるのかな。




「銃を所持している相手は、私にお任せを」




新たな弾倉を装填したライフルを持ち、神崎さんは自信満々に言った。


・・・その全身にはいつかのように、至る所に予備弾倉が装着されている。


一人で戦争が起こせそうだ。




「しっかしまあ・・・数が減らんもんじゃのう」




べったりと六尺棒に付着した何かを払いつつ、七塚原先輩が言う。


言葉とは裏腹に、その目は爛々と輝いている、




「先輩も神崎さんも来ちゃって、高柳運送は大丈夫ですか?」




気になっていたことを聞く。


この2人がここにいるってことは、拠点の守りが手薄になるような・・・




「六郷三等陸曹が引き継いでくださいましたので、問題はありません」




りくごう・・・ああ!チェイスくんのパートナーじゃないか。




「本日、こちらの状況を確認しに来てくださいまして・・・留守番をお願いしてきました」




「すごかった神薙、田中から連絡が来たら一人で飛び出そうとして階段から転がり落ちてた」




「神崎ですっ!えええと、そ、それは・・・」




なんだそれ。


むっちゃ見てみたかった。


それにしても六郷さん・・・悪いなあ。


たぶんチェイスくんもいるし、サクラと仲良く子供の癒しになっててくれればいいなあ。




「・・・こうして膠着してても仕方ない、斬り込む」




「あっちょっと、先輩!?」




言うや否や、後藤倫先輩が適当に飛び出す。


向かって来られるのは嫌なのか、狙いを付けられた一団が慌てふためいて迎撃の体勢を取った。




「援護します!・・・田中野さん、これを!」




「うお!?」




神崎さんがそれを追うようにライフルを撃ちつつ、俺に向かって袋を放る。


なんじゃこれ。




「『新型』だそうです!使い方はパイプと同じですが効果範囲が広いらしいのでお気をつけて!!」




中を見ると、なにやら太いパイプがゴロゴロと入っている。


新型・・・大木くんからのプレゼントかあ。


さっき投げたのより一回り大きいんですがそれは・・・


使うのがコワイ。


が、この状況ではありがたい!




「うっしゃらぁ!!!」




神崎さんたちが向かったのとは逆の集団に向かい、起爆スイッチを押して思い切り投げてみる。


大きく弧を描いた軌道で、パイプが飛んでいき―――


腹に響く轟音と共に爆発した。




・・・うおお!?前のより明らかに爆炎がデカい!?




遠くの方で、悲鳴と怒号が響き渡る。


うわー・・・投げといてなんだけどかわいそう・・・ではない。




「何か・・・混ぜとるのう。金属片か何かを」




爆炎が晴れた後の惨状を見て、七塚原先輩が呟く。


目がいいなあ。


よーく見て見れば、確かにハリネズミみたいな状態になった死体がチラホラ見える。


おっかねえ・・・たしかに威力はすげえけど、使う場所を選ぶな。


子供たちの方向に流れ弾・・・流れ破片がいかないように気を付けなきゃ。


あと、至近距離だと俺もああなりそう。




「わしらぁも行くか」




「了解っす。援軍に楽させてあげましょう」




精々攪乱して、パニックになってもらうかなっと。


俺たちは各々の方角へと、瓦礫やテントの隙間を縫って走り始めた。








「うあああ!やめて!やめてくれえ!!」




手首の神経を斬られたことで、鎌を取り落とした男が俺に懇願している。


周囲には、黒ローブの死体がいくつか。




・・・大分斬ったなあ。


刃こぼれは大丈夫だが・・・脂が回ってきた気がする。


微妙に切れ味が鈍ってるな。




「げひゅ!?」




無反応な俺を見てどう思ったのか、命乞いをしつつ逃げ出そうとしたそいつの首を掻っ切る。


・・・やっぱりちょいと鈍ってるな。




「いたぞお!!あそこだ!!」「よくもやってくれたなァ!!」「仲間の仇だ・・・地獄へ堕ちろォ!!!」




おっと、新手か。


血気盛んな連中が来たなあ。


しかし減らんなあ。


ゴキブ〇と一緒だなあ。




「天上のなんとかじゃなくて地獄かよ。お前らの宗教観ガッバガバじゃねえ・・・かっ!!」




一番手前の奴に、最後の十字手裏剣を投げる。




「えきゅ!?ごおお!?おおおお!?!?」




でっかく開いた口の中に手裏剣が飛び込み、喉奥を突き刺した。


あーあー・・・もうちょい閉じてたら歯で止まったのになあ。




「おのれえぇええええええええ!!!!」




1人は仲間を抱き留め、もう一人が俺に向かう。


武器は・・・なんだそれ?


持ち手までトゲトゲのハンドガードが付いた大型ナイフだ。


刃渡りは脇差くらいある。


こんなファンタジー色溢れる武器、実在したのか。




「死い・・・ねえええ!!!!」




口調とは裏腹に、細かい丁寧な斬撃を放ってくる。


これ、ちょいと手ごわそうだな。




「っふ!!」




後ろへ跳び退きつつ、横薙ぎの牽制。


ナイフマンはそれを刃で逸らしながら、肉薄してくる。


へえ?




「おおおお!!!」




短いだけあって切り返しが早い!


手数で押し切るつもりか!




「しぃい!」




俺も刃を引き戻しつつ、またも横薙ぎ。


ナイフマンは跳び下がって躱し、すぐさま地を蹴って跳び込んでくる。




「はああ!!!」




順手での突きを躱すと、奴は空中で逆手に握り直して俺の首を狙う。


まるで手品だな!




膝の力を抜いて体を折りながら、それを躱す。


半身を開いたナイフマンの顔が驚愕に歪む。


へっ、こう避けるとは・・・思わなかったろう!!




「っしゃあぁ!!」




片足に体重を逃し、しゃがみこみながらその場で回転。


遠心力を乗せた斬撃で、踏み出された足を・・・薙ぐ!!




「ぎいい!?ああっ!?」




足首を半ば切断され、悲鳴を上げるナイフマン。


もいっちょお!!




片足を殺され、奴はバランスを崩して自由落下。




「るうう・・・ああぁっ!!!」




イイ感じに下りてきたその土手っ腹を、もう1回転して薙ぐ。


裂けたそのローブから、血が吹き出す。




覚えたか!南雲流剣術、『二連草薙』!




「あがああ!!ああああ!!!!!」




腹を押さえ、悲鳴を上げてのたうつナイフマンに見切りをつけ、残りに向かう。


あれじゃあもう立てないだろうし。




「サマギさん!?うあっ!?うあああああああ!!こんのおおおおおおおおおお!!!!!」




口に手裏剣をくれてやった仲間についていた黒ローブが、惨状をみてわめく。


その手には、槍!!




「あああああ!!!」




中々の速度で放たれる突き。




「ぬうん!!」




そのけら首に刃を落とし、下方向へ逸らす。


そのまま、槍本体に刀を滑らせて加速しつつ、踏み込む!!




「ぎぎ!?あが!?」




火花を纏った刃が、奴の親指を切断しながら首に向かう。




「ひょ!?」




首にするりと潜り込んだ刃は、血の尾を引きながら反対側へ抜けていった。




「うそだぁ・・・こん・・・な」




急激な出血でショック症状を起こし、俺に血をぶちまけながらそいつは地に沈む。


帰ったら洗濯せんとなあ・・・




口手裏剣は地面に転がって呻いていたので、首を踏み折って楽にしてやった。


振り返ると、ナイフマンはもう死んでいた。


・・・コイツだけちょいと強かったな。




新手を探そうとしていると、耳に聞き馴れた重いエンジン音が聞こえた。




「お、騎兵隊のご到着だあ」




手近な瓦礫に飛び乗って、音の方向を見る。




以前に乗ったことがある緑色の装甲車が4台。


丁度バリケードを突き破って突入してきた。


それぞれの銃座には自衛官と軍人さんが座り、腹に響くような銃撃音を響かせている。


逃げようとしていたのか、動きかけていた1台のバスがあっという間に穴あきチーズめいた残骸へと変わっていく。




うおー・・・すっごい迫力。


映画なんか目じゃないな。




周囲で銃を構えていた黒ローブがどんどん倒されていく。


うへえ、何か今上半身に大穴が開いていたような・・・


あれじゃ、防弾チョッキなんかも役に立たないなあ。




後部のハッチが開き、銃で武装した面々が飛び出してくる。


彼らはきびきびと動き、逃げ惑う黒ローブを次々と射殺していく。


殺意がマシマシだ。


そりゃなあ、以前のふれあいセンターを見ていたらそうなるよなあ。




・・・んん!?




見間違いじゃなければ、八尺鏡野さんっぽい人がそれに交じって走っているように見える。


・・・嘘でしょなんで指揮官が。


宮田さんタイプかあ、あの人も。




「・・・口がきければいい!撃て!撃てぇえ!!」




・・・風に乗って声まで聞こえてきた。


おっかねえ・・・そういえばかなり怒ってたもんな、八尺鏡野さん。




黒ローブたちも遮蔽物を挟んで反撃しているが・・・練度がまるで違う。


あっちは任せておいて大丈夫かな。


先輩方と合流しとこう。


神崎さんと一緒にいないとうっかり撃たれそうだし。




「・・・ん?」




そう思って振り返ると、妙な一団を見つけた。


微妙に刺繍の施された黒ローブたち。


それを囲うように通常の黒ローブ。


・・・中心はお偉いさんかな?




奴らは援軍から逃げるように、野営地の中心部へ走っている。


あっちは・・・やっぱりか。


俺は、それを追って走り出した。








奴らが逃げていく先・・・そこには、ひときわ目立つテントがあった。


そう、血染めで真っ赤なあのデカいやつだ。


あそこに武器でも隠しているのか・・・?




「アレ趣味悪いね、田中」




長巻を担いだ後藤倫先輩が、俺に並走している。


ほとんど返り血を浴びていない。


大暴れしたんだろうが、その顔に疲れは見えない。


っていうか気配読み辛いなあ。




「お疲れ様です、神崎さんは?」




「自衛隊に加勢するって」




左様であるか。


仕事熱心だなあ。




「まって!まってまってまっ・・・あああああああ!!!!」




前方のテントの影から、悲鳴を上げる黒ローブが飛び出した。


その首が、冗談だろってくらい折れ曲がっている。


それをしたであろう七塚原先輩が、のそりと顔を覗かせる。




俺たちは、先輩に駆け寄る。




「おーう、どがいした?」




「この先に変なのがいましてね」




「服が豪華、たぶんお偉いさん」




「ほうか・・・1人くらいは生け捕りにしたほうがええのう」




そう言って、七塚原先輩も俺たちと同じように走り始める。


こっちも息一つ切らしてないなあ・・・




「あのテント、むっちゃ厳重・・・嫌な予感、する」




後藤倫先輩の言う通り、遠くに見えるテントの入り口はなにやら金網で封鎖されているようだ。


1人の黒ローブが、必死に鍵を開けようとしている。




事ここに至って、やっと俺たちの接近に気が付いたのだろう。


何人かの黒ローブが振り返り、目に見えて狼狽し始めた。


そりゃ怖かろう。


返り血まみれの刀マンと六尺棒マン、そして長巻ウーマンが猛然と走ってくるんだからな。


七塚原先輩単品でも恐ろしいわ。




「早くっ!早く!!」「『サンセキ』様さえいれば!!」「こ・・・ここで食い止めるぞォ!!」




通常黒ローブたちは、鍵開け要因以外は武器を持ちこちらへ走り出した。


数は、10人。


高級黒ローブは後ろに控えて何やら偉そうに指示している。




「お先」




後藤倫先輩はそう言うと、1段加速して疾走。




「あっこのハンマー連中はわしがやるけえ、残りは頼むで」




七塚原先輩もそう言い、同じように加速。


その体でよくもまあ・・・


筋肉ってすげえなあ。




お互いの距離が近付き、相手も戦闘態勢を取る。




「これ以上好きにさせぎゃああああああああああっ!!!!」




何か言おうとした黒ローブの腹の真ん中に、後藤倫先輩の投げた長巻が深々と突き刺さって吹き飛んだ。


初手で武器捨ててどうすんですか、先輩。




「っしいい!!」




空手で走り込んだ先輩が、その勢いで目を丸くしている後続に跳び蹴り。


股間に深々と突き刺さる蹴り足。


黒ローブは一瞬で無力化された。




「じゃああああっ!!!」「ぐううあ!?」




一瞬遅れて駆け込んだ七塚原先輩は、疾走の勢いを乗せて六尺棒を大きく振る。


咄嗟に防御した大型ハンマー・・・アレ何用なんだろ?


が、六尺棒は止まらずに・・・その持ち手を粉々に叩き壊しながら、黒ローブの胴体に炸裂する。


歪なくの字になった黒ローブが、ほぼ重力を無視して横に吹き飛ぶ。


・・・即死かな、アレ。




俺の方にも、刀で武装した黒ローブが走ってくる。


おいおい、後ろは気にしなくていいのか?




「ここは通さん!!」




「押し通ーる!邪魔するなァ!!」




何かのデジャブを感じながら叫び返し、俺も戦闘態勢に入った。


後ろの赤テントに何があるかはわからんが、好きにさせる道理はない!








「っふ!!」




「あば!?」




振り抜いた刀が、黒ローブの脇の下を深々と切り裂く。


ローブ越しに鮮血を迸らせ、奴は倒れ込んで悲鳴を上げながらのたうち回る。




「があああっ!や、やめt」




世迷言をほざくその口に刃を落とし、強制的に黙らせた。




・・・ふう。


俺の方はこれで全部かな。


3人の亡骸を見下ろす。


どいつもこいつもそれなりに強かったが・・・踏んでる場数が違うんだよ、こっちは。




「遅いぞ、田中」




「返り血が凄いのう」




先輩方も問題なく処理できたようだ。


多種多様な死体が、その足元に転がっている。


後藤倫先輩は素手で関節を破壊し、七塚原先輩は・・・うん、人の形をしていない。


我が先輩方の戦闘力が高すぎる。




さて・・・残るはお偉いさんっぽい奴らだけか。




「待て!待て待て!!」




陽の光に反射する、金色の豪奢な刺繍の黒ローブ。


近付いて分かったが、かなり高そうだ。


残った3人のうちの1人が、向かう俺たちへ手を上げて制止させようとする。




誰が待つかよ。




「待たない」




何か言い返そうとした瞬間、後藤倫先輩がダッシュ。


あっという間に肉薄する。




「っひ!?」




高級ローブが、懐から拳銃を引き抜く。


やっぱり持ってやがったか!


いかん!先輩があぶな―――




「げ!?」




銃を撃とうとしたそいつの顔面に、石がめり込む。


後藤倫先輩が走りながら放ったものだ。




「ほっ」




たまらず顔を押さえる間に、後藤倫先輩は地表擦れ擦れの足払いを放つ。


両足を刈り取られた黒ローブは、顔面から大地へ激突。




「あ」「待っ」




その動きに対応できずに慌てた残り2人。


そいつらも顎を的確に撃ち抜かれて大地へ沈む。


早いなあ・・・俺の出番はなさそうだ。




「田中―、ロープ」




「俺はロープじゃありませんよ」




「うっさい馬鹿」




仰せに従い、懐から釣り糸のリールを出す。


地味に便利なんだよな、これ。


これでグルグル巻きにすれば身動きとれまい。


邪魔にならないところに転がしておこう。


舌でも噛まれると面倒だからなにか口に放り込んでおかないとな・・・石でいいか。




「情報源はこれでええとして・・・残りは1人じゃのう」




七塚原先輩の視線の先には、ついにテントの中へ飛び込んだ黒ローブ。


あっクソ、微妙に間に合わなかった。




「爆弾でも放り込みますか?」




「中に爆薬でもあったら、わしらも無事じゃすまんぞ」




確かに。


銃でも構えて待ってようかな。




後藤倫先輩を手伝い、意識を失った3人を縛り上げた。


この先の戦いで死なれても困るから、適当な瓦礫の影まで引っ張って行っておこうかな。




入り口の方向では、銃声が鳴りやみつつある。


あっちも片が付いたかな。


あの様子を見るに、黒ローブ共に勝ち目はなかろう。


練度が段違いだし・・・あの八尺鏡野さんもいるしな。






「さっ『サンセキ』様!おやめください!!おや・・・やめ!やめろ化け物!!やめっが!?がぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!」






テントの中から何やら悲鳴が聞こえてくる。


サンセキ様・・・ね、さっきも言っていたが。


榊みたいな凄腕でもいるんだろうか、あの中に。


鳴き声が聞こえないからゾンビじゃないんだろうし。




「―――田中、とても嫌なものがくる」




横に立つ後藤倫先輩の顔が青い。


珍しいな、そんな表情。


それを見て、俺も七塚原先輩も武器を構えた。




銃声も鳴りやみ、一瞬静寂が満ちる。




どるん、と何かエンジンめいた始動音が鳴り響いた。


中身は逃走用の乗り物か!?




ムラのある深紅のテント。


その外壁を突き破って何かが出てくる。




ギラギラと輝く無数の刃。




高まるエンジン音と共に、それらは一斉に高速回転を始めた。




「チェーン・・・ソー?」




同じように、もう1本のチェーンソーが突き出される。


テントの外壁が切り裂かれ、それをやった奴が出てくる。




「なんじゃあ・・・ありゃあ・・・」




七塚原先輩が呆気にとられたように呟く。




「・・・悪い冗談だぜ」




俺は、思わず柄を握りしめた。




赤黒の布地を切り裂いて出てきたモノ。






それは、全身を拘束具と鎖で巻かれた・・・2本のチェーンソーを持つ白黒ゾンビだった。


その顔には、猿轡のような金属製の器具が装着されている。






「コイツが、『サンセキ』様・・・か」




白黒ゾンビは俺たちの方を向くと、吠え声の代わりとばかりにチェーンソーの回転数を上げた。


どうやらかなり好戦的なようだな、地味に道具も使いこなしてるし。




「南雲流・・・田中野一朗太」




「南雲流・・・七塚原無我」




「南雲流・・・後藤倫綾」




「「「参る!」」」




俺たちは、一斉にそいつを囲うように散開した。

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