第70話 意識高い系無能のこと

意識高い系無能のこと








こちらへぞろぞろと歩いて来る集団。


誰もが手に何らかの武器を持ち、俺へ殺気の籠った視線を向けてくる。




・・・大多数は素人だが、何人か武道経験者っぽいのが混じってる。


歩き方が、素人のそれではない。


そいつらが所持している武器は・・・木刀、鉄棒、それに・・・即席の槍と日本刀。




俺は視線を外さずに脇差を血振りして納刀。


まるで野生の熊にするように、そのまま後ずさりする。




背中がトラックのドアに当たったので、兜割を持ち上げる。




「『竹』と交換で」




「はい」




神崎さんがするりと兜割を持ちあげ、手が軽くなる。


そしてすぐに、ずしりと重い鞘の感触。


現状最強の切れ味を誇る我が愛刀だ。


ちなみに『松』はおっちゃんに研いでもらっている。




前進しながら腰に刀を差す。




・・・逃げるにしろ、何人か数を減らさにゃならんな。


今すぐにトラックに飛び乗っても、あれだけの数の人間を撥ね飛ばしながら脱出するには加速が足りない。


人海戦術でこられたら、車に乗っている方が危険だ。


俺や神崎さんはともかく、大木くんが危ない。




それに・・・今気付いたが、正門が閉じられている。


くそ、これもあっちの作戦か・・・?


アレを破るなら、やはりしっかり加速しないとな。




さて・・・どうなるか。




初めからいた集団は、仲間の到着に俄然やる気である。


だが、それでも単身で俺にかかってくる気はないようだ。


先程の男2人の死に様が、大層ショッキングだったのだろう。


お互いに様子を見ながら、じりじりと迫ってくる。




「初手防衛でいきましょ」




「はい!」




神崎さんにそう告げ、俺はいつでも走り出せるように重心を調整した。


向こうが殺す気でかかって来たら、殺す。


今回はあっちに飛び道具がないからこそできる戦法だ。


あったら?そりゃ初手狙撃爆破攪乱で挑むさ。




「何の用だ!!」




集団に向けて大きく叫ぶ。


こういうのは、機先を制しないとな。




「言っとくがこいつら2人は俺を殺す気で来たから殺した!!こいつらが殴り掛かってこなけりゃ、こんなことにはなっていない!!」




「ふ、ふっざけn」




「何だコラ!!やんのか馬鹿野郎この野郎!!!」




手前の集団の1人が吠えようとしたのを、さらに上回る罵声で押さえつける。




「こちらからお前らに要求することはただ一つ!!ここから出してもらおう!!!」




後ろの集団は、相変わらず何も話さずに歩く。


・・・いや、何人か威勢のよさそうなのがいるな。


今にも走り出しそうな感じだ。




自然な動きで鯉口を切る。


来るなら、来やがれ。


間合いに入った瞬間に・・・なますにしてやる。






「・・・待ってください!!」






新手の集団・・・その先頭に立っている男が、両手を振り上げて叫び返してきた。


年は・・・顔が汚れててわかんねえ。


多分ここの大学生だと思うんだが・・・


敵意はない、というポーズだろうか。


だが、その手に大振りな鉈が握られている。


・・・何がしたいんだ、コイツ。




「不幸な!不幸な行き違いがあったんです!!」




そう叫びながら、そいつはなおも近付いてくる。


そして、最初からいる集団に合流した。




「待て!話がしたいんならそこで止まれ!!」




「あなたこそ待ってください!!」




・・・は?


え?なにが?




「話し合いましょう!貴重な生存者どうし、胸を割って話せば誤解はとけるはずです!!」




「・・・はぁ?いや、待てってそこで止まれって」




誤解ってなんだよ・・・?




「あのなあ!お前らのお仲間は俺を殺す気だった!だから殺した!!誤解も糞も、制止に従わなかったそっちの責任だ!!」




「だから!そこがおかしいんです!!」




・・・頭が痛くなってきた。


なんだコイツ、本当に日本語で話してるのか?


神森とは別ベクトルの話の通じなさを感じる・・・




「何故話し合いで解決しようとは思わないんですか!?」




「今まさに武装して集団で囲ってくるお前らだけには言われたくねえな!それェ!!」




今世紀史上最大のダブスタを見た。


そう言いながらも、そいつはじりじりと俺に近付いてくる。




「僕達は、ただ避難所に受け入れてほしいだけなんです!!」




「・・・だからなんでそれを俺に言うんだよ!避難所とは関係ないの!俺は!!こいつらにもそう言ったんだよ!!」




え?俺日本語で話してるよな?


古代ニャカロム語とか使ってないよな?


なんでこうまで話が通じないの!?




「つまるところ、お前らは俺に何をして欲しいんだ!とりあえず言ってみろ!!そしてそれ以上近付くな!!!」




男は集団の一番前まで歩いてくると、そこでやっと止まった。


後続も合流し、トラックは半円状に取り囲まれている。


・・・初めから突っ込んだ方がよかったか?


いいや、それもどうかな。




「・・・改造人間、〇チルダからの贈り物の準備よろしく」




「(イーッ!)」




・・・それ敵側だろ。




後方の大木くんに向けて、爆弾を準備するように伝えた。


これならわかるだろう。




「では・・・食料を分けてください!車を使わせてください!!避難所まで連れて行ってください!!」




こ・・・


ここ・・・


コイツ俺の話聞いてたァ!?




「食料の持ち合わせはない!車は使わせられない!!避難所は全て収容人数いっぱいだから連れて行っても入れてくれない!!」




頭痛がしてきたが、とりあえず要求はわかりやすく断った。




「お前らなあ!ここら辺には車は山ほど残ってるし!食料もたんまりある!自分たちで探せ!!」




駄目押しに叫ぶ。


若いし人数も多いんだから、それくらいは自分たちでなんとかしろ。




「外にはゾンビがいっぱいいて危険じゃないですか!!だからあなたに頼んでいるんです!!」




・・・一朗太、こいつら怖い。


黒ゾンビとは別の意味で怖い。


・・・え、ここ一応大学だよな?


幼稚園じゃないよな?




「・・・なんで俺が!今日会ったばかりの!絶望的に話の通じないアホのお願いを聞いてやらにゃならんのだ!!」




「困っているんです!僕たちは!!」




「知るかァ!!!頼むから脳味噌で考えてから言語を出力してくれよォ!!!」




・・・駄目だ。


これ、戦うのの100倍は疲れる。


俺を疲弊させるのが目的なら、コイツは最高の策士だ。




「ギブアンドテイクですよ!助け合いの精神です!!」




「お前のそれはテイクアンドテイクって言うんだよ馬鹿野郎!!」




助け合いじゃなくてただのタカリじゃねえか!!


これ前にどっかで言ったなァ!?




「突っ張ってんじゃねえよオッサン!!この数に勝てると思ってんのかよ!!サトシとユウジをよくもやりやがったな!!!」




先頭の男とは違う男が、殺意を剥き出しにして吠えた。


・・・そうそう、こっちの方がまだ理解できる思考回路してる。




「・・・勝てると思ってるから言うんじゃねえか、糞餓鬼。てめえらなんぞ、100人いてもそこら辺の野犬に負けるわ」




「んだとォ!下手に出てりゃあ・・・!!」




下手って言う言葉に謝れ!


今までのどこに下手要素があった!?




「駄目だ!落ち着けフトシ!!」




先頭の男・・・もう便宜上リーダーと呼ぼう。


とにかく、そのリーダーの制止を無視し、その男が俺に向かって早歩きで向かってくる。


獲物は黒く長いマチェット。




「やめろ!やめるんだフトシ!!」




「うるせえよユウイチ!そこで見てなァ!!」




マチェット男・・・フトシは、そう吠えるとさらに加速。


マチェットを振り上げ、俺の方へ走ってくる。


・・・走る重心がブレにブレている。


典型的な直情馬鹿、か。




「おい、最後の機会だぞ」




「うるせえよオッサンがああアァ!!」




フトシは口の端から唾を飛ばし、喚きながら走り・・・




―――俺の間合いに、入った。




「っふ!」




振り下ろされるマチェット。


その握り手に、居合を放つ。




「ぎぃっだ!?」




薬指と小指を斬り飛ばし、緩んだ握りから明後日の方向へとマチェットが飛ぶ。




「やめとけって、言ったろう・・・が!!」




振り抜いた刀を、手首を返して引き戻しながら横薙ぎに振るう。


翻った剣先が、フトシの左こめかみに斬り込み・・・額から抜けた。




「あぇえ・・・え・・・?」




何が起こったのか見当もつかない。


そんなアホ面を晒しながら、フトシは前のめりに倒れ込んだ。


細かい痙攣がしばらく続き、そして永遠に静かになった。




「嘘・・・嘘だろォ!?フトシ!!フトシぃい!!!」




リーダー・・・ユウイチは声を張り上げて慟哭している。


そんなに悔やむなら、体ごとでも止めりゃよかったんだよ。






・・・いや、まさかコイツ・・・?






「なんでっ!?なんでフトシをォ!!!」




「そりゃな、くんなって言っても突っ込んできたんだし」




「そんな!人ですよ!!人を殺したんですよォお!?」




「―――だから?」




喚き散らすユウイチに言い返す。




「だか・・だからァ!?」




「ゾンビと同じようなもんだろ?いや、言葉が通じて悪知恵が働く分、ゾンビよりも厄介だな」




厳密に言えば言葉は通じてなかったっぽいが。




目の前で人が死ぬ瞬間を見た結果だろう。


新手の集団はより一層顔を青ざめさせ、何人かは口を押さえて震えている。


初めからいた奴らも、仲間が3人あっという間に死んだからかかなり浮足立っている。




「俺は来るなと言った、奴はそれを無視して攻撃してきた・・・それだけのこった」




「そんな・・・そんな、ことって!!」




「これでわかったろう、俺はな・・・いきなり襲い掛かってくる奴らに手加減してやれるほど優しかないんでね。わかったらとっとと帰らせてくれないか?」




項垂れたユウスケに、突き放すように言ってやる。


避難所も、ここらの状況も。


初めから誠心誠意聞いてくれれば、いくらでも教えてやったというのに。


何でこいつらは揃いも揃って人の話を聞かないんだよ。




「よくも先輩をォ!!」「ぶっ殺してやるゥ!!」「死ねぇええ!!!」




「ああっ!やめろォ!!皆ァ!!!」




ついに歯止めが効かなくなったか。




集団の中から、3人が俺に向けて続々と走り出す。


戦力の逐次投入は愚策だってのに・・・ま、統制なんてあってないようなもんか。




もう、ここらでいいだろう。


付き合ってられないな、こんな奴には。




「こいつらは俺が。新手を撃ってください」




「・・・了解」




神崎さんの方向から、安全装置を外す音が聞こえた。




「んの野郎オオオオオ!!!」




時間差をつけて迫る、その最初の奴に向けて正眼に刀を構える。


相手の獲物は、金属バット。


足取りは、素人。




「あああああああああああ!!!!」




横薙ぎに振るわれたバットを、軽く下がって躱し。




「っしぃ!!」




下がりながら振り上げた刀を、斜めに振り下ろす。


空振ったことで上体の崩れた、剥き出しの首に向かって。




「いぎゅ!?」




虚空に吹き出す、首からの鮮血。


一気に出血したショックで顔色を変えるそいつの足を、蹴りで払う。




「おごぁ!?」




飛び下がって、地面で痙攣する男に見切りをつける。


頸動脈、切断確認!




「がああああああ!!!」




お次は鋸か。


こいつの足運びは、何か武道をやっているっぽい。


構えからして剣道ではなさそうだが。




「死ねゥ!?」




手首のホルダーから抜き取った棒手裏剣を瞬時に放つ。


目を狙ったが、頬に突き刺さった。


くっそ、俺もまだまだだな。




「あがああ!?あああああ!?」




暴力には慣れていても、痛みには慣れていないのか。


急ブレーキをかけ、頬を押さえる男に踏み込む。




「ぬんっ!!!」




「ぎゃぎぃ!?!?」




大上段からの振り下ろしは、奴の顔の中心を通過して手首の中ほどまで食い込んだ。




「ぬううあっ!!!」




踏み込みながら引き斬る。


手首を断った刃が、血の尾を引いて戻って来る。




「いっひぃ!?・・・いいいいいいい!!!!!」




半死半生の男は、必死に手首を押さえながら地面に尻もちをつく。




「あわあ・・・ああ、あああ!!!」




3人目はつんのめって止まり、鉈を両手で持ったままガタガタと震えている。


そのまま来た道をUターン。


集団に再合流した。


怖気づいたか、仕方ない。




「・・・さあ」




大きく刀を振り、地面に血を落とす。




「どうする?」




そのまま肩に峰を担ぎ、睨みつける。


自分で言うのもなんだが、さぞ迫力があるだろう。




雷に打たれたように、集団の動きが止まる。


さっきまで数を頼りにイキっていた連中も、青い顔をして目だけを忙しなく動かしている。




「あ、あの・・・その・・・」




瞬く間に2人が無力化されるのを黙って見ていたユウイチが、膝を地面につけ。






「す、すい、すいませんでしたあああああああああああああああああああああ!!!」






そのまま土下座をした。




「ゆ、許してください!許してくださあああい!!!」




綺麗な土下座の体勢のまま、大声で叫ぶ。




「・・・さっきから言ってんだろ、俺たちをこのまま帰らせろってな」




「は、はああああい!!オイ誰か!!門を開けろォ!!早くうううぅ!!!!」




ユウイチの叫びに、何人かが正門に向けて走る。


変わり身の早いこって・・・なあ。




「ユウイチ!」「ユウくん!!」「サンダ先輩!!!」




土下座をするユウイチに、何人かが駆け寄る。


・・・こんなんでも慕われてる時点で、こいつらのお里が知れるなあ。


大木くん、マジでここの一員だったの?


人間としてのレベルが違い過ぎるんだが・・・?




「みんな駄目だっ!来るんじゃない!!」




頭痛が酷くなってきた気がするぅ・・・


なにこの被害者面は。


っていうかキャラ設定がブレ始めたのは大丈夫なのか、ユウイチくんよ。




視界の隅で、正門が開いていく。




「・・・じゃあ、とにかく俺達は帰らせてもらうからな」




「はいっ!!すいませんでした!!」




その声を聞き、振り返りながら納刀する。


トラックの運転席に座る神崎さんが、俺に目で合図。


そして、耳に聞こえる足音。






やっぱり、な。






右足を引いて反転しながら抜刀。


その勢いで、横一文字に斬り払う。




「あが・・・ぉお」




ナイフを振り上げ、俺を襲おうとしていた男。


その腹を切り裂き、中身が零れる。




「・・・へぇ?」




更にその後ろで武器を構える奴らに、一足で飛び込んだ。




「あ」「っひ」「はえ」




鉈を持った女の首筋を斬り。




斧を持った男の胸を切り裂き。




即席の槍を持った男の喉を突いた。






「なん・・・なんでぇ・・・?」






仲間が死ぬのを見ていたユウイチが、呆けたように呟く。




「目は口ほどにものを言う・・・ってな。俺が言うのもなんだが、お前嘘下手すぎ」




こいつは俺と出会ってからずっと、嘘をついていた。


始めは超ド級の馬鹿かと思っていたが、多少は知恵が回るらしい。


よくわからん話を延々続けて、油断を誘ってたってわけか。




何人かをまずけしかけて、俺の力量を測ってやがったんだろう。


コイツにとっての誤算は、俺が存外に人でなしだったってことか。


外で出合う人間は子供以外信用しないことにしてるんだよ、俺。


初対面ではな。




「・・・再三の警告無視だな。仏の顔も三度までなんて言うが、俺は人間なんでな」




再度納刀。


ユウイチに向かって踏み出すと、奴は土下座から瞬時に復帰して後ろへ跳び下がった。


ほう、中々の動きだな。




「・・・まずったなあ、今回もそれでいけると思ったんだけど」




化けの皮が剥がれたようだ。


ふてぶてしそうな顔のまま、ユウイチは俺を睨む。




「まあいいや、どうせやることは変わんないんだし・・・みんなー、やろうぜ」




ユウイチの呼びかけに、集団が一斉に戦闘態勢を取る。


・・・こんなポンコツでも人望だけはあるんだなあ。




「・・・無駄だと思うけど言っとくわ。トラック一台とわずかな物資のために死ぬ気か?」




「・・・無駄だと思うけどさあ、犬の真似したら見逃してやるよ」




へえ、そうか。


吹くじゃねえかよ、ゴミが。




「アンタさあ・・・仲間が銃持ってるからそんなに強気なんだろうけど、これなら・・・どうかな!?」




そう言ってユウイチは懐に素早く手を入れ、何かを引き抜き―――






その土手っ腹に、3発の銃弾を喰らった。






「馬鹿だなあお前、ほんっとに馬鹿だ」




俺の手には、ベストから引き抜いた拳銃が握られている。


暇な時に、早撃ちの練習は結構したからな。


10メートル以内ならなんとか腹には当てられるんだよ、俺。


手裏剣で事足りるから、普段はやんないけど。




こいつは神崎さんを気にしていたんだろうが・・・俺も持ってるとは考えなかったらしい。


まあそうだよな、この国じゃ銃自体珍しいし。




「いぐぐ・・・ああう、ううう」




腹を押さえ、ユウイチは膝から崩れ落ちた。


その目は見開かれ、絶望に染まっている。




「ま、まって・・・ごめ、ごめん、たす、たすk」




ぐらりと前のめりになったその後頭部に、残りの2発を叩き込んだ。


ユウイチは、黒光りするオートマチック拳銃を握りしめたまま倒れ込む。


そして、永遠に静かになった。




・・・最後まで馬鹿だったな、コイツ。




「っぎ!?」「ぎゃっあ!?」「ぎゅ!?」




拳銃をしまうと、銃声と共に集団の何人かが弾き飛ばされるように吹き飛ぶ。


隠していた銃を取り出そうとして、神崎さんに撃たれたようだ。




「ドーモ、ニンジャ=サン」




振り返って、俺に放られた鉄パイプを掴む。




「赤いボタンプッシュ、3秒後にドカン」




的確な説明どうも。


言われたとおりに鉄パイプに取り付けられたボタンを押すと、軽い電子音。


それを、俺に向かってこようとしている集団の中心目掛けて放り投げた。




「みんなああああああ!!いっけええええええええええ・・・え?」




二代目リーダー候補だろうか。


指示を出していた若い男の足元に鉄パイプは落ち・・・




くぐもった爆発音が響いた。




空中に、悲鳴をバックに何らかのパーツが飛び散る。


・・・あれ、以前のものより威力上がってないか?




「イーッ!イイーッ!!」




いつの間にかトラックの屋根に上った大木くんが、それはそれは楽しそうに全身の爆弾を力いっぱい投げまくっている。


・・・だからそれは敵側の発言?だって・・・




何度かの盛大な爆発音の後。




「あが・・・ああ」




「いてぇ・・・いて・・・」




「たすけ・・・た、す」




俺たちの目の前には、死体かもうすぐ死体になりそうな奴しかいなかった。


僅かな生き残りは、初めの時点で戦闘を放棄して学生ホール方面へ逃げ去っている。


そいつらは速攻で入り口のドアを閉め、カーテンを引いた。


引き際だけは見事である。


・・・各所にここへの注意喚起を回しておくか。


アレだけ数が減っちゃ、何もできんだろうが。




しかしまあ・・・やっぱり爆弾ってすげえなあ。


相手に与える精神的なショックが、刀や銃の比ではない。


大木くんとはこれからも仲良くしていきたいものだ。




助けを求める悲鳴を聞き流しながら、俺は銃器だけ回収してトラックの方へと歩き出した。




「いやー!スッキリしました!!あのユウイチってのだいっきらいだったんですよね!!」




助手席に座った大木くんは大変嬉しそうだ。


同じ大学だからか、知っていてもおかしくないわな。




ちなみに運転席には俺、助手席には大木くん、そして後ろのスペースには神崎さんが乗った。


神崎さんは疲れたのか、後ろへ行くなり毛布にくるまって休んでいる。


マスクを取ったその顔は、どことなく幸せそうだ。


いろいろ運んで疲れたろうから、ゆっくり休んでいただきたい。




「ピントのズレた正義感・・・って言うんですかね?この騒動でもっとひどくなってましたねえ!」




「アレ正義感かな?・・・話してて頭痛がしたもん・・・さて、とりあえず帰るとするかな」




エンジンをかけ、バックにギアを入れてアクセルを踏む。


軽トラとは違う、重厚な感触。




「そういえば大木くん・・・例の子、いた?」




「あー・・・?あ、そうか・・・特に興味も無かったので探してもないです!ガハハ!!」




左様か。


大木くんにとっては、例の件はもはや過ぎ去った過去のことらしい。


・・・よかったよかった。




「それにしても新型3号爆弾はいい威力でした!今回の成果でもっともっと破壊力を上げてやりますよ~!!」




・・・彼は一体これからどこへ向かうと言うのか。


心から楽しそうな大木くんの声を聞きながら、俺はアクセルをぐいと踏み込んだ。




「にゃむ・・・たなかのしゃん・・・」




それにしても神崎さん、寝つきが良いですね!

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