第36話 療養のこと

療養のこと








「むぅん・・・」




朝か・・・


よく寝たなあ。


昨日感じただるさはまだあるが、熱の方はそれほどでもない。


睡眠って大事なんだなあ。


左肩っていうか左の鎖骨から下は痛いが、これも安静にしていれば治っていくだろう。




神崎さんたちはもう起きたみたいだ。


ああくそ、腕時計が外されてるから時間がわからない。




「わふ・・・」




もぞもぞとサクラが動き、布団から出てくる。




「おはよう、サクラ」




「きゅん・・・ひゃんひゃんひゃん!!!」




寝ぼけ声で返事をしたサクラは、俺が起きているという事実に驚いたようで顔に飛び掛かってきた。




「わぷぷ・・・!ごめんなあ、心配かけて」




左手はしんどいので右手で撫でる。




「きゅ~ん!きゅぅう~ん!!」




鼻を鳴らしながら、所かまわず舐めまわしてくるサクラ。


心配していたんだろうなあ・・・ほんと、かしこい子だよ。




「サクラちゃんどうした・・・の・・・」




襖を開けて顔をのぞかせた璃子ちゃんが、俺を見て動きを止めた。




「お・・・おじ、おじ・・・」




口をパクパクさせ、ビックリしたように凝視してくる。




「・・・やあ璃子ちゃん、おはよう」




「おじざぁあああああん!!!!」




目を潤ませた璃子ちゃんは、鼻声で俺に向かって突っ込んできた。


そのまま俺目がけてダイブ。


おっとと・・・左肩は避けてくれたな。




「ごめんなあ・・・ちょいとドジっちゃったよ。心配かけたね」




「うううう・・・み、みんなじんばいじだんだがらねぇ!で、でも・・・よがっだ!よがっだよお・・・!!」




「きゅぅうん!!わふるぅう!!おん!わふ!!」




わんわん泣く璃子ちゃんと、わんわん吠えるサクラ。


周囲に全く人間のいないこの環境では、それらはとてもよく響き―――




「田中野さんっ!!」「田中!!」




神崎さんと後藤倫先輩も、瞬時に駆けつけてきたのだった。




「や、お2人とも。ご心配をおかけしました」




壁にもたれてサクラと璃子ちゃんを抱えていた俺は、無事な右手を挙げて挨拶。




「ご、ご無事で、なにより・・・なによりですっ」




右耳に包帯を巻いた神崎さんは、目を潤ませながら喜んでくれ。




「・・・寝すぎ、起きないかと思った」




後藤倫先輩は、ぷいと横を向いたのだった。








「左肩の具合は、どがいじゃ?」




「動くには問題ないですけど、痛みがまだかなりありますね。しばらくは左手は封印だなあ」




心配そうに俺を見る七塚原先輩にそう返した。




あの後は斑鳩さんやら七塚原夫婦やらが集まっきて、ちょいとしたお祭り騒ぎだった。


驚くべきことに、俺は3日間に渡って眠り続けていたらしい。


通りで体が重いわけだよ。


夢の感じではほんの1、2時間って感じだったのにな。




今は斑鳩さん母娘が俺の目が覚めたお祝いに、豪華な昼食を用意してくれているらしい。


『腕によりをかけますね!!』とのことである。


それにしても日本語上手いなあ、斑鳩さん。


だが、悪いなあ・・・




「神崎さんの話だと、うまいこと骨や神経を避けて貫通したお陰で、後遺症が残ることはないらしいです」




「おお、そりゃあえかったのう。後藤倫もぶち心配しとったわーや」




「・・・していない!」




襖から突如顔を出した後藤倫先輩がツッコんできた。




「ななっち、変なこと言わないで」




「ほうほう、まあそういうことにしといちゃるわあ」




「事実だから!事実だから!!」




激高した後藤倫先輩の凄まじい速さの肩パンの連撃を受け、はははと笑う七塚原先輩。


・・・恐ろしい防御力だ。


後藤倫先輩も本気ではないだろうが、それにしたって揺るぎもしていないのは異常である。


俺もそれくらいの超合金マッスルボディが欲しいでござる。






それからしばらくして、昼食の時間になった。


インスタントのアレンジ料理ではあるが、和洋中取り揃えた豪華なものだった。


しかも美味い。


どう手を加えればここまで美味くなるんだ・・・




が、味は素晴らしいものだったが・・・




「はいおじさん!あ~ん!!」




「あのね璃子ちゃん、おじさん利き手は無事だから自分で・・・」




「言語道断!問答むよー!」




「むごごごごご!!」




いつぞやの美玖ちゃんより押しが強い!!


俺リスじゃないから!


ほお袋パーツは装備されてないから!!


そんなにデカいスプーン入らないから!!!!




「ほれほれ田中田中、あーん」




馬鹿やろうそこは鼻の穴だ馬鹿やろう!!


やめろォ!!俺で遊ぶんじゃねぇ!!!




「むーさん、あ~ん!」




巴さん何そのスパゲッティの量!?


巻きすぎてソフトボールみたいになってるじゃん!!


いくら先輩でもそれは・・・




「むぐむぐ」




入ったァ!?


おいおいおい近〇勇かよ先輩!!




・・・璃子ちゃん?


何だその『あっそうか』みたいな顔。


やめなさいスパゲッティをそんなに巻き付けるのは!!


お客様お客様お客様!!困ります!!あーっ!!!お客様!!困ります!!あーっ!!!困ります!!あーっ!!!!






「物理的に動けねえ・・・」




そんな波乱の食事を経て、俺は屋上に転がっている。


腹がパンパンだぜよ。


そのパンパンの腹の上では、同じようにお腹をぽんぽんにさせたサクラがスヤスヤ夢の中だ。




俺が起きてから絶対にそばを離れようとしないのだ。


サクラにも悪いことをしたなあ。


血だらけで帰ってきたら3日間ぶっ通しで寝てるんだもんなあ。


まあ、この傷では早々探索にも行けないのでしばらくは一緒にいてやれるが。


夢を見ているのか、わふわふ寝言を言うサクラを撫でる。




うーん、いい天気ですこと。


青空を流れる雲を眺めながら、この先のことを考える。




「新種のゾンビに、外人部隊に、ヤクザかあ・・・この上は宇宙人が出てきても驚かねえぞ俺は」




龍宮市に入ってからこっち、明らかに戦闘が激化している。


詩谷では雑魚だったノーマルゾンビすらちょっと強いし。


それに、まだ遭遇してはいないが龍宮には凶悪犯専用の刑務所もあるのだ。


認めたくないがゾンビが自然発生した以上、内部で何らかの騒動が起こって脱走騒ぎなんてことになっていても驚かない。




「怪我さえしなきゃ、御神楽高校へも行けたのになあ・・・」




あそこには俺が借りている拳銃の持ち主・・・高山さんの娘さんがいるはずだ。


行ってどうこうするつもりはないし、父親の顛末について報告する気もないが、安否確認くらいはしてやりたい。


もしも何か面倒ごとに巻き込まれていたら、手助けくらいはさせてもらうつもりだが。


この拳銃には今までかなりお世話になったしな。




「ここにいたんですか、田中野さん」




そんなことを考えていると、洗濯籠を持った神崎さんが屋上にやって来た。


私服なのも相まって、家庭的な雰囲気がある。




「食後の休憩ですよ、牛になりそうですけどね」




「養生なさってくださいね」




「さすがに、この状態で探索に出る程馬鹿じゃないですよ・・・備蓄食料もたんまりあるでしょう?」




正確に数えてはいないが、自衛隊からいただいたものと回収した物資はかなりの数になるはずだ。


七塚原先輩もちょこちょこ回収してきてくれてるみたいだし。




「ええ、ざっと試算したところ3カ月は何もしなくても食べていける量があります」




おお、やっぱりかなりの数だな。




「そりゃ安心だ、しばらくは映画でも見ながらのんびりしますよ」




「本当に・・・本当によろしくお願いしますよ、田中野さん」




念を押されてしまった。


俺はそんなに戦闘狂じゃないので安心していただきたいぜ。




・・・変なのとか黒ゾンビが攻めてこなけりゃな。


さすがに向こうから来られれば対応せざるを得ない。


右手は自由に動かせるから、精々拳銃の練習くらいはしておこう。




「ところで、この傷ってどのくらいで治りますか?」




「鎖骨以外は全治1週間程度ですね、鎖骨の貫通銃創は・・・常人なら1カ月です」




何故そこでそんなに歯に物が挟まった的な物言いをなさるのか。


常人が1カ月なら、俺だって1カ月でしょうに。


・・・え、違うの?




「田中野さんの傷の治りは異様に早いんですよ、以前の桜井さんもかなり早かったですが・・・一体何の秘訣があるのか私が聞きたいくらいです」




「そりゃあ、朝食に毎朝コーンフレークを山盛り二杯食べていたおかげですね」




「真面目に答えてください」




「いやわかんないですぅ・・・」




宇宙海賊ネタは流石に通じなかったか・・・


ううむ、なんでじゃろ?


よく寝るからかな?




「今回はたまたま場所が奇跡的に良かったのでおそらく障害は残りませんが・・・それでも、しっかり静養なさってくださいね」




洗濯籠を置き、神崎さんが俺の横に座る。


その目はなんというか、無茶ばかりする弟的なサムシングを見るような感情が籠っていた。


あれ?拙者年上でござるぞ・・・?




「ええ、そうします。大丈夫ですよ神崎さん、銃弾以外にはやられませんから」




「その銃弾がネックなのですが・・・今回のことで警察からいただいたベストも駄目になりましたし」




うっそだろ!?


え!?


駄目になったのアレ!?




「ご存じないのもわかります。防弾ベストというものは、被弾すれば即座に劣化が始まるのです」




「えー・・・そうなんですか」




「ええ、今回のものはライフル弾による貫通ですので、より劣化は激しいかと。洗濯しましたので着用はできますが、防御力は著しく下がっています」




結構ショック。


アレ気に入ってたのになあ・・・




「そもそも警察の使用する防弾ベストは、拳銃弾への対処に重きが置かれたものです。大口径ライフル弾への防御性能については、当初から考えられていません」




そりゃあ、そうだろうなあ。


街中の銃撃戦なんてこの国ではついぞ起こりようがなかったし。


ヤクザが持ってるのも拳銃ばかりだし。


刃物の攻撃を受けるつもりはないが、遠距離からの狙撃には対応が難しそうだ。


師匠なら神がかりじみた気配察知で何とかするだろうが、残念ながら俺にそのスキルはない。


今までの経験から、少しは鋭くなっているとは思うのだが・・・




「ですがご安心を。こんなこともあろうかと、あってほしくはありませんでしたが・・・自衛隊の防弾アーマーを持ってきています」




「さすが真田・・・いや神崎さん!」




「真田・・・?叔父が以前持たせてくれたものです、知っての通り隊員数が激減したので、余剰装備は余裕がありますので」




自衛隊の防弾かあ・・・バズーカの直撃とかでも防げるかな?




「無理です」




心を読まれた!?




「あのですね田中野さん、防弾ベストはあくまで弾丸の貫通を防ぐためのものです。『衝撃』は防げません」




言われてみれば確かに・・・某人間台風さんも鉄球のタコ殴りと変わんねえ!って言ってたしな。




「たとえ貫通しなくとも衝撃で骨折はしますし、脇や上腕、首元からの貫通ではアーマーも関係ありません」




「・・・つまり正面から撃たれれば大丈夫だと?」




「違います!全然違います!!」




いだだだっだだ!?


やめてください俺のほっぺはお餅じゃないんです!!


そんなに伸びないで御座候!!!




「・・・まったく」




神崎さんは苦笑いを浮かべ、手を離した。


お、諦めたな。


さっすが、これまでの付き合いで俺という人間を理解しつつあるらしい。


・・・単純すぎない?俺。




「・・・本当に気を付けますよ、神崎さん。これからまだ、やりたいことも行きたい場所も山ほどあるんですから」




未だにスヤり続けるサクラを撫でる。


こいつを家なき子にするわけにもいかんしな・・・




「ただでさえ最近ゾンビと黒ゾンビと人間の屑しか相手してないんですから・・・釣りにも行けてないし」




「そうですね・・・」




風にそよぐ髪をなびかせ、神崎さんが遠くを見る。




「いつか・・・いつか行けたr」




「スタアアアアアアアアアアアアアアアップ!!!!」




「ひゃ!?」




「わふ!?」




俺の大声に神崎さんが驚きサクラが垂直に跳ねた。


あ、ごめんサクラ。


いやしかしこれは言わればならん。




「そういう死亡フラグみたいなのやめましょうよ!釣りにも行くし趣味の探索にも行くしドライブも絶対、ずえったい行くんです!!」




彩を失った日常なんざ糞だ。


ただでさえゾンビのせいで日常がどどめ色になってんだからな。


バランスは取らねばいかん!!




「ね!神崎さん!」




「・・・ふふ、そうですね」




きょとん顔の神崎さんがやっと笑った。


急に起こされて不機嫌になり、がふがふ甘噛みするサクラをあやしながら俺も微笑んだ。


・・・サクラ、喉笛はやめなさい喉笛は。


こやつ的確に急所を・・・!




「やっぱり、田中野さんを見ていると元気が湧きますね」




ふふん。


喜んでいただけて幸いでござるよ。




一服しようと思ったが洗濯物に煙がかかるのはよくない。


退散するとしよう。


それに・・・アレ多分下着類だな、干そうとしてたのは。






「散歩・・・もやめとくかな、ごめんなサクラ」




「ひゃん!ひゃんひゃん!!」




社屋から出て縁石に腰かけ、サクラにボールを放る。


下手投げでゆっくり投げたボールでも、一生懸命追いかけている。


かわいい。


そういえば・・・詩谷のレオンくんも元気にしてるかな?


美玖ちゃんたちに可愛がられてるといいなあ。




戻ってきたサクラからボールを受け取り、また放る。


これ、人間の俺から見たら無間地獄なんだが・・・犬にはたまらないんだろうなあ。


種族間の違いというやつだろうな。




何度か繰り返し、疲れてきたサクラを膝の上に乗せる。


サクラは飽きることなく空を見つめている。


俺も真似しよう。


今日の所は何もやることないし。


怪我はしているが平和は最高である。




「親子でおんなじ顔、しとるのう」




ボケっとしていると、七塚原先輩が鍬を担いで歩いてきた。


・・・先輩が持つと鍬も兵器に見えるな。




「お?先輩その鍬どうしたんですか?」




土が刃先に付いてるってことは、どっか耕してきたんだろうか。




「倉庫の裏に空間あったじゃろ?あっこに外から持ってきた土盛って畑にしたんよ」




おや、手が早いな先輩。


近所の田んぼから持ってきたんだろうなあ。




「詩谷に家があるおまーと違うて、わしら夫婦は目下家なき子じゃけえな。いつ戻れるかわからんけえ、少しでも食い扶持を作っとかにゃあやれんけぇのう」




ああ、そういえばそうか。


家の近所のデカい工場の従業員、全部ゾンビになったんだっけか。




「先輩でもキツいですか、大量のゾンビは」




「数はええんじゃけどな、塀が全部倒れとるけぇ・・・立て直すのがたいぎい(大変だ)わ」




・・・ああ、なるほどね。


よくよく考えたらノーマルゾンビなんざ俺でも楽勝なんだから、あんなもんどれだけいても先輩には楽勝だろう。




「俺が回収した種もどんどん植えちゃってくださいよ」




「ありがたく使わせてもらうわい」




よっこいしょ、と先輩が俺の横に腰かける。


膝の上のサクラが飛び降り、先輩に愛想を振りまく。


動物は人間の内面を見抜くっての、本当なんだろうな。


先輩にもすぐに懐いたし。




「ここ、立地は抜群だからいずれは人が住み始めるでしょうねえ・・・こんなに静かなのは今だけですよ」




「わしゃあ、子供らぁが騒ぎよる声は好きじゃけえ、ちいと寂しいがのう」




そうだった、なにせ保育園だか幼稚園だかで警備員するくらいだし。


ここの小学校での顛末は知らせない方がよさそうだ。


あの時先輩がいれば・・・想像したくないな。


俺と神崎さんでこさえたより、数段グロい死体が量産されることになりそうだ。


先輩、昔から子供がらみの犯罪者には容赦ないからなあ。




「・・・そこはホラ、先輩と巴さんにかわいい赤ちゃんができたらいいんですよ」




「ほうじゃのう・・・今はまだそれどころじゃないんじゃけど、いずれはのう」




先輩は顔を真っ赤にした。


ここに巴さんがいたらかわいいかわいいと鼻血でも出してるところだな。




まあ、今なんか出産も命懸けだしな。


産婆さんを探すところから始めないといけないかもしれない。


それに物資もいろいろ足りてないし、なにより保育器なんてのもないんだ。


赤ちゃんにはこの環境はちょいとハードモードすぎるなあ。




「おまーはしばらく養生しとれや、ここにおる分ならわしらで対応できるけえ・・・市街からヤクザの三下でも遠征に来たら、まとめて肥料にしたるわい」




頼もしすぎる。


ひょっとして先輩なら撃たれても大丈夫なんじゃあるまいか。


いや、まず撃たれないように動きそう。


俺でもある程度はできたんだし。


アレは不意打ちだからああなったが、至近距離なら負けない自信は・・・今は、ある。




・・・ま、自信だけあっても仕方あるまい。


先に傷を治さなければな。




「ところで、畑には何を植える予定ですか?」




「トマトとプチトマトで7割、残りは葉物にしようと思っとる」




トマトが多い!!


なんだそのトマト推しは!?




「・・・巴が好きじゃけえな」




「納得」




おしどり夫婦でござるなあ。


あ、でもキャベツは絶対植えてほしいな。


最後に食った生鮮野菜だし。






作業に戻る七塚原先輩を見送ると、また1人になった。


正確には1人と1匹であるが。


当のサクラは、遠くの方で璃子ちゃんと走り回って遊んでいる。


・・・何度この感想を抱くかわからんが、平和だなあ。


たまにはこんな日も悪くない。




尻をはたきつつ立ち上がり、両足を肩幅に開く。




深呼吸して腰を落とし、右腰に差さっている脇差に右手を置く。




「ふっ!」




逆手で鯉口を切り、普段とは逆方向に腰を捻りつつ抜刀。


そのままの勢いで切り上げ、反転させて振り下ろす。


う、あまりダイナミックに動くと左肩に響くなあ・・・今日はやめとくか。




・・・うーむ、脇差程度なら問題なく抜刀できるが、いかんせん攻撃力に不安が残る。


人間やノーマルゾンビならこれで対応できるだろうが、黒ゾンビにはなあ・・・


片手だけの力で致命傷を与えられるかは未知数・・・というか多分一撃では無理だ。


体当たりや蹴りで体を崩しつつ、その上で斬り付けるとかそういう動きを心掛ける必要がありそうだ。


ただ、黒ゾンビは動きが速いからなあ・・・集団で来られると今の俺ではちとキツい。


初手は銃撃、仕留めきれなければ抜刀って流れにしておいた方がよさそうだ。


まあ、これだけ補強した場所に易々と進入されるとは思いたくないが・・・




「あーっ!!おじさんまーた無理してる!!行けっサクラちゃん!!」




「わうわうわう!!!」




稽古を目撃した璃子ちゃんの指示によって、茶色い弾丸と化したサクラが突っ込んできた。




「おわ、ごめんごめん」




「ももふ!もふ!!」




右手首に飛びついたサクラが絶秒な甘噛みで抗議している・・・ように見える。


見た目はかわいいが、かなりご立腹の様子だ。




「わかったよサクラ、治るまでチャンバラはナシだ、な?」




「わふるぅ!ううう!!」




唸るな唸るな。


全く迫力がないぞ、それ。


せめてハスキー犬あたりになって出直してくるんだな。




「もーっ!油断も隙もないんだから!」




遅れて到着した璃子ちゃんもぷりぷり怒っている。




「お母さんが言ってた通りだね!男の人ってすーぐ無茶するんだから!」




「面目次第もございません・・・平に、平に」




返す言葉もねえ。


アレだよ、大浴場に近付くと体が勝手に動いちゃう隊長さんと同じなんだよ。


反射、条件反射なんだ。


スポポタマスの犬?だっけ、そんな感じ。


・・・バスカヴィルの犬だっけか?いやもっと違う気がするな。


・・・言ったら怒られるから言わないけどさ。




「罰として夕飯までに一緒に映画見よ、おじさん!」




中々にきつい罰だなあ。




「仕方ないなあ・・・何見る?」




「悲しくないやつ!」




「安心しなさいそんなの全然ないから、だいたい爆発するやつだから」




「わーい!」




左肩のことを気にしてか、右手に寄りかかって喜ぶ璃子ちゃん。


うーん、何にしようかな・・・




どんなのを見るか相談しながら、俺達は社屋へ戻った。

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