第23話 平和な1日のこと

平和な1日のこと








「また来るからね、レオン。絶対に来るからね・・・中村さんたちと仲良くするのよ?」




「ぎゃぁう・・・」




山中さんは、レオンくんを抱きしめて言い聞かせるように囁く。


レオンくんは、まるで『わかった』とでも言うように小さく鳴いた。




「・・・賢いですねぇ、レオンくん」




それを見つめている比奈ちゃんが俺に向かって言う。


・・・いつの間に横に!?


まあいいか。




「サクラといいレオンくんといい、俺の周りの動物は凄く賢いなあ」




ぴこぴこと動く比奈ちゃんの三つ編みを見ながら、俺はそうこぼした。






おっちゃん宅についてからしばし経つ。


レオンくんの飼い方等を山中さんが説明し終わったので、そろそろ移動する時間だ。


俺も友愛の近所までは着いていく。


その後は・・・どうすっかなあ。


今日の所は家をちょいと確認してからここに戻って泊まり、明日秋月に行って花田さんに報告ってとこかな?


先輩たちには1週間以内に戻るって言ったし、ゆっくりしようゆっくり。


高柳運送の安全は約束されているし。




遠距離攻撃の斑鳩母娘!




近距離超絶パワー型の先輩!




可愛さ天元突破のサクラ!




あと巴さん!!




・・・巴さんって何が得意だっけか。


料理・・・かな?前に家に招かれた時すごい美味しかったし。


あと普通に運動神経いいしな、なんてったってオリンピック候補だ。


ともかくあっちは大丈夫だろう。




「比奈ちゃんも元気そうでよかったよ」




「はいっ!みなさんよくしてくれます!」




ぽんぽんと頭を撫でながら話を聞く。


・・・いかん、つい撫でやすい位置にあるから・・・


セクハラになってしまう!




「えへへ」




・・・嬉しそうだからいいか。


いいよな、多分。


妹の小さい頃を思い出すなあ。




「田中野さんの小さい時の写真とかも色々見せてもらいましたっ!昔から髪型一緒なんですねっ!」




「・・・は?」




え、なにそれは。


なんでここにそんなもんがあるの!?




「剣道の大会の決勝で負けて泣いてる小学生の田中野さん、かわいかったですっ!」




・・・ああああああああああああああああ!!!




何でそんなときの写真を撮ってるんだよおっちゃんは!?


・・・そういえばあの時いたな観客席にィ!!


いや違うんだよアレ絶対俺の抜き胴の方が早かったもん!!


相手の面はカス当たりだったし!!


審判の目が腐ってたんだって!!




「比奈ちゃあん・・・どこにあるのかな?燃やすから教えて?」




なるべく優しい声を意識しつつ比奈ちゃんに聞く。




「だ、駄目ですっ!あんなにかわいいのにっ!」




「ダメだよおにいさん!」




「いけません!」




「駄目です」




由紀子ちゃんと小鳥遊さんと神崎さんまで参戦した!?


っていうか神崎さんも見たことあるの!?


どこで!?いつ!?




「あのですね神崎さん、俺の黒くくすんだ暦を焼き捨てないともう一度黒歴史が来ちゃうんですよ!!」




「駄目です」




「そこをなんとか!!」




「駄目です」




なんだこの頑なさは!?


何があなたをここまでさせるんですか!!




「・・・さあ、山中さんを送り届けましょう」




「今世紀最大級のはぐらかしを見た!」




「・・・さ、あ」




「・・・ハイ」




くそう、俺は無力だ・・・


いかんともしがたい気持ちを抱えながら、俺はガクリと肩を落とした。








「思い出は貴重ですよ、田中野さん」




「ソウデスカ・・・」




嘆息しながらハンドルを切る。


もうすぐ友愛の近所だな。


結局、俺の黒歴史消去大作戦は成功しなかった・・・




あの後、名残惜しそうにしている山中さんに声をかけて友愛まで先導することになった。


一刻も早く新たちに会いたいだろうしな。




見慣れた街並みを走る。


たいして離れていないからか、変わった様子は見られない。


相変わらずちらほらゾンビがいる以外は、生存者を見かけることもない。




「まったく、俺の写真なんか見て何が楽しいんだか・・・肖像権の侵害ですよ」




「こ、この世界においては娯楽と癒しは必要ですので・・・」




娯楽はともかく癒しはないでしょ。


サクラの写真ならともかく。


・・・あ、今度大木くんにサクラの写真撮ってもらおうかな。


ポッケに入れて探索に行きたい。




「はあ・・・お、この辺でいいかな」




「・・・そうですね、よろしいかと」




ハザードを点灯して路肩に寄る。


山中カーも停車したので、運転席から降りて近付く。


運転席の窓が開いて、山中さんの顔が見えた。




「この道を真っ直ぐいけば友愛の正門ですよ、ここらへんで先に行ってください。後ろから離れて着いていきますんで」




万が一門前払いにでもされたら俺が口をきくつもりだ。


それ以外の場合は友愛に接触せず、こっそり帰る。


前にも言ったがまた捜索を依頼されそうだしな。




「本当に・・・何から何まで、ありがとうございます!」




涙ぐむ山中さん。




「いえいえ、新たちによろしくお伝えください。これ、宮田さんに渡してもらう手紙です」




ポッケから紙片を取り出し、山中さんに渡す。


これには今までの大まかな流れと、龍宮の現状についてのざっくりした説明が書かれている。




「はい!必ずお渡しします!」




山中さんはそう言って、大事そうに手紙を預かってくれた。




発進した山中カーを、100メートルほど後方から追う。


しばらくすると、友愛の校門に到着した。


離れて単眼鏡で確認する。


お、今日の門番は森山くんだな。


なにやら山中さんと話している・・・




よかった、無事に入れるみたいだな。


押し問答していたら助けに入らなければいけないところだった・・・




山中カーが友愛に入るのを見届け、Uターンする。


ふう・・・これで肩の荷が一つ下りたぜ。


新たちも喜んでくれるだろうなあ。


それを今見れないのは少し残念だが。


まあ、ほとぼりが冷めたころに様子を見に行こう。


今行くと面倒臭そうだし。




「よかったですねえ、神崎さん」




「ええ、本当に・・・」




家に向かう道を走りつつ、神崎さんと笑い合う。


いい人たちが幸せになるとこう・・・なんというか胸が熱くなるなあ。


悪い人?


・・・積極的に不幸にしていきたい所存である。




さて、それでは懐かしの我が家の点検に行くとしますかね。








「あ、田中野さんに神崎さんじゃないですか!どうですか龍宮は?」




自宅の点検に行くと、庭でなにやらごそごそしている大木くんと出会った。


少し見ない間に・・・なんかこう日に焼けたな?


麦わら帽子をかぶって草を抜いている。


全体的に健康な雰囲気になったような気がしないでもない。




「元気そうで何よりだよ」




「お久しぶりです、大木さん」




神崎さんも彼の変わりように少し驚いているようだ。




「いやあ、最近釣りが楽しくて楽しくて!毎日海やら川で動画撮りつつやってますよ!」




なるほど、日焼けするわけだそりゃあ。




「サバイバルの王道ですからね、釣りは!動画構成にも変化を付けてかないと!」




本当に元気そうで何よりである。


エンジョイしているなあ。




「・・・庭の掃除までやってもらって、悪いなあ」




見れば、伸び放題だった草が刈られてすっかり綺麗になっている。


サクラのおかあちゃんの墓も花まで供えられている。


野菜くんたちも元気そうだ。


そろそろ収穫できそうなものもチラホラあるなあ。




「いえいえ、拠点にさせてもらってるんですからお気になさらずー」




とは言うが、流石にこのままでは悪いのでとりあえず昼飯を奢ろう。


ちょうどいい時間帯だし。


ついでに龍宮の情報も提供しておこう。






「うへえ、龍宮ヤバいですねー・・・行くのはもう少し待っておこうかな」




昼飯のラーメンを啜りながら大木くんがこぼす。


ちなみに今日は豚骨である。


豚骨もいいな・・・ご飯が進む。




「その方がいいぞ。ぶっちゃけまだ入り口の段階でこれだもん、この先何が起こるかわからんからな」




「凶暴性を増す生存者・・・これはゾンビも進化してるかもわかりませんよ?」




「嫌なこと言うなよ・・・」




食欲が減衰する・・・


この上ゾンビにまで強くなられちゃ困るぞ、おい。




「でも、おかしいと思いませんか田中野さん。詩谷と龍宮でここまで民度が違うなんて」




「ううむ、確かに言われてみれば・・・」




以前はこんなことはなかったっていうか、龍宮の方がしっかりしていたような気がする・・・都会だし(当社比)




「おかしいですって!たぶんこう・・・人間をチンピラにする効果もあるんですよ!ゾンビウイルスには!」




「ウイルス説が正しければありえるとは思うが・・・神崎さんはどう思います?」




「情報が少なすぎます・・・断定するには証拠が足りないかと」




水を向けると、冷静に神崎さんが答えた。


確かに、ゾンビがウイルスか突然変異かなんてわからんしな・・・




「とりあえず、この先も気を付けなきゃいけないことは確かだろうな・・・大木くん、こっちは何か変わったことはあったかい?」




「うーん、特にはありませんねえ。古本屋の方もここも平和ですし・・・あ、釣りする人は増えましたよ」




へえ、みんなこの環境に順応してきたってことかな。




「僕は面倒臭いんで離れてますけど、釣りの場所取りとかで結構険悪な雰囲気になることも増えてますけど」




「こっちも民度低いじゃん・・・」




「まあ、おまんまがかかってますからねえ、みんな必死ですよ」




なんてことないように話す大木くんである。


大丈夫なのか?




「僕は基本的に海で食料調達してますから。川の方は動画用と趣味ですし・・・面倒そうな人が来たらササっと逃げてますよ」




うーむ、かしこい。


流石の危機管理能力だ。




「小型の爆弾も持ち歩いてますし」




・・・戦闘力もあったわそういえば。


大丈夫だな大木くんは。




「そっちも・・・神崎さんには田中野さんがいますし、大丈夫ですよねえ」




「はい!その通りです!」




神崎さんは嬉しそうに答えているが、順序が逆じゃない?


俺の方が神崎さんにおんぶに抱っこなんだが・・・?




「あ、田中野さんは大丈夫と思います、はい」




ぞんざい!


俺への扱いがぞんざいでござるよ!?




「あ、そうだ!ねえねえこれ見てくださいよ!」




大木くんはラーメンを完食した後、思い出したようにリュックからカメラを取り出す。


カメラから記憶媒体を取り出し、慣れた手つきでタブレットに挿入。


電源を立ち上げると俺たちに見せる。




「この前見たんですけど・・・田中野さん、この人ご存じですか?」




「なんで俺なのさ・・・」




「いやいや、とにかく見てくださいってば」




大木くんは、再生ボタンをタップした。






どこかの路地裏めいた景色。


女性らしき人影が、周囲を男たちに囲まれている。


映像では遠くて顔までわからない。


髪は長くなさそうだ。




周囲の男たちは手にそれぞれ武器を持ち、じりじりと包囲網を狭めている。




急に女性が動いた。


・・・速い。




対応しきれていない男の鳩尾に、女性のしなるような蹴りが突き刺さる。


倒れ込む男に目もくれず、女性は別の男へ。




振り下ろされる鉄パイプ。




その握り手に正確に裏拳を叩き込み、手を外す。


蹴り付けられた鉄パイプは、男の顔面を直撃。


怯み、のけぞる男の喉に狙いすましたような貫き手が突き刺さり無効化。




慌ててバットを振り上げる男に、一瞬で距離を詰める女性。


軽く体が浮くほどの打撃を鳩尾にぶち込み、そのまま関節を極めて投げる。


コンクリートに頭から落ちた男が動かなくなる。




ナイフを腰だめに、走り出す男。


女性は受け止めつつ男の手首を捻り、男の腹にナイフを半回転させて突き刺した。




・・・強い。


流れるような動きだ。


武器を持った相手に臆することなく接近戦を挑むとは・・・




横薙ぎに振るわれた棒の一撃を、地面に伏せながら避けた女性の蹴りが男の足首を払う。


ボーリングのピンのようにすっ転んだ男は、そのまま地面で側頭部を強打。


女性は立ち上がりながら倒れた男の顔面を爪先で蹴り飛ばす。




最後に残った男は、マチェットのような刃物を持っている。


何事か喚きながら、男が大上段に刃物を振りかぶって走り出す。


女性は待ちの姿勢。


振り下ろされる刃物に対し、女性が動いた。


拳・・・恐らく中指の第一関節を突き出した一本拳で、男の手首の根元を撃ち抜く。


しびれた手から刃物がこぼれる。


そのまま女性は左手で男の手首を掴み、引き寄せながら胸の中央に踏み込みながらの右肘を叩き込んだ。


男の体からはぐにゃりと力が抜け、ずるずると地面に倒れる。




女性は、倒れた男たち全員の首に足を落として絶命させると、そのままどこかへ歩き去った。






「いやあ、ヤバそうなら助けに入ろうって思ってたんですけどコレでしょ?ビックリしましたよお」




目を輝かせる大木くんとは対照に、俺は冷や汗をかいていた。




「・・・後藤倫先輩じゃねえか」




「え?こ、こちらが前に話していたあの?」




神崎さんが驚いて聞いてくる。




「ええ、顔までは見えないですけど・・・十中八九そうでしょうね。っていうか先輩であることを祈りますよ」




このレベルの近接格闘能力の持ち主が他にいるとは信じたくない。




「最後の技ね・・・アレ、『稲妻いなずま』って言うんですけど・・・先輩の得意技なんですよ」




以前の『双輪』ではなく、相手の腕を引くことによって成り立つカウンター技の一種だ。


タイミングもバッチリなので、相当な衝撃力だろう。




かわいそう・・・ではないが、最後の男はアレが致命傷だな。


恐らく胸骨が折れて肺に突き刺さっている。


トドメがあるだけありがたいな・・・




「あ、やっぱり田中野さんの知り合いでしたか。戦闘力高そうな先輩ですねえ」




「高いなんてもんじゃないよ・・・素手なら手も足も出ねえよ、俺は」




「動画に出演して欲しいなあ・・・何とかなりませんか?」




とんでもないオファーだな大木くんよ。




「無理無理無理無理かたつむりだよ大木くん、良くて肋骨全部とサヨナラバイバイする羽目になるぞ・・・俺たち」




「ヒエッ・・・やめときます」




「それが賢明だよ」




溜息をつきながら動画に目を戻す。


・・・あ、やっぱり後藤倫先輩だこれ。


最後の方、明るい所へ出たから髪型がよく見える。


相変わらず前髪パッツンなのなあ、先輩。


まあなんというか、元気そうでよかった。


男どもはおおかた、先輩の容姿に惹かれてちょっかいでも出したんだろうさ。


残念でもないし当然だ。


先輩俺よりちっこいからなあ・・・


見た目はあまり強そうに見えないんだよなあ・・・




「ま、元気そうでよかったよ・・・」




「ゾンビくらいじゃなんともなりそうもないですしね、この人」




しかし、いろんなとこウロウロしてんだな先輩。


方々に知り合いがいたのかな?




「綺麗な体捌きです・・・!一切の躊躇がありませんね!」




神崎さんは目がキラキラしている。


うん、好きだもんねえ格闘技。




「見てくださいここ!脳天から地面に落としていますよ!何の技ですかこれは!」




「あんま徒手は詳しくないんで・・・た、たぶん変形の『隼はやぶさ』ってのだと思うんですが・・・」




見せないで見せないで・・・あと服を引っ張らないで・・・


テンション高いなあ、神崎さん。




「こんなに強い女性は初めて見ました!」




「大体の男性よりは強いと思いますよ・・・」




素手なら絶対に勝ち目はない。


いや、武器を持っててもまず戦う気にはならんのだが・・・


それに先輩長巻も得意だしな・・・




「南雲流ってすごいんですねえ、バトル漫画みたいです」




感心したような大木くんに反論できん・・・特に先輩方は化け物揃いだし。


残る六帖先輩もヤバいしな。


まず師匠の存在がファンタジーだもん。


結局、俺は何も言わずに煙草に火を点けた。






「じゃあ、またちょいちょい来ますんで~」




「すまーん!よろしく頼む~!」




「アイアイサー!」




大木くんが緑色のバイクにまたがり、手を振って去っていく。


あれは自衛隊のやつだな・・・直したんだなあ、アレ。




「エンジニアとしても一流ですね、彼は」




どっちかというと爆弾製造のインパクトが強いけど。


生き残るべくして生き残ってるって感じだなあ・・・




「さて、お誘いもされてるしおっちゃん宅に行きますか」




「わ、私もいいんでしょうか?」




「いいに決まってるでしょ?それとも俺の家に1人で泊まります?」




「そそそそれは無理です!無理です!!」




・・・意外と怖がりなのかしら?神崎さんは。


そんな全力で否定しなくても・・・


まあいいか。




気を取り直して軽トラに乗り込み、エンジンをかける。


戸締りも確認したし、出発しますか。


おばちゃんが作る夕ご飯が楽しみだなあ。








「は~・・・いい湯だなあ」




「いいゆだね~」




美玖ちゃんと一緒に湯船につかる。


・・・おっちゃん宅の風呂はやはり最高だなあ。




「薪も随分備蓄したからね、今年の冬も楽々乗り越えられるよ」




敦さんが体を洗いながら楽しそうに笑っている。


・・・いつだったか担いでた丸太、全部薪になったんだろうなあ。




おっちゃん宅に着き、夕食をご馳走になった後こうして風呂に入っている。


ちなみに夕食は猪の生姜焼きだった。


美味しすぎてご飯が対消滅したわ・・・


狩人ってすごい。


今回も小鳥遊さんと敦さんのタッグで捕まえたらしい。


小鳥遊さんが仕留め、敦さんが担ぐ。


うーん、適材適所。




美玖ちゃんが久しぶりに一緒に入りたいと言ったので、敦さんにも声をかけた。


今回はサクラもいないし3人でも入れる。


それに誘わないとすごくかわいそうだしな・・・




神崎さんは女性陣と一緒に入浴した。


その際の、『凜ちゃんすっご!腹筋すっごい!』という美沙姉の言葉が茶の間まで響いて大変気まずかった。


風呂上がりの神崎さんは、比奈ちゃんにどうしたらそんなに腹筋が割れるのかと質問攻めにされていた。


割りたいのか・・・比奈ちゃん。


一体何を目指しているんだ・・・




「おじさん、このきずどうしたの?」




そんなことを考えていたら、美玖ちゃんが俺の左腕を心配そうに見つめている。


大分治ったが、以前に散弾銃で撃たれたところだな。




「あー・・・うん、あのね・・・サクラと散歩してたらこけちゃってさあ。痛かったなあ」




「いたそう・・・気を付けてね?」




「うんうん、もう大丈夫だからね」




心配そうな美玖ちゃんに嘘を付く。


流石に鉄砲で撃たれたよガハハなんて言い辛いしな・・・許せサクラよ。




「どれくらい前の傷だい?これ」




傷を見た敦さんが聞いてくる。




「えーっと・・・一週間ちょい前ですかね」




「・・・化け物じみた回復力だね、田中野くん」




そうかなあ。


そんなもんでしょ、これくらいなら。




「君は人より無理ができる体質だろうけど、無理をしていいってことじゃないんだよ?」




「返す言葉もございません・・・」




風呂の中で反省する羽目になった。


だが、どうせこれからも無理をすることになるんだろうなあ・・・と、もう1人の俺が囁く。




「君に何かあったら美玖やみんなが悲しむからね、気を付けなきゃ」




「そうだよ~、おじさん気を付けてね!」




「はぁい」




いろんな人に心配かけるなあ・・・


次こそは怪我をしないようにしなければ。


もっと稽古しないとなあ・・・






風呂上がりにおっちゃんが某江戸の殺し屋シリーズのDVDを見るのに付き合い、早めに就寝することにした。


レオンくんは早々にケージに入って夢の中だ。


遊び疲れたんだろうかな。


なんにせよ、ここに早く慣れてくれるといいなあ。




明日は秋月に行くだけだからからそんなに早くに起きる必要はないが、なんだかんだで運転の疲れも溜まってるし・・・




「えへー、あったかぁい・・・」




「でっかい湯たんぽだなあ・・・」




当然のように横に潜り込んできた美玖ちゃんの体温を感じながら、俺は目を閉じた。


サクラはいないが、いい夢が見れそうだ・・・


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