第81話 中村家の安らぎのこと

中村家の安らぎのこと








「おじさん!かわいい?かわいい?」




「超かわいい。こんなかわいい子生まれて初めて見た」




「えへー」




ここはモンドのおっちゃん宅。


時刻は夜。




現在俺は、ファッションショーの観客である。


前回神崎さんが大量に選んでくれた服。


それを美玖ちゃんが俺に見せたいといったので、急遽開催されることになったのだ。




「どこがかわいい?」




「うーん・・・その、ヒラヒラしてるところ!天使みたい!!」




「えへー」




「くそう・・・なんでデジカメを充電してなかったんだ僕は!僕の大馬鹿野郎!!」




「パパー、かわいい?」




「宇宙一かわいいよ美玖!!」




「あはー」




俺の隣では、敦さんが畳に拳を打ち付けている。


今俺ちょっと揺れたんですけど!?


どんだけ悔しいんだよ・・・


なお、スマホは持っているようなので写真自体は撮れている。


だが、より高精度で撮りたいようだ。


・・・俺も娘ができるとこうなるのかな?




ちなみに、桜井さんのことは敦さんと呼ぶようになった。


その方が気楽でいいと言われたからだ。




「見て見て!お兄さん!どう!?どう!?」




腰に手を当てたポーズで、由紀子ちゃんがアピールしてくる。


スラっとしてるからジーンズがよく似合うなあ・・・


でもウインクが下手くそ過ぎて痙攣してるみたいになってる。


笑いそうだから顔はあまり見ないようにしとこう。




「かっこいいと思うよ。足が長くてうらやましいなあ、モデルさんみたいだ」




「へっへ-!なんかテンション上がってきた!!」




ノリノリで脚線美を強調したポーズをとる由紀子ちゃんの横から、おずおずと比奈ちゃんが出てきた。




「あ、あの・・・ウチはどうですかっ?」




おお・・・なんというか、あれだ。


一時期流行った森ガール的な感じだ。


ふわふわした感じだ。




「絵本に出てきそうだねえ、うん、とってもかわいいよ」




「そっ!そうですか・・・えへへ」




・・・森にこういう小動物いそうだな、妖精的なやつ。




「あっく~ん!どうよ!?どうよこれ!?」




「宇宙一かわいいよ美沙!!」




「あ~ん!照れるぅ~!!」




「パパ、ママと美玖、どっちも宇宙一かわいいの?」




「うごご・・・!え、選べない・・・!!ぐおおおお!!」




敦さんが壮大な矛盾問題に直面して呻いている。


ううむ・・・これが家庭を持つ男の苦悩というやつか・・・


巻き込まれたら困るから触れないようにしておこう。




キャッキャと賑やかな女性陣を見る。


しかし神崎さんはさすがだなあ・・・可愛いと動きやすさを両立した服装ばかりだ。


俺が選ぶと機能性オンリーになっちゃうからな、やはり頼んでよかった。




「まったくよぉ、うちの家も随分賑やかになったもんだ」




「ほんと、毎日賑やかで楽しいわぁ・・・孫が増えたみたいで」




おっちゃん夫婦も楽しそうだ。


後で気づいたんだけど神崎さん、おばちゃん用の服も用意してくれてたみたいだ。


有能すぎる・・・マルチな才能すげえなあ。




「あっ、そうだおっちゃん。この前知り合った人なんだけど、太田警部補さんがよろしくってさ」




ふと思い出したので伝えておく。




「太田ぁ?・・・アレか、髪の薄い中肉中背の?」




「うん、そうそう。道場の後輩だって?」




「おう、そうだよ。懐かしい名前じゃねえか・・・あいつ、元気だったか?」




「中央図書館の避難所の責任者だったよ。元気そうだったな、大変そうでもあったけど」




この前の顛末を話して聞かせた。




「どこの避難所にもアホはいるんだなあ・・・アイツも苦労するぜ、また薄くなるんじゃねえのか、髪」




・・・同じ男として心から同情するわ、それは。


俺も気を付けよう・・・昆布とかを貪り食えばいいんだっけか?


もうちょっと暑くなってきたら海に潜って探すか・・・




「ま、アイツもかなり『使う』から、暴徒とかゾンビ相手にはなんともなるだろうが・・・」




「所作に隙がなかったからね、太田さん。ただ剣道っぽい感じじゃなかったんだよな・・・」




「剣もなかなかだが、アイツの獲物は槍だ。うちの流派じゃねえが、かなりのもんだぜ」




槍かあ!なるほど・・・


槍は上手い人が使うととんでもないからな・・・うちの師匠も使ってたなあ。


間合いの外から一方的にボッコボコにされたのを覚えてる。


まあ、師匠は剣も素手も暗器も刀も何もかも強かったバケモンだけども。


・・・っていうかうちの流派、多岐に渡りすぎてるんだよなあ・・・


俺なんか立ち技と居合に手裏剣、それに組み技くらいしか使えないからなあ・・・




「ねえねえ、お兄さん!今さ、神森くんの話してなかった!?」




いつのまにか近くにいた由紀子ちゃんが聞いてきた。




「お?知り合い?」




「生徒会で書記やってた子じゃないかなあ・・・すっごいイケメンでしょ?」




世間の狭さがとどまるところを知らない件について。




「・・・そいつって、根拠のない自信に満ち溢れてて、3人くらいの取り巻きがいて、人の話まったく聞かないやつだった?」




「うあ~、多分同一人物だよお・・・ハーレム君ってあだ名で呼ばれてたなあ。今は中央図書館にいるんだね?なんかあったの?」




「なんか神崎さんから手を引けとかわけわかんないこと言って喧嘩売って来た」




別に隠すようなことじゃないので素直に教える。




「ええっ!?・・・まあ、神崎さん美人だもんねえ・・・あの子らしいなあ。大丈夫だったの、お兄さん」




「思い切り田中野ブリーカー・・・じゃなくてベアハッグかけたら失神して失禁してた」




「なにそれ!?・・・でもちょっと見てみたかったかも」




「やめときなさいよ、目が腐るよ?・・・ひょっとして由紀子ちゃんもアイツにちょっかいかけられてた?」




「うー・・・どうなんだろ?女の子たちと話してばっかりで、あんまり仕事しないから好きじゃなかったなあ」




どうやら、『まともな』女子生徒からはあまり好かれてなかったみたいだな。


当たり前か。


一応ジャンル的には大人の俺でも、会話してるとイライラしたもんなあ。


そういえば、図書館では取り巻きの姿がなかったなあ・・・アイツのことだから見捨てて逃げたりしたのかな?


まあ、女どもも同レベルのアホっぽかったから何とも思わないけども。






「おじさん!なんのお話してるのー?」




ボケーっと考えてたら美玖ちゃんが話しかけてきた。


・・・教育に大変悪いからごまかしておこう。




「あー・・・うん、どんな男の人がかっこいいのかなあって話。ねえ由紀子ちゃん?」




「そうそう!美玖ちゃんはどんな人が好きなのー?」




うまく乗ってくれたな由紀子ちゃん。




「えっとねー・・・」




うお!?いつの間にか背後に敦さんがいる!?


娘の好みがそんなに気になるのか・・・男親ってこんなもんなのか?




「おっきくて、強くて、優しい熊さん!!」




「な、なるほどぉ・・・」




最後の条件で人類飛び越えてる!?


・・・なお、敦さんは満面の笑みだ。


幸せそうで何よりである。




「さっすが、アタシの娘!」




美沙姉も満足げだ。




「そうよそうよ、やっぱり男は強くて優しくないと・・・むしろそれだけでいいのよ?比奈ちゃんもよく覚えておきなさいね!」




「はっ・・・はいっ!!」




おばちゃんは比奈ちゃん捕まえてなんか言ってるし・・・




「(むしろ一番つええのは母ちゃんだぞ、ボウズ)」




おっちゃんはよくわからんことを耳打ちしてくるし・・・


あーでも、この2組の夫婦見てたら確かに尻に敷かれてるな・・・


うん!女性は強いな!(学名・思考放棄)






「傷はもういいんですか?」




「うん、たまーにひきつるくらいかなあ。もう斧も持てるようになったしね」




広すぎる背中を流しながら言う。


・・・とんでもねえ回復力だ。


切断面が綺麗だったのと、神崎さんの手当のおかげかなあ。




「美玖もやるー!」




美玖ちゃんがスポンジ片手に参加してきたので場所を譲る。


頭でも洗おうかな。




ここはおっちゃん宅の風呂場である。


勧められたのでありがたく頂戴している。


山水と薪で炊いているので、今のところ燃料の心配はない。


初めは俺と敦さんが一緒に入るつもりだったのだが、美玖ちゃんも一緒に入りたいと言われたのでこのような形になった。


もちろん俺はロリコンではないので何の問題もない。


小学生の妹と風呂に入るようなもんだ。




なお、美沙姉はさすがに遠慮してもらった。


普通に入りそうになったのでびっくりしたぜ。


それでいいのか人妻よ・・・


後で由紀子ちゃんたちと一緒に入るようだ。




「パパ、どう?」




「最高!!!後で美玖の背中も流してあげるよ!」




「わーい!!」




敦さんはもう顔中幸せまみれだ。


家族っていいもんだなあ。




「おじさんの背中もやってあげるね!」




「うわっびっくりしたぁ!?」




急に背中にスポンジの感触がきたので驚いた。




「んしょ、んしょ・・・どう?」




「最高!!!」




「えへー!」




なんとも言えない幸せ感がある・・・娘がいたらこんな感じなのかなあ。


いつか「パパとお風呂入るの嫌!」なんて言われたら、敦さんショックで死にそうだなあ。




風呂桶はかなりデカいが、敦さんもかなりデカいので先に美玖ちゃんと入ってもらう。




「おじさん、ケガいっぱいしてるね・・・いたくない?」




「山から滑落したのかい?それ」




美玖ちゃんたちが心配そうに声をかけてきた。


敦さん、普通滑落したら死んじゃうでしょ・・・




「ああこれ?これはねえ、ぜーんぶ剣術のお稽古でできた傷なんだよ。今は全然痛くないから大丈夫だよ」




「これはー?」




右肩の傷に美玖ちゃんが手を当ててくる。


こしょばい。




「えーっとね、確か避けそこなって手裏剣が刺さったやつかなあ?痛かったなあアレ」




「こっちはー?」




「あー・・・これは山の中で無理やり鹿と戦わされた時かな?角が痛かったなあ・・・」




「じゃあこっちはー?」




「上から竹槍の束が降ってきた時かなあ、これはさすがに病院に行って縫ってもらったなあ」




「田中野くん・・・きみ、戦国時代からタイムスリップしてきたのかい・・・?」




違うの。


うちの師匠が頭おかしいだけなの。


そのおかげで今でも生き残っていられるから、まあいいんだけどさ。




「けんじゅつって、大変なんだねー・・・」




「美玖、たぶん普通はそんなに大変じゃないと思うよ・・・?」




その通りでござる。








「ほあー・・・風呂上がりの一服はうめえなあ・・・」




縁側で火照った体を冷ましながら一服。


普通ならビールなんだろうが、俺の場合一瞬で回ってフラッフラになるからなあ。


うーん、いい気持ちだ。


夏になると蛍が出るらしいし、この家では風流が満喫できるなあ。




俺の自宅?たまにゴキブリが出るくらいだよ。


最近はアシダカ軍曹のおかげでめっきり見なくなったけど。


アシダカ軍曹のビジュアルもけっこうキツいという欠点があるけどな。


ハエトリグモなんかは目がつぶらで意外とかわいいんだけどな・・・小さいし。




「一朗太ちゃん、はい麦茶」




「うわあ、ありがとうおばちゃん」




おばちゃんがお盆に乗せた麦茶を差し出してくる。




「うまぁい!」




キンキンに冷えててうまい!


井戸水で冷やしてるのかな?




「私まで服もらっちゃって悪いねえ・・・神崎さんにお礼言っといてね」




「あーうん、わかった」




「今度家まで連れていらっしゃいよ、美玖が会えなくて寂しがってるし」




そういえば、ここらへんの捜索者は手つかずだったな。


今度誘ってみようかな・・・




「あんな人が、一朗太ちゃんのお嫁さんになってくれたらいいのにねえ・・・」




「ゴパァ!?」




あああ麦茶がもったいない。




「あのねえ・・・あんな美人さんは引く手数多に決まってるでしょ?わざわざこんな年の離れたオッサンなんかに・・・」




「あら?私とお父さんも結構離れてるわよ?結婚に年なんかあんまり関係ないわよぉ!」




背中をバンバン叩いてくる。


おっちゃんそっくりだわこういうとこ。




「どうしたの、おばあちゃん?」




ひょっこり美玖ちゃんが顔を出す。




「うん?一朗太ちゃんにねぇ、いいお嫁さんがいないかなって話してたんだよ」




やめてください(恥ずかしくて)死んでしまいます。




「お嫁さん?」




「そうなのよぉ・・・かわいそうだから美玖、お嫁さんになってあげる?」




やめろォ!?事案になるだろォ!?




「あのねえおばちゃん・・・」




「うん、美玖が16歳になったらいいよー!」




ファー!?!?!?!?


意外と現実的だこの子!?




「あらまあ、意外に好感触だわ」




やめて!逮捕されちゃうからやめてぇ!!




「田中野くん・・・?」




痛い痛い痛い肩が粉々になっちゃう!?


いつの間にか後ろにいた敦さんの握力がヤバい!?




「一太ぁ・・・?」




美沙姉まで!?


いかんこのままでは俺の方が〇ァンネルよろしく分離してしまう!!




「みみみ、美玖ちゃんん・・・?パパはどうなのお・・・?」




「パパと結婚?したいよ?」




何とか言葉を絞り出す。




「ええええ~?駄目だよ美玖ぅ~~~困ったなあ~~~~」




「あっくぅん・・・?」




「ヒエッ・・・!?」




ふう、なんとかなったな。


美玖ちゃんがあの年で助かった・・・


視線の先で親子3人がバタバタ暴れている。


仲がいいことだ、うん。






「ねえねえ!お兄さんの好きなタイプってどんな人~?」




「ウチも気になります!」




いかん藪をつついたら蛇どころか八岐大蛇が!!!




「え~っとお・・・身長57メートル、体重550トンくらいのお・・・」




適当にごまかしながら、俺は煙草に火を点けた。


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