3月12日 つのしま除籍前
昨晩の呉は雨が降っていった。何の不安もいらないのだと俺に言い聞かせるように小波のような水音が布団の中の俺の耳にも届いていた。今朝は太陽こそ出てはいないが、雨は止み静かな火曜日といった感じである。
「時間まで散歩してくる」
「俺、コンビニ行きたい」
持て余した暇を潰すために艇から降りれば、当たり前の様に【うらが】が着いて来た。アレイからすこじまの赤いレンガで舗装された道にできた避けるのも面倒なくらい大きな水溜まりを飛沫を上げないようにゆっくりと二人で歩く。横断歩道を渡ってすぐのお馴染みのコンビニを使うのも今日が最後だ。突然、聞き覚えのある汽笛の音がして海の方を見ると、これまた見慣れた掃海母艦が港の外を目指してゆっくりと進んでいた。
「【ぶんご】の出港、今日じゃなくても良いじゃん?」
「俺に言われてもな」
港に残る方の掃海母艦【うらが】に言えば、【うらが】は肩を竦めて笑う。
「新旧母艦に挟まれる気満々だったのになー」
ぶんごはゆっくり進んでいるはずなのに、あっという間に遠く小さくなる。去っていく艦が見えなくなるのは早いものである。
「あーあ、結局見送ってもたわ」
「そうだな」
あと二時間もすれば見送られるのは自分の方なのだが、【うらが】は特に何も言わない。関西に長く身を置いたせいかツッコミが欲しくなってしまっている。
「俺、横浜で遊ぶタイプのシティーボーイだったのにな」
十年あれば人も艇もかわる。
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