十二月二十一日 FFM6あがの進水
いつもは溶接やクレーンの動く音、人の声や足音が聞こえるこの場所が、今日は雨音だけを残してとても静かだった。少し寂しい感じがして、いつにも増して寒い気がした。暖を取ろうと、ほうと手に息を吹きかけすり合わせるが、冷きった手先はなかなか温まらず、何度も息を吐いた。自分の横には数日前からなんだかぐったりと疲れている【ククリ】と、そんなことはお構いなしな【タマノ】、二人の【座敷童】が式典の進行を見守っていた。
「さあ、【FFM6】、いよいよだ」
【タマノ】が、そう言って飾られた演台を指す。
「本艦を『あがの』と命名する」
【あがの】、自分の名前が告げられ銀の斧がカンッと音を立て支綱を切断する。それと同時に汽笛が鳴り響き、パステルカラーの風船が雨粒とは反対に上へ上へと昇っていく。最後に打ち上げられた花火の音はまるで祝福の拍手のようだった。
「【あがの】、おめでとう。 お前が進めば航跡ができる、それが誰かの澪標になることを心に留めていけ」
「おめでとう、【あがの】。 お前が作る航跡を楽しみにしているよ」
「ありがとう」
自分の心臓は、まだ熱を持っていないはずなのに、海と雨の水の冷たさが気にならない程に、身体が熱かった。
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