十一月八日 皆既月食、天王星食 わかさ
何もない穏やかな真っ暗な海と夜空、境の分からなくなってしまった二つを一辺に視界に納めれば、この世界の全てを見ている。そんな生意気な気分になってしまうのも仕方がない。しかし、今日は満月だ。明るい金色の月は黒一色の洋上に銀色の路を敷き、海の住人たちを真っすぐに自分のバウガントリーの下まで導いているようだった。洋上の銀色の路がほんの少しだけ陰る。
「月食、始まったな」
見上げれば月の端が不自然に欠け始めていた。月から少し離れた肉眼では白く見える星、天王星も今日は隠れてしまうらしく、陸の上でも今夜はたくさんに人が同じ夜空を見上げていることだろう。なにせ四百四十二年ぶりだとインターネットを始め天文界隈は大盛り上がりらしい。ゆっくりと赤くなっていく月とそれに近づいていく天王星を見守る。三十五年、人間としては短く、艦としては長い生涯の中でこの光景を見られるというのは奇跡に他ならないのだ。
「三十年超えて生きてると、色んな事があるな」
まだ走れと言うのなら、必要だと思ってくれているならば、次代までの繋ぎとしてくれるなら。自分は、この灰色の老体に鞭を打つのもやぶさかではないのだ。
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