五月二十八日 掃海殉職者慰霊行事
【うらが】が予想外のアクシデントで横須賀から動くことができなくなり、止む無く留守番となってしまった。そして、その代わりに急遽派遣されることになったのが我らが掃海母艦【ぶんご】である。四国高松の薔薇香る穏やかな港に【ぶんご】【えたじま】【つのしま】の、呉でよく見る掃海セットが揃ってしまった。
「いつメンってやつや」
「そうだな」
「俺は初めてですよー、一般公開」
当たり前のように自分を経験者の様に語る先輩たちに、控えめなツッコミを入れれば先輩の小さいほう【つのしま】が首を傾げる。
「え? えっちゃんは前に九州行ってたやろ」
「自由に人が出入りする公開は初めてなんですよ!」
「そっかぁ」
【つのしま】はニヤリと笑う。
「まあ、でも今日はのんびりしてる暇はないからな」
「知ってますよ。 神社にお参りにいくんですよね」
「そっ、毎年恒例の殉職者慰霊祭。 って言っても俺達が参加するのは二年ぶりだな」
そんな会話をしている間に用意された小さいバスに乗り込み、邪魔にならないように隅っこに座る。せっかくならば切符を鋏で切ってくれると噂の電車に乗ってみたかったが、そんな時間はないらしい。バスは滞りなく進み街を抜け、長閑な田舎の道を走っていく。六月の近い今日の日差しはもうすっかり夏のものになっていて、黄金色の麦の穂を照らしていた。道の幅が狭くなり、車よりも通行人が目立つようになった所で、バスが駐車場に入る。
「ほら、降りろー」
【ぶんご】に促されてバスを降りると、表参道特有の賑やかな雰囲気が伝わってくる。
「ほら、えっちゃん、誘惑多いけどそれはまた今度な」
「うどんは晩飯にでもするか」
区切りごとに大きさの揃っていない階段が目の前に聳える。夏服とはいえ、上に着くまでには一汗かきそうだ。
鳴り響く弔砲。海の先人に安らぎあれと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます