五月三日 もがみと贈り物
大小様々な艦艇が掲げた五色の旗で彩られた、祝日の横須賀港。この大きな港に海側からやって来たのは今日が初めてだ。そして、今日からここが俺の母港だ。
「【もがみ】!」
タグボートに見守られながら桟橋に舫をかけて、数分もしないうちに自称弟の【くまの】が飛んできた。
「待ってた!」
全身で喜びを表す様子は、いつか見た散歩中にはしゃいでいる犬のようだと思った。
「うん、お待たせ。 抱きつくのはやめて」
今にも飛びついて来そうな【くまの】を制止すれば、後ろで【きりしま】さんの笑い声が聞こえた。【くまの】がこのままの勢いで間違って、最年長の【わかさ】さんに突っ込んでしまうかもと思うと、笑い事ではない。
「あ、そうだ、【もがみ】。 これ、プレゼント」
俺の制止に少し眉を下げ残念そうな顔をする【くまの】だったが、すぐに表情を明るいものに変えて、ポケットの中から細長い箱を取り出した。
「ありがとう。あけてもいい?」
「もちろん!」
包装紙の端っこを留めているセロハンテープを、爪を使って剥がし、出来るだけ丁寧に開いていく。包装紙の中から現れたのは、三月の末に俺が【くまの】に贈った物の色違いの青い箱だった。蓋を開け中を見れば、春の空の色をした万年筆が収まっていた。
「俺とお揃いにした」
【くまの】は俺の顔を見て嬉しそうに笑う。
「インク、買いに行こうか。 黒か青の」
「最近はもっと可愛い色もあるよ」
「仕事用にするから」
「そっか」
五色の旗が五月の空の下で閃く。喜びの色。やっと君の本体に会えた日。
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