Ep.12 作物の効果

 〈一気に口の中に流し込んだ。無味無臭だった。目を瞑れば水と言われても区別出来ないだろう。飲み込んだ液体がゆっくりと喉を伝って内部に入り込んでいくのが分かる。〉


 そしてマテリが液体を飲み込んだ直後だった。彼の顔が赤みがかり、強い興奮を引き起こしたのだ。


 「ハァハァ……、おい何だよこれ。まさか毒じゃないだろうな?ハァハァ……」


 〈液体が胃の辺に届いた頃だった。気分が高揚し手足がソワソワし始めた。興奮しているからなのか呼吸も速く、心臓の動きも速い。それも自分の脳ではコントロール不能なほどの激しさだ。慌てて一緒に飲み込んだ男に尋ねた。〉


 「おい!お前何を喋ってんだよ。ハァハァ……」


 〈質問しても解答がない。それどころかこちらの声が全く聞こえていないように感じる。呼吸が安定しない中、彼に近づき何を言っているのか聞き取るために耳を傾ける。すると男が話していたのは聞き取ることの出来ない不可解な呪文?だった。〉


 「laːwadifəɾiʃbusɛːɾ.laːwadifəɾiʃbusɛːɾ.」


 「何呪文なんか唱えて……って何だよあれ」


 〈呪文を唱える男の方を手足を抑えながら不思議そうに眺めていると上から何かがこちらへとゆっくり降下してくるのが見えた。〉


 〈5人?6人?いやまだいる。どんどん下に降りてくる。姿形は人間と変わらないがやっていることは人間とはほど遠く離れていた。まず重力の力を無視した動きをしているからだ。綿のようにふわふわと落ちてくるなんて人間に出来たことか?〉


 マテリは現実に何が起こっているか理解出来ずに混乱しているように見える。そして上から現れた謎の人間の姿をした存在は完全に地面に降り立ち、マテリの頭を抑え興奮作用を止めた。


 「な、何すんだ。って……ふぅぅぅ……」


 〈さっきまで続いていた興奮した気分が徐々に抑えられていく。やがて自分の力でコントロール出来るまで落ち着いてきた。冷静になろう。〉


 「大丈夫、毒は入ってないわ。興奮してるみたいだけど私が元に戻したからもう大丈夫よ」


 〈非常に大人びた背の高い女性だ。地上にいる自分の言葉を理解しており、おまけに上から降ってきた時に自分の話を聞いていたようだ。〉


 「あなたが他の世界からやってきたまれびとさんね。聞いた通り痩せ細った男の子だわ」


 「えっ?まれびとさんどこどこ?」


 「ほらあれだ。あの痩せてる少年だよ」


 〈地上に降りてきた他の人達も自分の方へと寄ってきた。夢の中でアコリウィが言っていた精霊というのはこの人達ではないだろうか?そんな考えが頭に浮かんできた。〉


 〈機械もつけていないのに、上から降りてくるなんて人間には出来るはずがないしアコリウィは精霊は人間そっくりの姿をしていると言っていた。こんな超常現象のようなこと、精霊以外に誰が出来るのだろうか?彼らを見る度にその考えが強まっていく。そこで目の前の背の高い女性に聞いてみる。〉


 「なぁ、質問なんだがあなたは精霊なのか?」


 「そうよ。私達は精霊。村の周りにある森の中に暮らしているわ。その森の中で生まれたのよ。そして私は水、水のほとりで生活しているの。他の精霊も森の至るところで暮らしているわ、聞いて見ると良いんじゃないかしら」


 〈精霊の方も村人と同じく自分に興味津々のようだ。話しかける前からこちらに近寄ってくる。〉


 「ねぇ、この子が君達の村にやってくるって言われてるまれびとさんなの?」


 精霊の1人はマテリを小馬鹿にするかのような口調で彼に話しかけた。


 「な、何だよいきなりそんなヘラヘラ笑いながら……俺のこと馬鹿にしてるのか?」


 「あはは!そうだよ。だってそんなにガリガリで今にも倒れちゃいそうなんだもん」


 「お前、小さい体に見合わずに生意気なヤツだな。ムカつくヤツ……」


 「やーい!悔しかったらここまでおいでよほらほらぁ~」


 「ッ!こんの!」


 〈俺の身長の腰辺りまでしかない精霊少女に小馬鹿にされて悔しい気持ちが湧き上がってくる。そんな自分を挑発しているのか絶対に上がることの出来ない空中に逃げてしまった。悔しさのためか右手に縄がある幻覚が現れ、それを少女に向けて投げる動作を行った。〉


 「何してんの~?そんなんじゃ捕まらないよぉ?やっぱり弱いんだねぇ~」


 〈あ~もうイライラする。このまま挑発され続ければ湧き上がってくる怒りの波に飲まれてしまうのは時間の問題だ。そして彼女がさらなる挑発をしようと息を吸い込んだ直後だった。〉


 「おいおい、その辺にしとけって。向こうも凄くイライラしてるぞ?キレたらどっか行っちまうだろうからそこまでな?」


 「むぅ~……、分かったよ」


 〈他の精霊が彼女の挑発を遮ってくれた。こうなるとすぐに怒りは沈んでいったので一安心。彼に感謝しなければならない。〉


 「あ、ありがとう」


 「気にすんなよ。精霊の中にはあんなふうに軽いノリで相手をからかうヤツもいるんだよ。ああいうヤツがいるんだなぁ程度で見てくれるとありがたいな」


 「でも村人だけじゃなくて精霊にまで知られてたなんて……。これも村の予言か何かなのか?」


 「いや違うよ。俺達精霊はただこの村が気に入って寄ってるだけだよ。後から村人に聞いてあんたが来ることを知ったんだ」


 「そうだったのか」


 「それもあの男からな。バオクルの汁を飲んだ方のヤツだ。おーい、リガブ。まれびと君に村の話を伝えてやれよ」


 「リガブ?あの男リガブっていうのか?さっき村のはずれに待ってただけでそのままここまできたもんだから名前なんて分からなかったよ」


 〈今まで精霊は姿形のない黄色の塊だと思っていたからだ。2本の手足を持ち、話す能力があるのは人間だけだという自分のイメージが崩れていく。夢の中でアコリウィに同じことを言われたときはまだ半信半疑だったが精霊を目にした今、確信へと変わった。〉


 マテリが精霊について考えている内にリガブがこっちに走ってきた。


 「はいはい、何だって?」


 「お前からまれびと君に村のまれびと話を伝えてあげろよ。多分ここに来た時から村人が何を思って動いてるのか分かってないぞ?」


 「そうだな。さっきは自己紹介もせずにここまでありがとうな。俺はリガブって言うんだ。じゃあまれびとさんことマテリ、これから村に伝わるの話をするぞ」


 〈アコリウィからは俺は村人から特別な力を秘めたヤツだと聞かされたがまだ情報が不十分だった。だからここで詳しく話を聞いておきたいと考えリガブの口に耳を近付けた。〉


 

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