Ep.10 歓待されたまれびと 後
「はっ!はぁ、はぁ……ちゃんと息、出来てるな」
〈気が付くとそこは縦長の椅子の上だ。俺はそこで横になっていたのだ。気が戻った瞬間は水から顔を出した時と同じような反応をした。すぐに元に戻ったので辺りの状況を確認してみる。〉
「あんた、大丈夫だったかい?」
「さっきはすまなかったねぇ」
「ほら、手伝うから立ちなって」
〈先程と変わらず自分の周りには大勢の村人が群がっていた。体や頭は何の問題もない。村人に心配をかけて少し申し訳ない気持ちも出てきた。〉
「大丈夫、一人で立てる」
〈言葉の通り、俺は一人で立ち上がった。急に起き上がったためか足元がふらつく。最後にはよろけて結局、村人に支えてもらった。〉
「あんたの体、フニャフニャじゃないか。よくこれで今までもってきたねぇ」
〈確かに、手足を支えてもらったのは女性だが、俺より足腰がしっかりしているような気がする。一体何を食べて動けばこの樹木のように頑丈な体が手に入るのだろう。そう思っていると後ろから食べ物の匂いがしてきた。〉
「何かすげぇ良い匂いしてきたぞ。こっちか?」
マテリは食べ物の匂いに釣られるように店の中に入った。背後からはデナキュガ含む数人の村人が続く。
〈この店も他の建物と同じく木で作られており、食料に混じって濃い茶色の木材から匂いが入ってくる。また、灯りは昨夜自分が一夜を過ごした宿と同じくランプで照らせれていた。だが部屋の隅々まで光は届いており明るい。チゴペネとはやはり違う。〉
〈そう感じていると後ろから女性が緑色の丸いものを皿に入れて俺の方に近づいてきた。彼女が近づくに連れてその丸い物体からは甘い匂いが漂ってくる。今俺は腹が減っているがこの匂いを嗅ぐと余計に腹がなってしまうのだ。〉
「ねぇ、君。昨日ここに来たまれびとさんだよね?動物みたいな鳴き声がお腹からしてたよ?だからぜひこれ食べてよ。私が山から採ってきた木の実で作ったんだよ。村で人気があるんだよ?」
〈こんなことを言われて自分が断るだろうか?答えはいいえだ。喋る前に緑色の食材に手を伸ばした。ものすごく弾力のある感触だ。若干、水気があるのか粘り気もする。まるで水溜りで水が蒸発した後に残る泥を触っているようだ。だが食欲はそんなことで止まったりはしない。躊躇なく口まで持っていく。〉
「凄くうまいよ。ありがとう。おかげで少しずつだけど警戒心が薄れてきたよ」
〈自分が安堵の表情を見せると周りの人間もニッコリと笑っていた。特に食材を渡した小柄な女性はそれが顕著だった。こういう表情を見ると人は気が休まるものだ。俺も例外なく気が休まった。〉
「ふふっ、そんなに美味しそうに食べてもらえてこっちも嬉しいよ。だけど摂りすぎには注意してね。他のものもちゃんと食べなきゃ。じゃないとこれからずっと痩せたまんまだよ?」
例に漏れず彼女もマテリより身体がしっかりしているように見える。この村の環境だと身体が頑丈に育つのだろう。
「君にまでそう言われちゃったか……、どうすれば皆みたいに丈夫になるんだ?昨日もちょっと走っただけでヘトヘトになったんだ。皆俺が住んでた町にいる人よりも運動能力が良いみたいだね?」
〈チゴペネには足の速さや腕の強さを競い合う競技大会が存在し、力自慢が集う。俺も友人が試合に出るところを観戦したことがあるのだ。彼らと勝負すれば流石に負けてしまうだろう。だが彼らの力をグラスの水に例えて揺らせば溢れる程度の力があるように感じる。今の自分では村人には女性であっても倒されてしまうと思う。そう考えると何だか恥ずかしい気持ちが上がってきた。早くヒョロヒョロの弱虫から脱却したい。〉
「なぁ、俺も村の皆みたいにしっかりと動ける人間になれるよな?今のままだと女性にも負けちゃいそうで怖いんだよ」
「大丈夫だよ、この世界に迷い込んでそれで自力でここまで来れたんだよ?ちゃんと食べて寝てこの村で生活してけば体だって育つよ。時間はかかるだろうけど私も手伝うよ。それに他の皆だって。だよね、デナキュガ?」
「だな、まれびとさん。バオクルが収穫出来るまでに強くなってくれよ?その間に出来る限り手助けしてやるから。あっ、そうだ。お前に会ってもらいたい奴がいるんだよ。影が真後ろに来る時間に村のはずれに来て欲しいんだよ。」
〈デナキュガの目が一瞬上に向いた。チゴペネでは何か小さな悪巧みをしている時の表情だ。〉
「どうしたんだその表情、何か気味悪いぞ?それに影が後ろに来る時間?どういうことなのかサッパリなんだよな……」
「まず立ち上がるんだ」
「あ、あぁ、立ったけどこれで何が分かるんだ?」
「そのまま影の方に首を傾けてみな」
「左斜め後ろにあるけど?」
〈後ろには自分の身長の首元まである影が伸びていた。これが一体どうしたというのだろう?〉
「影の反対方向に太陽が見えるだろ?あれがこれからどんどん高い所に移動するんだよ。そうすると影は反対方向に動くんだ。そうして自分の真後ろにまで影が来るんだ。まぁ、目で見ただけじゃ動いてるかなんて分かんねぇけどな」
「つまり、そうやって影が真後ろになったらあそこに見える集落の途切れ目に来いってことでいいのか?」
「そういうことだ。まだそれまで時間があるからゆっくりしてな」
〈そう言ってデナキュガは前の方へと歩いていった。どこに行ったのかは分からない。パッと見たところ、この村はそれほど広くはない。おそらくこの村のどこかにいるはずなのだがいちいち建物の中に入るのも面倒くさい。そもそもこの後、また会うことになるのだから探す必要もなかった。〉
〈だが、影が後ろに来るまでじっとしているというのも退屈だ。今のうちに村がどこまで広がっているのかを確かめに行きたい。〉
「よいしょっと。ちょっと回ってくるか」
〈俺はイスから立って村の中を周り始めた。先程のように村人は押しのけては来ない。自分がいることに少しずつ慣れてきたようだ。ただ、まだこちらをじっと眺めている様子は見て取れる。最初は違和感を感じたが自分も慣れてきた感覚はある。人目を気にせず歩くことが出来るくらいだ。〉
「はぁ~~、それにしても木しかねぇなぁ」
〈チゴペネとは違ってどれも木造の建物ばかりだ。村を歩いているとその木の匂いが漂ってくる。自分はこっちの方が何かと気分が良い。正面から見れば屋根のない商店街を思わせる。左右には農具や木材が売られた店や来客をもてなすための宿泊施設などが並んでいる。きっと自分が一夜を過ごした宿もその一つなのだろう。そういえば俺が泊まった宿はこの村の横の方にあった。メインストリートとも言えるこの通りの他はどうなっているんだろう。気になる。〉
「こっちの方も行ってみるか」
〈人通りの多いメインストリートを外れて脇の方を歩いていくと見えてきたのは何かの作物を育てている畑だった。人が住んでいる住居と畑がこんなに隣接している光景は見たことがない。自分は都市育ちなので周りに見えるのは民家ばかりで作物は建物の中で少量を栽培するのが普通だったからだ。外でしかもこんな広大に栽培しているのを見て驚いている。〉
「うわぁ、広れぇ。って、おっと!」
〈危ない。畑のあぜ道は見た目よりぬかるんでおり、右足がグシャっとハマってしまった。そのまま体重がかかったら全身が茶色く染まるだろう。幸い、沼に入ったばかりのたころで止まったのですぐに抜け出すことができるだろう。〉
「えっと、ここはこうやって。うっわ、気持ち悪い感触」
〈するりと抜けたのは良いが感触が気持ち悪い。何かにまとわりつかれたような感覚が残る。早く足を洗いたい。チゴペネだったら蛇口を前に押せばすぐに水が大量に流れてくるのだが、この村にそんな設備はないようだ。となると川の水で洗うしかないのだが気が乗らない。川と言えば森から流れて溶け出した数しれない菌がいるのだから。〉
「水道とかねぇのかよ……。川で洗うとか勘弁してくれよ」
〈川に入れば感染症という観念が浮かんでくる。実際、チゴペネでは川に入って病気にかかる人もいた。川といったらそんなイメージしかない。洪水に巻き込まれた時は溺れる恐怖が勝り、感染症の恐怖は全く感じなかったが今になってそれが蘇ってくる。〉
「おぉ……、酷く汚れちゃったねぇ。洗わないのかい?」
〈村人の何人かが自分の方へと近づいてきた。村人はなぜ足を洗わないのか不思議そうな顔で見ている。だが汚れた川の水に入ればますます汚くなってしまう。そのことを伝えねば〉
「おいちょっと待ってくれよ。川の水だぞ?菌が潜んでる汚れた水に誰が突っ込むっていうんだよ。冗談を言ってるのか?」
「???お前は何を言っているんだい?川の水って言ったらきれいな場所に決まってるだろう?ここに持ってる農具はどこで洗ってると思ってるんだよ。あんたこそ冗談なのかい?」
「えっ?それ川で洗ったのか?じゃあさっき俺が食べたのも川で洗った食器を使ってるってことだよな……。嘘だろ……」
〈さっき口に入れた物を吐き出したくなった。ここの村人は菌の潜む川を知らないのだろうか。それともそういった感覚がないのだろうか?見たところ、何か浄化剤を入れてる形跡もない。だけど皆ピンピンしている。大通りを歩いていた時もそうだったが菌に苦しめられているような素振りは誰も見せなかった。不思議でしょうがない。〉
「あんたの世界だと物を洗うことをしないのかい?」
「いや何を言ってるんだよ。洗ってるに決まってるだろ」
「だったら何で川に入らないんだい?川の水はきれいで皆飲水にしてるんだぞ?あんたの世界でも水は飲むだろう?」
「そりゃ飲むよ。だけど菌を殺す薬を入れるに決まってるじゃないか。あんな赤茶色の土が混ざった水なんて飲んだら即、病院行きさ」
「赤茶色?あんたちゃんと目は見えているのかい?ほら、この土はそんな色してないだろう?」
〈村人はその場にある土を救い、俺に見せてきた。目を土に近づけてよく見ると確かにチゴペネ周辺に存在する土の色ではないことに気付いた。その瞬間に周りの土の色が黒みがかったものに見えてきた。意識していないとそんな細かいところまで気付くことはできない。〉
「それ、そんなに手で握って大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃなかったらこんなに大量に掴んだりしてないよ。それに水だって山から湧いてきたやつだし、菌なんて含まれちゃいないよ」
「そうか、お前らが持ってるその黒い土は安全なんだな。信じるぞ?」
「そうだよ。ついでにほら、汚れ落とさないと」
〈ほっとした自分の足に村人は水をかけてきた。黒い土が安全ということは水も安全だろうという理屈でこの時は特に抵抗はしなかった。水をかけたことで茶色く染まった足はどんどん薄橙色へと戻っていく。そこに不純物は付着していなかった。〉
「ホントだ、ちゃんと落ちてるよ。俺のいた世界じゃ川で物を洗うなんて発送がないんだ。だから今まで川は汚れてるってイメージだったんだよ」
〈小川から汲んだ水だったが浄化された水とそっくりだった。これから水は浄化剤なしで飲むことが出来そうだ。そう考えると水がきれいなこっちの方が心地良いのではないだろうかとも思えてきた。〉
「そりゃ良かったよ。あんたの世界のことを引きずってこの先怯えることがないようにね」
「あぁ、どんどん慣れていけるように頑張るよ」
〈これから先、チゴペネでの常識をこの村で比べる癖は捨てた方が良いだろう。でないと先入観が邪魔をしてこの世界の恩恵や弊害を知ることが出来なくなってしまうだろう。〉
「さっきはありがとう。おかげで変な先入観が一つなくなったよ」
〈そうこうしているうちにかなりの時間が経ったように感じる。畑を離れ再び硬い地面の上に立ち、自分の影を見る。〉
「はぁぁぁ!?まだこれしか動いてねぇのかよ……、ここの時間経つの遅せぇなぁ」
〈大事なことを忘れていた。世界が違うということは過ぎていく時間の速さも異なるということだ。チゴペネよりも進む時間のスピードが遅いのだ。チゴペネだとこの時間は既に太陽がてっぺんまで上り詰め、皆昼食の支度をしているところだ。だがこの村ではまだ太陽は上り続けており人々の活動が増える頃である。これは時間が経つごとに生活リズムがメチャクチャになりそうだ。〉
「あぁ……そうだった。時計も無いんだった。ホントに生活リズムめちゃくちゃになりそうだよ……」
〈村のどこを見渡しても時計らしきものは見かけない。では皆どうやって時間を確認しているのだろう。早く確かめて置かないと昼夜逆転の生活を送るハメになり、村に馴染むことが出来ない。〉
大通りに戻ってきたマテリは早速、時計の代わりになりそうなものを探す。
〈昔、サイトで見たことがあるのは時計の代わりに石や木で作られた塔があり、その影の動きを時間と捉えるものだった。きっとこの村もそういった類の方法で時間を経っているのだろう。でも自分で見渡すのはとても面倒なので誰かに聞いた方が早そうだ。〉
「なぁなぁ、この村ってどうやって時間を経ってるんだ?」
〈早速、村人を数人捕まえて生活リズムのとり方を聞いてみる。村人に聞けば信憑性は高いのではないだろうか。チゴペネと違って周りを通る人間は皆、目がしっかりと開いて元気に活動しているからだ。彼らの真似をすれば自然と生活リズムが身についていくだろう。〉
「ほら、まず自分の影を見てごらん?」
「さっきより影が縮まってるけどこれが重要なのか?」
「いや、そこは対して重要じゃないよ。今影は斜めになってるだろう?自分の真後ろと影まで自分がいくつ入る?」
「いくつって、2つくらいだけど……?」
「だろう?太陽が昇ってくに連れてどんどん入る数が減ってきて、一日の半分まで来ると自分が入らなくなるんだ。」
「ああ、皆そうやって時間を測ってたのか。あんまり聞かないやり方だなぁ」
「まぁ、影を見るのにも手間取ってたし慣れるまでは大変だろうね。頑張って」
「あ、あぁ、アドバイスをどうも」
〈チゴペネでは聞いたことのない方法で時間を経っていたようだ。今までは時計を見ながら時間を確認することに頼っていたが、その感覚を捨て太陽に合わせた生活を身に着けなければならない。都市育ちの自分がそれに慣れるのに一体どれだけの時間を必要とするのか。先が思いやられる。〉
「あぁ、何か座りたくなってきた。またさっきの店に行ってくるか」
〈ここでやっていけるのかを考えているうちに頭が疲れてきた。さっき行った店にはベンチのようなイスがあったので気を休めるには最適だ。店は大通りの奥の方にあるのでそこに行くまでも面倒に感じるが、この感情とはうまく向き合うべきだろう。でないと体の前に脳がギブアップしてしまうのだ。〉
「ここ座っても良いか?少し休みたくて」
「なんなら横になれるように移動しようか?」
「いや、そこまで疲れてるってわけじゃないよ。」
〈ベンチに座り太ももに肘を乗せ、前屈みとなる姿勢で休憩をとった。意外とこの姿勢は安定する。そのまま舗装されていない道を眺めているだけで心が空っぽになり、脳内の時計だけが動いていく感覚に飲まれた。〉
「あれ……?ねぇねぇ、?おーい!」
「うわぁ!ってなんだ……ビックリしたなぁ……」
〈鼓膜を針のように貫通してくる高い声に驚き、ベンチから転がり落ちてしまった。地面に着く時、❝パン!❞と響く音が出た。手の平を真正面から着いたからだ。地面は小さな石が転がる環境のため、手の平には石がめり込んだ後がびっしりとついてしまった。〉
「ご、ごめんね。痛かった?」
「ん?何だお前か。別に痛くはなかったけどメチャクチャびっくりしたぞ?」
「あははは……ごめんって。大丈夫?立てる?」
「あはは、悪いな」
〈誰かと思えばさっき俺に緑の食べ物を渡してくれた女の子だった。彼女に手を差し伸べてもらい立ち上がる。彼女の手は自分よりも小さい。にも関わらずグイッと力強く押し上げる行為に驚いた。〉
「女性でもこんなに力あるんだな。ヒョロヒョロな俺が恥ずかしく思えてくるよ。これも生活してけば治るのか?」
「治るよ。だって私より大きい体してるもん。立派な体型になれると思うけどなぁ。それでどうしてまたここに?」
「あぁ、ちょっと疲れてな。さっき座ったこのイスなら休めるんじゃないかと思ったんだよ。」
「君は凄く疲れやすいんだね。他の人と比べると何か動き方が違うっていうか……」
「そうみたいなんだよ。俺が暮らしてた世界と時間の流れ方が違うみたいで体がビビってるんだ。」
「そっか、やっぱり君はまれびとさんなんだね。私が知らないことばっかりだよ。君の世界だともっと時間が進むのが早いみたいだね。でも安心してね、さっき言われた影が真後ろに来る時間まではもう少しだよ」
「さっき泥にハマって抜くのに時間がかかったと思ったらまだ影が左にあってビックリしたんだ。具体的に言うとあとどのくらいだ?」
「うーんと……私とお話でもしてれば約束の時間になるんじゃないかな」
「えっ、良いのか?」
「良いよ。この時間は別に人もそんなに来てないし、私も退屈してたんだよね。君がいた世界ってどんなところなのか話してほしいなぁ……」
「あ、ありがとう……」
〈彼女によるとあと少しでデナキュガが約束した時間になるとのことだ。それまで話し相手になってくれるようだ。これはありがたい、チゴペネのことを少しでも思い起こせるこの行為に感謝するべきだろう。〉
「じゃあまずさぁ、君が住んでたのはどこなのかな?」
「俺が住んでたのはチゴペネっていう大きな町だよ。ここよりずっと大きいぞ。人の数もここと比べ物にならないくらい多かったんだ。」
「へぇ、どのくらいいたの?」
「そりゃ凄かったぞ。今ここに人がたくさん歩いてるだろ、皆速歩きしてるみたいだけどチゴペネじゃこんなこと出来なかったんだ。人が多すぎて地面を歩く鳥みたいになってたよ」
「うわぁ……それは大変だったんだねぇ、でもそんなに大勢いたら私が作ったお菓子食べてくれる人がいっぱい出てきそうだから行ってみたいなぁ」
「あはは、でもそれが当たり前だったからそんなに苦にはならなかったなぁ。まぁここに来て通りが歩きやすいとは思ったけどね」
「そうなんだ。ねぇ、ところでチゴペネの人ってどんなものを食べてたの?」
「白くて丸い❝オンキ❞だな。それが主食だったんだ。それを食べるために町のはずれで育てられた野菜と川から水揚げされた魚をおかずにしてたよ」
「それでそれで、果物とかお菓子とかは食べなかったの?凄く気になるな」
「甘い物が好きなんだな、そうだなぁ……市場に売られてた果物とかよく食べてたな。両手で抱えて持ち帰るくらいの大きさだったんだ」
「まるで巨人の食べ物だね。その大きさは山に入っても見かけないなぁ……。もしチゴペネに行けたらその果物も食べてみたいね」
〈こんな調子で彼女はチゴペネの作物に興味を抱いていた。地元の話で盛り上がってもらえるのは嬉しいものだ。彼女がチゴペネに来た時には市場に売られている果物でもてなそうと思う。そうやって話していると時間は進んでいき、やがてデナキュガと約束した時間に近づいてきた。〉
「あっ!ねぇ、そろそろ時間じゃないかな?太陽も正面に近いし一回立って太陽に向いてごらんよ」
「ホントだ。もう真後ろだ。ちょっと遅れちゃったかな?」
〈気が付いたら太陽は自分の真正面を向いており影もその真後ろに立っていた。つまりデナキュガが村のはずれに来いと言った時間である。ちょうど影は真後ろにいるので少しばかり遅刻したかもしれない。〉
マテリは速歩きで村のはずれへと向かう。
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