Ep.7 一安心
「凄いな、外から見たら真っ暗なのに中に入ったら何だよこの灯りは……」
〈中に入った瞬間、目に灯りが飛び込んできた。外から見た時は真っ暗で目の前に来るまで建物があると気付かなかったくらいだ。視力も良い方なので見間違えたわけでもない。〉
「はぇー、さっきの怪物もそうだけどここってどんな力が働いてる世界なんだよ?」
〈改めて今までいた世界とは違うんだなと気付かされる光景だった。外から見ると真っ暗で中に入ったら明るい、こんな技術はチゴペネにはない。炎でこんなに明るく出来るなんて知らなかったし、ここにいると心地が良い。しばらく宿泊したいくらいだ。〉
「penu siranjak i:le」
〈この建物の雰囲気を楽しんでいる間に木で作られた階段を登るようジェスチャーされたので一段ずつ丁寧に登る。❝ギコン❞❝ギコン❞と木がしなる音がよく聞こえる。まるでチゴペネに点在する秘密基地のような旅館だ。〉
「penuza waklif」
〈ここだよと言わんばかりに案内されたのは窓の先は真っ暗で何も見えない客室?だった。中央にランプが吊るされたその部屋は静けさに包まれており、睡眠を取るには最適な場所だ。生前の自宅よりも快適に過ごせるかもしれない。〉
〈それに相手は寝具の場所まで教えてくれた。ここに宿泊しても良いということなんだろう。なら彼らのもてなしに甘えてここで眠ろうと思う。〉
マテリは寝具の場所を教えてもらったあとすぐにそれを広げ横に転がる。それを見て3人は微笑ましい表情を浮かべていた。そしてマテリは3人の目も気にせずそのまま目を閉じて眠ってしまった。この世界に迷い込んで以降、怪物と遭遇したり村を探したりでずっと動きっぱなしだったので疲れているのだろう。そのことを悟ったのか3人は部屋から出ていった。
一方マテリは布団で横になった後、完全に眠りに落ちるまでの間、今日起こったことを振り返っていた。
〈今日はとても不思議なこと連続だった。それも生前では味わったことのない奇妙な出来事だ。自分は今まで死後の世界には魔法の水が流れ、そこには住民が楽しく暮らす楽園が広がっているものとばかり思っていた。だがその考えは間違っていた。〉
〈自分の想像していた死後の世界と実際の異世界、この差がどこまで開くのかで自分のメンタルの持ち用が変わってくる。〉
「クソッ!せめて言葉が理解できれば話が進むのに……マジであいつらどこの国の言葉喋ってんだよ。」
〈こんな世界が広がっていたなんて知らなかった。街で隠し通路を見つけた時のような不思議な感情に包まれている。ここで本当に聞いたこともないような世界なのかを自分の頭の中に問いただす。〉
〈何か心当たりはないのか?生前の頃は咄嗟の判断が出来ず、後からあの時はこういうことだったのかと思い出す例があとを立たなかった。だから問いただしてみる。どこか、何かないのか……〉
考えている間に時間は過ぎていく。この時マテリは仰向けで天井のランプを見つめており目は開きっぱなしだ。まるで魂の宿った岩のようだ。何度も姿勢を変えて考えて考えて考え抜く。
すると心当たりとまではいかないが一つ頭に引っかかる話が浮かんできた。
「……はっ!もしかしてあれか?」
〈雲に隠れていた疑問が一気に晴れて見えるようになってきた。そうだ、あれは隣地区の友人に聞いたときの話だ。〉
「聞いといて良かったぁ」
〈坂道を転がるボールを崖ギリギリで食い止めた後の安心感だった。実際、あと少し遅かったら完全に記憶のゴミ箱に捨てられていた。〉
〈自分が悪ふざけして石を池に投げたとき友人に顔を真っ赤にして怒られたことがあったことを思い出した。「お前さぁ、悪ふざけと遊びの境界も分かんねぇのかよ。そんなとこに石なんて投げんなよ!マジであり得ねぇ……」友人は今まで悪ふざけにも寛容な人間だったのだがこの時だけは本気でキレられたのだ。〉
〈凄い、これを機にしてどんどんその時の記憶が甦ってくる。その人格が入れ替わったような豹変ぶりに驚いた自分は顔や体が固まり、喉から声を絞り出しながら返した。「おいおいどうしたんだよ。何そんな人が変わったみたいにブチギレて……俺そんなヤバいことしたか?」何故ならこっちは石を池に投げただけだ。このような疑問を浮かべるのは当然のことだった。〉
〈すると友人は事情を知らないことを理解したのかそれまでの興奮した口調を落としおとなしい口調で理由説明を始めた。「そうだった、お前はこの池のこと知らないんだった。悪い……ついつい、あんまりに無防備なことしてたからな。この地区だと深い行けに物を投げるなってキツく言われてて」彼の言うとおり、この話は自分の住む地区では聞いたことがない。〉
〈どんな信仰を持ってるのか、感心を持った俺は彼に聞いてみることにした。「初めて聞いた話だな、もっと詳しく教えてほしいんだけど……」自分が死後の世界を信じているように他の人間も信仰を持っていることは知っている。きっと彼も同じだ。またキレられたくはないのでここで相手の考えを知っておこうと思ったのだ。〉
〈友人は落ち着いた口調で語り始める。「あぁそれはな、その池って霊界に繋がってるって言われてんだ。それで悪戯すると幽霊とか妖怪が祟りに来るんだよ。マジでここに石を入れんのはやめろよ?」取り敢えずこの池に物を投げてはいけないということは理解出来た。だが霊界とは何だろう?死後の世界とは何が違うんだろう。〉
〈「なぁ、それって俺達の地区で信じられてる死後の世界のことなんじゃ……何が違うんだ?」俺には彼の言う霊界と俺達が信じる死後の世界が同じに思えてならないのだ。すると友人は「大分違うな、だってその死後の世界って幽霊とか妖怪とかが出て来ないだろ?それに霊界はお前が言ってるみたいな楽園なんかじゃないぞ?元々こっちで生きてた人間とか動物の魂が霊界に移動してるって話だ」言い終えた後の口角を上げる表情が不気味だった。〉
〈この時は(へぇ〜そんな話があるんだ)くらいで聞き流してしたため今回の話を思い出すのに記憶を掘り起こす必要があったのだ。今思うとあの話は大変貴重なものだということを身に沁みて実感することが出来た。〉
「大分楽になったなぁ、じゃあ寝るか。これ、落とせるのか?」
〈話に納得したところで眠気を感じ、瞼が徐々に降りてくる。しかしいくら目を閉じてもランプに灯された明かりが瞼を通過して入ってくる。明かりが邪魔で寝られない、だからランプの火を消したいのだがランプは高い位置にあって自分が背伸びをしたくらいでは届かない。それにチゴペネではこんなものほとんど見かけないため取り扱い方法だって分からない。〉
〈ずっとこの明かりに悩まされ眠れぬ時間が続くのだろうか?それは絶対に御免だ。早く眠れるよう一緒に置かれている毛布を顔までかぶり光を遮断しようと試みる。〉
「これなら光は入ってこないか」
〈毛布は光を遮断出来る素材で出来ているのか、中はかなり暗かった。これなら良い夢を見られそうだ。これから先、何か幸運な出来事が起きれば良いのに。そう祈りゆっくりと休むことにした。それではおやすみ……〉
マテリは光を遮断したと同時に部屋の外からでも確認できるほどの大きないびきをかいて眠ってしまった。余程疲れていたのだろう。彼の怪物から逃れながら村を探す長い一日がようやく終了した。彼は今どんな夢を見ているのだろう?
❝タッ!タッ!タッ!❞誰かが部屋に近づいて来ているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます