Ep.5 人里の発見
〈それにしても放置された畑ばっかりで農作業をしている人は全く見かけない。もっと奥にいるんだろうか?それともただ畑を休めているだけか?〉
「畑はあるのに何で放置されてるのばっかなんだ?何も育ててないみたいだし……」
マテリは放置された畑を見て首を傾げていた。
〈ある程度畑を使った後、土地を休める必要があることは知っているがそういう場合、近くに何か作物を育てている畑があるのが普通なのだが。もういくつも前に放置されてそのまま手入れされていないとしか思えない。走りながら見ているからそう見えるだけかも知れないが。〉
しはらくすると太陽の下部分が地平線にかすり始めた。空はすっかりオレンジ色に染まりつくしており、木々は黒い影としか認識出来なくなっていた。この時マテリは地面にできた溝に隠れて微動だにせずにいた。一体どうしたのだろう?
「早くどっか行け……そう、そうだそうだそのまま奥まで行っちまえ」
〈やっぱりここにもいたか。前の方から種類の違う怪物が迫ってきたので隠れていた。早く気づけて良かった。でも不思議だ、怪物の周りが黄色っぽく光っている。明かりを貰えるなら倒して奪いたいところだが、丸腰なので立ち向かったところで被害を被るのは自分である。〉
「今だ!ふぅ、人里はあっちか」
〈怪物はこっちには全く気付かずに正面を横切って今まで自分が来た道の方へ向かった。音を立てぬよう、つま先から地面に足を付けて姿勢を低くする。これで相手には気付かれずに逃げ切れるだろう。〉
怪物が現れた時はこうやって溝や木の影に隠れるなどしてやり過ごしたうちにマテリは小高い丘の上に来ていた。
「あった……やっと人里があった」
〈遂に見つけた……太陽と反対方向が青く染まり出した頃だった。辺りは暗くなり始める代わりに自分の頭の中が明るくなり始めた。先へ進もうとする気力はこれまでの比ではない。森の中で遭遇した怪物と競争しても勝てる気がするほど気分は高揚している。〉
〈ここまで来ればもう一踏ん張り。腹も減っているし食事を提供してもらうなら人里しか思い浮かばない。ひとまず今日は丘から見える村に泊めてもらおう。〉
マテリは丘を下り始めた。森の中で怪物に追跡されている時と同じスピードで走っている。人里を見つけた喜びの力は想像を超えるものだ。でなければ空腹のはずがなぜこんなに走れるのだろう?彼はこの世界に迷い込んでから何も口にしていない。
「何だ!?この棒は?農作業用具なのか……初めて見たなぁ」
〈見つけたのは何者かに荒らされた畑とそこに倒れる木で出来た細長い棒だ。最初は農作業用具と思ったが畑を耕したり草をむしったりするには不向きな形をしているのでその可能性は消えた。何に使うかなんて見当もつかない。〉
〈でも気になる、少し手に持ってみるか〉
「軽いんだな、何かの儀式にでも使うんだろうな」
〈自分が睨んだのは何かの儀式だ。チゴペネにいた頃にもいくつかの地域で資源の採掘前に行う儀式を見たことがある。もしかしたらそれに似ているのかも知れない。〉
〈てことはここにも何か他に超常現象を操る存在がいるのかも知れない。生前の頃はこんな儀式何の意味があるんだろうと冷めた目で見ていた。だけどさっき森で怪物に追いかけられた時をきっかけに超常現象的存在の話しを聞いても驚かなくなった。きっといるのだろう〉
さらに進んでいくと土だけでなく本当に荒らされた作物が出現するようになった。
〈酷い、まるで猛獣に食い荒らされたような傷だ。作物は穴の開いたところから腐敗しており食料にすることは出来ない。腹が減っていたので状態が良かったら栄養源になっていたのに残念だ。〉
〈そしてここにも先程見た細長い棒が畑の四隅に立てられている。この先の村では一般的に行われている習慣のようだ。このような集落全体で行われている習慣を見たのも初めてだった。ここにきて初めて、人が生活している証拠を見た。〉
〈見たところ荒らされてからそんなに時間は経っていない。間違いない、この先の人里は廃墟ではなく本物の村だ。そう確信して再び足を進めた。〉
マテリが進む畑の周辺にはこの先も同じように四隅に木製の細長い棒が建てられ人里に近付くとさらに頂点に顔を覆えるほどの大きな葉が添えられていた。
「こんなに立派に立ってるのに何で人っ子一人いないんだ?里の方はちゃんと明かりが着いてるのに……」
〈農作物が荒らされてる痕跡がいくつも見つかるし、たぶん怪物の仕業だと思うが詳しくは分からない。でも不思議に感じることがある。これだけ作物が荒らされてるのに人が襲われた跡はどこにもないのだ。自分の目がおかしいのだろうか?〉
〈いや、そんなことはない。何度目を擦って確認しても人が襲われた証拠としてまず連想する血や服の切れた痕跡は見つからない。きっとまだ知らない怪物がいるのだろう。人里の人間に詳しく聞いてみよう。〉
怪物にはどんな種類がいるのか?そんなことを聞く予定みたいだ。
マテリは歩き続けついに丘の上で捉えた村の入口まで到達した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます