第131話 生徒会長の呼び出し

 呼び止められて俺達は立ち止まった。


 そこには東光の制服を来た女子生徒が居て、何故か手にオニギリを持っている。

 俺達を探していたのか息を切らしていた。


「えっと、中尾さん……だったよね? どうしたの?」


 遥香ちゃんの様子を見ると、親しい友人ではなさそうだ。


「はぁ、はぁ、ちょっと待ってね……」


 俺達は女子生徒が落ち着くのを待った。


「相澤さん、横の人が吉住くんで間違いないよね?」


「う、うん。そうだけど、何かあったの?」


 中尾さんと呼ばれた女子生徒は、俺の事を知らずに名前を呼んでいたらしい。

 俺達は意味が分からず、遥香ちゃんも戸惑った返事をしている。


「あっ……ごめんなさい。確認だったのよ。悪いんだけど、私と一緒に来て欲しいの。事情は後で説明するから」


 理由を説明しないのに来て欲しい?

 怪しいので行きたくないな。


「寛人くん、どうしよう……」


 遥香ちゃんは答えに困っていたので俺が代わりに返事をする。


「中尾さんだっけ? 俺にも用事なの? 事情は分からないけど、俺は他校の生徒だよ? 今は学園祭を回っているから行けないよ」


 急用でもなさそうだし、行く必要もないと思えたから断った。

 だって、今もオニギリを食べているんだ。


 俺達は返事を待ち、中尾さんは食べ終わると話の続きを始めた。


「その学園祭に大問題が起きたのよ。お願いだから来て欲しいの」


 食べながら話していたのに大問題?

 俺達は余計に意味が分からなくなった。


「学園祭に問題? それは俺達が行けば解決するのか?」


「ええ、解決するわ。今は周りに人が居るから理由は言えないの。来てくれるかな?」


 人が周りに居れば言えないなら仕方ない。

 俺は遥香ちゃんが良ければ行っても構わないと思う。


「私の学校の学園祭だから行っても良いよ。寛人くんはどうする?」


「俺も行くよ。中尾さん、案内を頼む」



 俺達は校舎に入り『生徒会室』と書かれた部屋に案内された。


 中に入ると10名程の生徒が疲れた顔で作業をしていて、その中の1人が俺達の所に近付いてくる。


「2年の相澤さんと、西城高校の吉住くんだね。僕はこの学校の生徒会長で、君達2人に相談があって来てもらったんだ」


 俺達は更に分からなくなった。

 生徒会長に呼ばれる理由が思い付かない。


「俺達に相談ですか?」


 遥香ちゃんは戸惑っている様子なので、俺が代表して返事をする。


「ああ。これを見て欲しい」


 そう言って、生徒会長は1枚の紙を手渡してくるので、受け取って中身を確認した。

 そこには『相澤遥香』『吉住寛人』と書かれていて俺達は驚いたんだ。


「俺達の名前が書いてますね。それに、この用紙って……」


「そうなんだ。コンテストの投票用紙だよ。他にもあるよ」


 そう、琢磨がエントリーした王子様・お姫様コンテストの投票用紙なんだ。

 他の用紙にも書き方の違いはあっても、俺と遥香ちゃんの名前があった。


「何で俺達の名前が書いてるんですか?」


 その理由が分からないんだ。

 何故エントリーしていないのに、名前が書かれているんだろう?


「だから困ってるんだよ。君達って何かしたの? 体育館から出てきた人達が投票したらしいんだ」


「えっ? 体育館ですか?」

「体育館って……」


 遥香ちゃんも驚いて声を上げていた。


「2人が反応するという事は、理由に心当たりがあるみたいだね? それで、相談というのは君達にもコンテストに出て欲しいんだ」


 生徒会長はとんでもない事を言ってきた。

 俺達にコンテストに出て欲しい?

 出ないから相談にはならないぞ。


 遥香ちゃんも困った顔をしているし、絶対に断る。


「ごめんなさい、俺達は出ないです。出たければ初めからエントリーしてますよ。なので、お断りさせてください。話がそれだけなら俺達は行ってもいいですか?」


「あの……生徒会長さん、ごめんなさい」


 生徒会長に謝ってから部屋を出ようとすると、中尾さんが出口を塞いでいた。

 その両手にはオニギリが2つ見える。


「話の途中だから最後まで聞いていってよ」


 そう言いながらオニギリを食べ始めた。

 

「吉住くん、相澤さん、僕からもお願いするよ。さっきは言い方が悪かった。エントリーして欲しいのではなくて、僕達と一緒に出て欲しいんだ」


 生徒会長はオニギリが見えないのか?

 それに生徒会長達と一緒に出る?

 話が余計に分からなくなってしまった。


「一緒に出るって、どういう事ですか?」


 オニギリ女を気にしても仕方がないので、話を聞いてみる事にしたんだ。


「さっきも君達の名前が書かれた用紙を見せたでしょ? 実はね……君達の名前が半数を超えていてダントツの1位なんだ」


「俺達が1位ですか?」


「そうなんだ。だから困っていてね……2位以下なら無視もできたんだけど、ダントツ1位なら発表の時に騒ぎになりそうなんだ」


 生徒会長の言いたい事は分かった。

 隣では遥香ちゃんも頷いている。


「話は分かりました。それで一緒に出てどうするんですか? 俺達はエントリーしたくないんですよ?」


 そこが一番気になっていたんだ。


「それは分かってる。だから男女の1位はエントリーした人から選出するよ。君達2人は僕達と一緒に出て『殿堂入り』として発表したいんだ。もう、それしか方法がないんだよ……頼めないかな?」


 殿堂入り? 更に嫌なんだけど。

 でも、生徒会長は頭を下げて頼んでいるし、理由も理解できてしまったんだ。


 諦めて引き受けるしかなさそうに思える。

 あとは遥香ちゃんが大丈夫なら……


「遥香ちゃん、どうしたい? 俺は話を受けるしかないと思ってる」


「うん。私は出たくないけど、寛人くんが一緒なら出てもいいよ。恥ずかしいけど頑張るね」


 そう言って俺に笑いかけてきた。

 

「ありがとう! 本当に助かるよ!」


 俺達が出る事が決まり生徒会長からお礼を言われ、他の人達からもお礼を言われた。


 でも、考えたら体育館でやらかした俺達が原因なんだよな?

 これは俺達の方が謝らないといけない。


「原因は俺達なんです。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


「本当にごめんなさい」


 俺に続いて遥香ちゃんも頭を下げた。


「まあ、気にしないでよ。困ったのは本当だけど、殿堂入りは盛り上がるからね。僕達が1年の時に1回目の殿堂入りがあって、凄い盛り上がりだったんだ。それに、今回は甲子園で話題になった吉住くんと、2年生の相澤さんでしょ? 僕も発表が楽しみだよ!」


 そう言って生徒会長は笑い出している。

 俺達が悪いんだけど、学園祭が盛り上がるなら良かったと思えた。


 話を詳しく聞いたら、2年前はアキちゃんという女性が殿堂入りしたらしい。


 そして俺達はコンテスト発表会場の体育館へと移動した。



────────────────────

ご、ごめんなさい…(*T^T)

オニギリは見なかった事にしてください…


アキちゃんは第98話のメイク教室で名前だけ出てきた人ですね。


ちなみにね…アキちゃんは…

新作の主人公なんだよ (*^-^*)

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