第79話 特進科での騒ぎ

 相澤さんとの相談が終わってからも、色々と進路については考えたんだ。


 結論としては、大学進学を優先する事にした。

 まだ、私立か国公立のどちらかは決めてはいない。

 プロは指名されるかも分からないし、来年の夏の引退後に話があれば考える事にしたんだ。


 俺のやる事は今までと何も変わらない。

 部活と勉強……両方を頑張るだけだ。


 まずは中間テストで点数を取らないとダメだな。

 テストは5月中旬から始まって、月曜日から金曜日の5日間で実施される。


 でも、その前のテスト休みに相澤さんとの予定があるから楽しみにしているんだ。


 水族館はテスト直前の土日のどちらかでしか行けないので、母さんと透さんには遊びに行く事は言ってある。

 その時に、毎日の勉強時間を増やしたから遊びに行っても大丈夫だと伝えた。


 安心させておかないと、遊びに行く時に何か言われるかもしれないからな。


 相澤さんの進路については保留にしたみたいだった。

 早い方が留学先の候補が多いって聞いていたけど「3年生の期限ギリギリまで考えたい」って言っていた。


 俺としては国内を選んで欲しい。

 でも、相澤さんが選んだ進路なら海外留学でも仕方ないと思う事にしていたんだ。

 海外留学なら会えなくなる……か。

 また好きな子と会えなくなるのか……

 



 4月最後の日になって、今日は悩んでいた進路希望を提出する日だった。


「寛人。大学進学にしたんだな?」


「そうだな。行けるかも分からないプロを考えても仕方ない。今は勉強を頑張るよ」


 授業が終わって担任の先生が来るまでの間、陽一郎と提出する進路の話をしていた。


「大学進学って決めたから、東光大学の見学に行くの事になったのか?」


「何で知ってるんだよ! 西川さんか……」


「吉住! 東光大学の見学に行くのか?」


「俺も行ってみたいんだけど!」


 うん……こうなるのが分かってたんだ。

 安藤と真田……知ったら行きたいって言うよな。


「吉住くん。大学の見学に行くの? それって私も行けるのかしら?」


「吉住くん! 私も行きたーい!」


 高橋さんと谷村さんもか……

 高橋さんは学級委員で、谷村さんは文化祭で現場の責任者をやってた子だ。


 今日が進路希望の提出日だし、国公立と私立の違いはある。

 だけど、全員が大学進学だから行ってみたいって思うのは当然だよな。


「東光大学附属の友達に申し込んでもらったんだよ。大人数が行けるか分からないぞ?」


 俺の言葉を聞いた谷村さんがニヤニヤしてる……普通に答えだだけなんだけど、どうしたんだ?


「東光大学附属の友達ねぇ……あの時の子でしょ?」


「あー! あの時の!」


「俺達が恥ずかしい格好をさせられてた時にイチャイチャしてた子か!」


 安藤と真田も思い出したみたいで、便乗して叫び出していた。

 叫ぶからクラスの皆が見てるじゃないか。


 この3人には西川さんを迎えに行った時に、相澤さんと一緒に居る所を見られてたんだったな。


 この騒ぎの原因となった陽一郎は、西川さんと一緒だった事を突っ込まれたくないのか、知らない振りをしている。


「そうだよ。あの時に居た子と見学に行くんだよ。附属の生徒だったら見学に行けるみたいなんだ。1人なら同行者が居ても大丈夫だろうって話になったから頼んだんだ」


「ふーん……大学見学って言ってるけど、それってデートだよね? 良いなー! 私も彼氏が欲しいー!」


 谷村さん、何か勘違いしてないか?

 私も彼氏が欲しいって、俺達は付き合ってないんだよ。


「彼氏って……付き合ってないから!」


「そうなの? まだ付き合ってなかったの? 誕生日プレゼント渡したんだよね?」


 高橋さん……

 それ、陽一郎しか知らない事だよ。

 何で皆の前で言うんだ……


「吉住! やっぱりそうだったのか?」


「俺も、あんな可愛い子と付き合いたい……吉住が羨ましいよ……」


 進路の話だったのに、何故か俺と相澤さんの話になってしまった。

 俺と相澤さんの事をクラス全員に知られてたじゃないか……


 特進科は大人しい奴が多いから、この手の話が少ない。そのせいか変な盛り上がりになってる。


 窓の外を見て知らない振りをしてるけど、陽一郎くん……君のせいなんだぞ?

 そんな態度になるなら……俺に付き合ってもらうからな。


「陽一郎。そういえば西川さんとはどうなんだ? 文化祭の時も一緒だったし、クリスマスも一緒だったんだよな?」


 陽一郎は窓の外から帰ってきて、目を見開いて俺を見ている。

 知らない振りをして俺の事を皆にバラした天罰だ。有り難く受けとってくれ。


 今度は俺の話題から陽一郎と西川さんの話になった。

 文化祭の時に西川さんは、陽一郎の手伝いをしてて皆に見られてたからな。


 それからは陽一郎が質問攻めされていて、俺に助けを求めている様子だった。


 少しやり過ぎたかな。

 先生も来る頃だし、終わらせようか。


「大学見学の事だったよな? 行けるなら全員行きたいって事でいいのかな?」


 教室中に聞こえる大きい声で言った。

 予想通り全員が行きたいみたいだ。


「分かった。全員だったら何とかなるかもしれないから任せてくれ」


「吉住くん。そんな事ができるの?」


「恐らく大丈夫だと思うよ」


 そうしてる時に鈴木先生が入ってきた。

 教室内の雰囲気が違う様子に驚いている。


「……騒がしいな。何かあったのか?」


 大人しい奴等が騒いでたからな。

 言うなら今のタイミングかな。


「鈴木先生。進路の事を話してたんです。全員が大学見学に行きたいみたいなんですけど、学校から見学申し込みってできませんか?」


「吉住か。3年になったら大学見学の予定があるけど、今の時期に行ってみたいのか? そうだな……全員が行くなら大丈夫だぞ。俺が引率で、クラス全員で行くって事なら学校から申し込んでおくよ」


「ありがとうございます。皆、これで全員が見学に行けるぞ」


 皆の喜んでいる声が響いていた。

 俺としては相澤さんと2人で大学見学に行きたかったから、着いて来ない様にしたかったのが本音なんだよ。

 でも、クラス全員が喜んでくれたのは良かった。


「寛人。また上手く纏めたな」


「陽一郎か……たまたまだよ」


 特進科の生徒全員が大学見学を希望してるんだ。担任は学年主任だし、言ったら通るって分かるよ。


 大学見学の話が決まり、進路希望を提出してから学校が終わった。



 そして週末になった。

 この土日は練習試合が組まれていて、予選までは練習試合が続くんだ。


 試合は投手4人の継投の予定だった。


 俺1人で予選を投げる事はできないし、全投手が投げるのは当然だな。


 俺については足の事もあって、連投が可能なのか確認したかった。

 監督とも相談して、土日は4イニングずつ投げる事になった。


 足の事といえば、相澤さんには教えていない。心配する顔を見たくないから……

 だから「土日の試合は両方投げるよ」としか伝えていなかった。


 そして土曜日の練習試合のマウンドに立った。

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