第71話 健太の入部

 side:寛人



「みんなおはよう。今年も1年宜しく。このクラスは担任の俺を含めて何も変わらないけどな。もうすぐ進路相談があるから良く考えておくように。それじゃ今年の予定を伝えるぞ……」


 学年主任でもある担任の鈴木先生が教室に入ってきて話を始めていた。

 俺達は今日から高校2年生になった。


 教室の場所が変わっただけで、担任もクラスメイトは何も変わっていない。

 全学年、特進科は1組と決まっているから今年も1組だ。


 2年生になって違う事といえば、修学旅行があり、1月に北海道へスキー旅行に行くみたいだった。


 それよりも頭を悩ませるのが、さっき先生も言ってた進路の事だった。

 プロか進学……そろそろ本気で考えないといけない。今度、透さんや母さんにも相談しよう。


 先生の話が終わり、学級委員を決める事になった。予想はしていたが、去年と同じく高橋さんがやる事になった。

 高橋さん……学級委員が好きなんだな。

 世話好きのお母さんって感じがするから合ってるのか?


 そういえば入学して間もない頃に、安藤と真田が高橋さんを「お母さん」って呼んで怒られてた事があったな。


 色々と考えてる間に始業式が終わった。



「寛人。行くか」


「そうだな。今日からが楽しみだな」


 今日から後輩になった健太が野球部に入部してくる。


「田辺、吉住。楽しそうだな? 良い新入生でも入ったのか?」


 声を掛けてきたのは安藤だった。

 安藤はサッカー部に入っているから、同じ運動部の新入部員が気になるんだろう。


「中学時代の後輩が入部したよ。かなり楽しみな奴なんだ」


「はぁ? 中学の後輩って事は全国優勝の経験者なのか?」


「そうだな。俺達が優勝した時には2年生で唯一のレギュラーだった。去年は全国大会には行けなかったけど、4番を打ってたって聞いたよ」


「何でそんな奴が公立の西城に入るんだよ! それを言ったらお前達もだけど……それでも野球部ばっかりズルイぞ!」


 俺達は公立で私立の強豪を倒したいと思って入学したんだから、ズルイって言われても困る。


「その1年は寛人を追いかけて来たんだよ。寛人が居れば甲子園に行けると思ってるみたいなんだ」


 健太の説明をしたのは陽一郎だった。


「そっか。今年の野球部も楽しみみたいだな。西城で初めての全国大会出場の部活になるのを期待してるよ。俺のサッカー部にも期待の新人が来ないかなぁ……それじゃ俺も部活に行くわ」


 安藤と別れて陽一郎と部室に向かった。

 部室に着いたら健太が扉の前で俺達を待っていた。


「寛人さん、陽一郎さん。今日から宜しくお願いします」


「ああ、宜しくな。部室に入って待ってたら良かったのに」


「まだ琢磨さん達も来てないので、知ってる人が居ないから入りにくいですよ」


 琢磨達は来てなかったのか?

 健太は堅いというか、相変わらず真面目だよな……

 それから俺達は着替えてからグラウンドに向かって、新入部員の自己紹介が始まった。


「江藤健太です。ポジションはファーストです。中学3年の頃は投手もやってました。皆さん宜しくお願いします」


 健太の挨拶も終わった。今年の新入部員は18人だ。


 自己紹介を聞いた限りだと全員が野球経験者だったが、硬式野球の経験者は健太だけだった。


 監督に聞いたら、今年の1年は多いらしい。去年のベスト4が宣伝になって、入部希望者が増えたみたいだ。


 今日は1年については部活に参加せず、遠投や筋力、短距離走の体力測定がある。

 体力測定が終わったら練習を見学して終わりだ。俺達の体力測定は終わってるから、計測係以外は通常の練習をしている。


 陽一郎とブルペンで投球練習をしていたら健太が見学に来た。

 グラウンドはバッティング練習中か……監督には陽一郎から言って貰えば大丈夫だろう。


「健太。見てるだけで良いのか? バットは振ってたんだろ? 打席に立つか?」


「良いんですか? それならお願いします」


 健太に投げるのは4ヶ月振りだ。

 あの時は最後だけ力を入れたボールを投げたんだ。あの時に見た感じだと今日は打てないだろうな。


「寛人。今日はストレートだけだぞ。投球練習も終わりだから、投げるのは10球だけだぞ」


「分かった。陽一郎は投球練習と同じ様にコースだけ指定して構えてくれ。健太は打っても良いぞ」


「健太。この前とは違うぞ? 寛人のボールは中学の時より速いからな」


 結果は予想通り、健太は打てなかった。

 全て空振りだった。ただ……スイングは去年より鋭くなっている。これならボールに慣れたら予選に間に合うだろう。


「健太、落ち込むな。寛人のボールは東光大学附属の打線でも打てる奴が少ないんだ。これから慣れていけば良い」


 その後、俺達は守備練習を終えて部活が終わった。夏までは時間が少ないんだ……頑張らないとな……



 家に帰ったら母さんからオーケストラのチケットを渡してきた。

 もう届いたんだ……相澤さんにも伝えないとな。


「はい、寛人。チケットが届いたわよ。2枚で良かったんだよね?」


 また母さんがニヤニヤしてるな……


「もう1枚貰って、やっぱり母さんも一緒に行こうかしら?」


「だから相澤さんとはそんなんじゃないから勘弁してくれ」


 俺はチケットを受け取って自室に逃げた。

 あの顔になった母さんは飽きるまで言ってくるからな……

 でも、母さんと昔みたいにオーケストラの話ができたのは良かったと思ってる。


 それから俺は相澤さんに電話をかけた。


「オーケストラのチケットが取れたよ。日程は前に話してた日曜日だから」


『本当に日曜日に取れたんだね。楽しみにしてるね。私は部活が休みだけど、吉住くんは大丈夫だったの?』


「土曜日が練習試合だから大丈夫だったよ」


『試合なんだね。また投げるの?』


「投げるよ。今度は前よりは長く投げると思うよ」


『そうなんだ。また投げてる所が見たいな……』


 俺も相澤さんに見に来て欲しいと思うよ。

 この前みたいに東光大学附属のグラウンドか球場じゃないと難しいからな……でも、夏の予選だったら……


「また見に来れる機会はあるよ。その時は応援を頼んだよ」


『うん! 見に行ける試合があったら教えてね』


「分かった。その時は教えるから」


 その後も色々と話をして、相澤さんとの電話が終わった。



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またスポ根になってきたよ…(*´・ω・)

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