第69話 高校1年生の終わり
「吉住くん、全部食べてくれたんだね。無理したんじゃないの?」
「ご馳走様でした。無理してないよ。凄く美味しかったからね。これなら毎日でも食べたいよ」
「えっ……うん。ありがとう……」
何で相澤さんは顔が赤くなって恥ずかしそうにしてるんだ?
美味しかったって感想を言っただけなのに……本当に毎日食べたいくらい美味しかったんだ。
うん? 言い方が違ったら……これって毎日作って欲しいって言ってるのと同じなのか?
「ごめん、言い方が悪かったね。毎日食べたいくらい美味しかったって事だから。間違って作り過ぎてくれたから、食べた俺は運が良かったと思ってるよ。それに……相澤さんが作ってくれるなら喜んで食べるし……」
「本当に作ったら食べてくれるの?」
「信用してない? こんなに美味しいんだから機会があれば誰だって食べたいと思うよ?」
知らない人からの弁当だったら絶対に食べないけどな……変な物を入れてないか疑ってしまう。
相澤さんが作った弁当だから食べたいと思うのは内緒だよ。
「そっか……それじゃまた作ってみるね」
「うん。また食べてみたいな」
また機会があるなら食べたい。本当にそのくらい美味しかったんだ。
「お弁当を全部食べてくれて嬉しいけど、もうケーキが食べれなくなっちゃったね」
「ケーキ? ごめん……弁当に夢中になって忘れてたよ」
「帰りに渡すから持って帰って食べてね」
「うん。持って帰るよ。あっ! でも、今から1つ食べてもいいかな? グラウンドでも言ってた苺のケーキがいいな」
ケーキの事を完全に忘れてた。
目の前で食べるって約束したからな。
1個なら大丈夫だろう。
「食べてくれるのは嬉しいけど、本当に大丈夫? 残してくれてもいいよ?」
相澤さんが苺のケーキを箱から出して用意してくれた。
「でも、これが一番の自信作だから食べて欲しかったんだよ」
「退院の時も苺のケーキだったよね。俺……子供の頃から苺のケーキが一番好きなんだ。だから満腹でも、これだけは食べれるよ」
「そっか……でも無理しないでね? 苺のケーキって、私が初めて作ったケーキだったんだ……小学校の時に何回も練習したんだよ」
何回も練習したんだ……確かに店に売っているケーキと見た目も負けていない。甘さも丁度良いし、俺の好みにピッタリだ。
「前も思ったけど、ケーキも美味しいよ。これなら満腹でも食べれるよ」
「やっぱり無理して食べてるでしょ?」
「ハハハ。バレた? でも食べたかったんたのは本当だからね。相澤さんも食べない?」
「うん……お腹いっぱいだからね……食べてるとしても苺くらいしか食べれないかな」
確かにケーキだと少しお腹に重いよな……
初めて作ったのが苺のケーキって言ってたし、苺が好きなんだろうな……苺なら食べれるだろう。
「そっか。苺が好きなんでしょ? せっかくだから一緒に食べたいんだよ。相澤さん、口を開けてみて……はい」
相澤さんが開けた口に苺を入れた。
「うん。美味しいね」
やっぱり苺が好き見たいだな。笑顔で美味しいそうに食べてる。
手で苺を取ったけど、食べてる前に手も綺麗にしたから大丈夫だと思う。
「ごちそう様でした。ケーキも美味しいよ。でも、もう食べれない……」
満腹の状態でのケーキはキツイな……
でも、食べて喜んでくれるなら良いか。
「ケーキまで食べてくれてありがとう。お腹を休めないと動けないよね……飲み物も無くなったし、買って来るから吉住くんは休んでて。お茶で良いよね?」
「うん。ありがとう」
相澤さんは自販機まで歩いていった。この場所って誰も居ないけど、自販機まで少し遠いから不便なんだよな……
そうだ、今の間に母さんに連絡してみるか。
『寛人、どうしたの?』
「母さん、いきなりで悪いんだけど、来月のオーケストラのチケットが欲しいんだよ。久し振りに聞きに行きたくて」
「あら? 珍しい……そうね、母さんも行こうかしら。皆にも全然会ってなかったし」
「いや、俺1人じゃないんだよ。チケットは2枚欲しいんだ」
「陽一郎くん達と一緒の時は、母さんが居ても何も言わないのに……女の子ね?」
「まぁ、そうだよ……相澤さんだよ。一緒に行こうと思って。俺も久し振りに聞きたいし」
「ふーん……デートなら邪魔しちゃ悪いわね。来月開催のチケットなら大丈夫だから2枚取っておくわ。それよりも……母さんだけ相澤さんに会った事がないんだから早く会わせなさいよ!」
「だから……そういう関係じゃないんだよ……チケットは頼んだよ」
母さんとの電話が終わった。
これでチケットは大丈夫だな。
ただ、母さん……相澤さんの話になると悪ノリするから疲れる。
透さんは相澤さんを知ってるし、知らないのが母さんだけだから気になるのは分かるけど……
そして相澤さんが戻ってきた。
「お待たせ。あれ? 吉住くん。どうしたの?」
「なんでもない……というか母さんと電話してただけだよ。母さん……すぐに悪ノリするから疲れるんだ……」
「ふふふ。私の所も同じだよー。お婆ちゃんが『吉住くんは元気なの?』『早く連れて来い』って言ってるんだから」
「ハハハ。相澤さんのお婆さんらしいね。俺の所も母さんが相澤さんに会わせろって言ってるよ」
「吉住くんのお母さん? えっ、うん……家で私の事を話してるんだね……」
何で恥ずかしがってるんだ? 相澤さんの家と同じなんだけど……
「ほら。透さん……俺の義父さんが主治医だったでしょ? それで、母さんだけが相澤さんを知らないんだ。退院の日のケーキも相澤さんからだって話をしてたからね」
「なんだ……そういう事か……」
今度は何で残念そうにしてるんだろう……
「相澤さんのお婆さんか……久し振りに会ってみたい気もするよ」
「そっ、そうだね……」
今度は恥ずかしそうにしてるし、さっぱり分からない。
相澤さんは笑ったり、泣いたり、恥ずかしがったり……表情がコロコロ変わるな……そんな所も本当に可愛いと思うよ。
お腹も大丈夫になってきたな。
相澤さんも帰宅する時間だろう。
本当は、まだ一緒に居たいけど……
「そろそろ帰ろうか?」
その言葉と同時に俺の手が自然と伸びて、相澤さんの頭に「ポン」と軽く触れた。
「うん……そうだね」
相澤さんと西城駅のホームで別れた。
そして、俺と相澤さんの高校1年生が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます