第47話 西城高校の文化祭④
縁日の場所から少し離れたベンチに相澤さんと座っていた。
「ここなら少しゆっくり出来そうだね」
「皆こっちを見てたよね……そんなに私達って変だったかな?」
「文化祭で制服の男と他校の私服の女の子が一緒にいたのが珍しかったんじゃないかな? それに相澤さんは目立ってるから」
「えっ……私……やっぱり変かな?」
相澤さんは自分の服装を見て、変な所を探していた。下を見たり、後ろを覗き込んだり動きが可愛らしい。
「ハハハ、相澤さん。服装じゃないよ」
「じゃあ……何だったの? 服装も派手なのは着ないから、何処か汚れてたり破れたのかと思ったよ」
相澤さんはホッとした表情を浮かべていた。
「かわい……いや……とにかく変じゃないから安心して」
「吉住くん……何か変な言い方だよ? 変な所があったら言って欲しいよ……」
「変って……可愛いから目立ってるって言いたかったんだよ! 恥ずかしいから……言わせないでくれよ……」
「……」
相澤さんは俯いて、顔を真っ赤になって恥ずかしそうにしていた。
俺も何を言ってるんだ……何とか話題を変えよう……前にも同じ事があった様な気がするな……
「ほら! 次は何処に行きたい?」
「えっ……うん……そうだね!」
相澤さんは俺が広げたパンフレットとにらめっこしていた。
何で相澤さんといると、思った事を言ってしまうんだろうな……
本当に……誰かを素直に可愛いと思えるのは久しぶりだよ。
「あっ……吹奏楽部の演奏会があるんだ……」
相澤さんはパンフレットのプログラム欄を見ていた。
この時間は……翔と翼のクラスの漫才か。双子ネタで「幽◯離脱」をやると言っていたな。吹奏楽部の演奏は……時間が合わないな。
「吹奏楽部は、演奏会に向けて凄く練習をしてたよ。行ってみたいの? でも、昼から演奏みたいだから、俺は行けそうにない……文化祭実行委員の巡回に行かないとダメだから」
「聞いてみたいけど大丈夫だよ。東光と同じなんだなって思っただけ……私達も学園祭で演奏したんだよ!」
「そういえば……管弦楽部の部室で会ったんだっけ……あれ? いつ演奏したの?」
土曜日の学園祭に行った時、演奏の事を聞いた覚えがなかった。土曜日が喫茶店の店員をやって、日曜日が自由行動としか言ってなかったよな……
「学園祭の最終日だよ。日曜日に演奏したんだよ」
「そっか……俺達は土曜日に行ったからな。聴いてみたかったな……でも何で教えてくれなかったの?」
管弦楽部……オーケストラか……久しぶりに生の演奏を聴いてみたかった。
「……恥ずかしいから」
相澤さんは下を向いて呟いていた。
「ごめん……何て言ったの?」
「見られたら恥ずかしかったの!」
「そ……そうか……分かった。別に怒らなくてもいいじゃないか……」
「怒ってないよ……だって……吉住くん……日曜日は野球の大会があるって言ってたもん……」
言った気がするな……日曜日が試合だから土曜日しか行けないって……行けなくても教えてくれても良かったと思うんだけどな……
「日曜日は試合だったからね……でも、オーケストラ聴きたかったよ」
「吉住くん……管弦楽部の演奏……オーケストラの事だって知ってたの?」
「オーケストラ? うん、知ってるよ。昔は良く聴いてたんだ……もう何年も聴いてないから聴きたかったよ……」
「吉住くん。音楽好きだったんだね……それだったら聴いて欲しかったな……」
相澤さんは凄く残念そうな表情をしていた。
「来年……来年も演奏するんでしょ? 次の学園祭……1年後になってしまうけど、来年の演奏は絶対に聴きに行くよ」
「うん! 約束だよ!」
悲しそうな表情から笑顔に変わった……表情の変化が忙しいな。
「ああ、約束するよ」
うん。来年は聴きたい……父さん、母さんとの思い出だから……この前ピアノに触れたせいなのか、久しぶりに聴きたかったんだよな……
「それで、この後はどうする? 西川さん達から連絡はあった? こっちは陽一郎からの連絡はないけど」
「うーん……何も連絡入ってないね……優衣ちゃんが一緒にいるから大丈夫だと思うよ? 吉住くん……さっきの縁日の所にもう一回行ってみたいんだけど……ダメかな?」
さっきは注目されてたけど、時間も過ぎたし行っても大丈夫だろう。
「縁日に? 良いよ。だけど的当ては出入り禁止になっちゃったよ?」
「知ってるよー。見てたもん。綿あめが食べたかったんだよ」
「綿あめ? 的当ての近くにあったね。分かった……それじゃ行ってみようか?」
相澤さんと中庭の縁日の出店に歩いて行った。的当ての前を通ると『吉住禁止』と張り紙までされていた。
「ふふふ。吉住禁止って書いてるよー」
相澤さんは凄く笑っていた。ここまで笑っている所は初めて見た気がする。
「相澤さん……笑いすぎ……それにしても、これは酷いよな」
また野球部の前キャプテンが走ってきた。
「吉住! お前は、立ち入り禁止だ!」
「先輩……大丈夫ですよ。綿あめを買いに来ただけなんで。それより、俺の他に吉住って名前の人が来たらどうするんですか?」
「大丈夫だ。この学校に吉住って名前は1人だけだ。野球部の吉住って事は、書かなくても分かってる。不安なら書き足してやるよ」
先輩……『吉住禁止』の上に『野球部の』という文字を本当に書いたな。周りから凄く笑われてるじゃないか……早く綿あめを買って避難しよう。
もう的当てをしないので剥がして欲しいと言ったがダメだった。
そして相澤さんは綿あめを買って嬉しそうな表情をしていた。
「吉住くんは買わないの?」
「うん……俺はいいかな。綿あめは喉が乾くでしょ? 何か買って来るよ。何が良い?」
「じゃあ、紅茶が欲しいかな。ありがとう」
「じゃあ、買ってくるよ。吉住禁止の件から皆に笑われてて恥ずかしいから、先にさっきのベンチに戻っててよ」
「ふふふ。分かったよ。先に行って待ってるね」
これで変な視線から解放される……待たせるのも悪いから早く戻らないとな。
紅茶を買って、ベンチに戻ると相澤さんは笑顔で綿あめを食べていた。
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