第39話 東光大学附属の学園祭②

 部室の場所を聞いて、コウちゃんの待つ所へ向かっていた。

 

 後ろの方では和也や陽一郎達の所へ誰かが来たみたいで、女性の怒っている声が聞こえてきた。俺は既に離れていたので気にせずに足を進めた。



 目の前には部室棟と呼ばれる4階建ての建物があった。この辺りになると展示や出品のエリアではないみたいで、人が歩いていなかった。


 それにしても部室棟か。私立は金があるんだな……羨ましいな。部室棟の入口にある案内板を眺めていた。


 野球部は……3階か……吹奏楽部と管弦楽部も同じ階か。部員の多い部活は使える広さも大きいみたいだ。

 

 管弦楽部か……オーケストラだもんな。父さん、母さんも楽団でやってたし懐かしいな……とりあえず3階に向かうか。


 3階に到着し、野球部の部室は一番奥にあった。管弦楽部の部室の扉が少し空いていて、「不用心だな」と思って扉を閉めようとしたらピアノが見えた……


 ピアノがある……中には誰もいないな……コウちゃんとの時間はまだ大丈夫だし、久しぶりにピアノに触ってみたいな……


 ピアノの前に座り鍵盤に触れた……電子ピアノは自宅で弾いたけど、ピアノは7年振りだった。



 久し振りに聞く音色が響いている。


 父さんと練習をした曲……


 やっぱり楽しいよ……


 俺は父さんを思い出しながら弾いていた。



「あ……やっぱり同じ所で間違うな……」


「父さん……ピアノ続けてなくてゴメン……母さんが大丈夫になったら再開するから、それまで待っててよ……」


 そろそろ野球部の部室に行かないとな。

 

 管弦楽部の部室を出て、扉を閉めてからコウちゃんに電話をした。


「もう野球部の部室前に着いたよ」


『わかった。今から外に出るよ』


 コウちゃんが部室から出て来て不思議そうにしている。


「森下はいないのか? 正門で会うって言ってたから案内しろって言ったんだけど」


「他にも4人一緒に来てるから、場所だけ聞いてこっちに来たよ。和也には4人の案内を頼んだんだ」


「そうか。中に入ってくれ、もうすぐ会いたいって言ってる奴等も来るよ。監督も来るってさ」


 コウちゃんと部室に入った。他校の野球部の部室なんて入る機会がないから変な感じがするな。


 3年生達の他には2年生の新キャプテンになった人達がクラスの出し物の合間に来てくれた。足の事や、東光大学附属に進学しなかった事など色々と言われた。

 

 皆がクラスの方に戻った頃に野球部の監督も顔を出してくれた。進学先を決める時に何度か話をした事もあった人だ。やはり監督が西城進学を一番悔しがっていた。練習試合の件を話し、監督からも「是非頼む」と返事を貰えた。


 30分程、野球部の部室で過ごし、コウちゃんは「監督と話がある」と言って部室に残った。俺は挨拶を済ませ部室を出て歩き始めた。


 階段を目指して歩いていると、閉めたはずの管弦楽部の部室の扉が少し開いていた。


 ちゃんと閉めたんだけどな……


 それとも閉め忘れたのか? 一応閉めておくか。扉に手を掛けて閉めようとした時に中が見えた。


 あれは……相澤さんか? 何をしてるんだ? 声をかけてみるか?


「相澤さん、何してるの?」


「えっ? 吉住くん……何でここに?」


「さっきまで野球部の部室にいたからね。管弦楽部の部室の扉が少し開いていて、不用心だし閉めようとしたんだよ。それで相澤さんが見えたから声をかけたんだ」


 俺の閉め忘れかと思ったけど、違ったみたいだ。喫茶店で店員さんをやるって言ってたな。大人しい感じの服だけど、一部にフリフリが付いていて可愛らしいな……相澤さんに凄く似合ってる。


「野球部の先輩からチケットを貰ったって言ってたもんね……吉住くん、聞きたい事があるんだけど、ここを通った時に誰か見なかったかな?」


「いや? 誰も見てないよ。ここでは相澤さんが初めてだよ」


「そっか……ありがとう……」


 何か様子が変だな? さっきは誰もいなかったし……それとも俺が入った時に何か壊してしまったのか?


「相澤さん、何か壊されたり盗まれたりしたの? 学園祭で他校の人も多いみたいだし、何かあった?」


「ううん……何もなかったよ……部室の中は大丈夫だよ……」


「それなら良いんだけど、相澤さんの様子が普段と違ったから、気になって」


「少し気になった事があったから来てみただけだよ。私の気のせいだったのかな……吉住くんは用事は終わったの?」


 気のせい? 何か分からないけど、部室は無事だったみたいで良かった。


「終わったよ。これから部活の仲間や森下に連絡して合流するよ」


「森下くん? 野球部の?」


「知り合いなのか?」


「うん。同じクラスだよ。そっか……さっき綾ちゃんと……あっ……さっき友達と森下くん達を探してたんだよ。その時に他校の男の子達も一緒にいたから……吉住くんの友達だったんだね」


「会ったんだな。騒がしい奴等だっだろ?」


「ふふふ、そうだねー。でも、夏休みの時にも会ったよ。あの時は吉住くんのお見舞いだったって聞いたよ。皆は私のクラスの喫茶店に向かったよ。私も戻らないとダメたから一緒に行く?」


「それじゃ、案内を頼むよ。その服装も似合ってるね」


「恥ずかしいから嫌だって言ったんだけど……綾ちゃんが無理矢理……あっ、西川さんの事だよ」


「駅で会った子だよね。そうだ……ここなら大丈夫か。はい、誕生日のプレゼントのお返し」


 俺は丁寧にラッピングされた小さな箱を相澤さんに手渡した。


 今日渡せる機会があれば……と思っていたから都合が良かった。良く考えたら、人が多い中で2人になるのは難しいから……


「わあ! ありがとう。中を見たいけど、時間がないからから後で開けてみるね。楽しみにしてる……それじゃ、行こうよ!」


 相澤さんと一緒に部室棟を出て、喫茶店のある教室に向かった。


 相澤さん……管弦楽部の部室にいたな……部活の内容を聞いてなかったが管弦楽部なのか? 楽器は何なんだろう……また聞いてみるか……

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