第19話 打診
始業式も終わり、生徒達が正門へと足を運ぶ。俺と陽一郎は帰れないので部室へと向かった。
「おう! 吉住、田辺、待ってたぞ! とりあえず座ってくれ」
部室には3年の引退した前の副主将が俺達を待っていた。陽一郎と席に座り、足の状態等を話し、今日の部長ミーティングは前の主将が出席していると聞いた。
「それなんだよ。俺達3年は夏で引退しただろ。今日呼んだのは、お前達のどちらかに主将になって貰いたいんだ」
まだ1年の俺と陽一郎は驚いた。普通ではあり得ない内容で、俺は先輩に理由を聞いた。
「俺達、まだ1年ですよ? 2年の先輩方は何て言ってるんですか?」
「1・2年生全員の総意なんだ。俺達3年もだ。吉住と田辺は一番野球の頭脳があるし、実力もある。試合中のチームの牽引。それなのに天狗にならず、率先して準備や片付けをしていて誰よりも動く……全員がお前達を見ていたんだよ。お前達が適任なんだ。それに夏の試合もあって皆、甲子園へ本気に行きたがっている……頼めないか?」
「そうですか……話は分かりました。しかし俺は今後リハビリもあって、練習に参加出来ない日も増えます。なので陽一郎に任せたいと思います」
「ちょっ! 寛人!」
陽一郎が何か言っていたが俺は気にせず話を続けた。
「陽一郎は全国優勝したシニアでも主将でした。陽一郎が適任です。もちろん俺も何かあればサポートします」
「そうか、田辺お願い出来ないか?」
「……はい、やります。寛人、リハビリと投球に専念して貰いたいけど、前の時みたいにサポート頼むぞ」
「陽一郎に任せっぱなしにはしないよ」
陽一郎は諦めた表情をして承諾していた。決して押し付けた訳ではない。うん…押し付けてないはずだ。
陽一郎は「シニアの時も、俺が知らない間にトラブルを解決させてくれたし、心配はしてないよ」と言って、そのまま主将業務の引き継ぎに入っていた。
「先輩、俺は病院に行くので失礼します。陽一郎、引き継ぎ終わったら詳細を夜にでも教えてくれ」
学校を出て病院へ向かうため西条駅の方角へ向かう。
こうして駅前に来るのも久しぶりだ。西城駅は西城市で一番栄えていて、駅前には大型のショピングモールがあり、多くの西城市民がここに集まってくる。俺も買物にいく時は利用している。
駅に向かう道では、まだ帰ってなかった西城高校の生徒も居て、友人同士やカップル達がコンビニやファーストフード店で楽しんでいるのも目に映る。
東光大学附属病院は西城駅から東側、西城高校は西側の為、病院に行くには駅前を通る。駅前に近づくと他校の学生達も楽しそうにしていた。
久しぶりの駅前の景色を見ながら歩いていたら、変な2人組が居て「面白い組み合わせもあるんだな」と思っていたが様子が変だと感じ眺めていたんだ。
2人は俺に背を向けているが、金髪の男が他校の女子生徒に絡んでいるようで、女子生徒は下を向いて歩いている……「見てしまったなら仕方ないな」と思い、俺は助けに向かった。
「遅くなってゴメン、待ったかな? 病院に付き添ってくれるんでしょ。時間も無いし行こうか」
「お前……何?」
「待ち合わせしてた連れですよ。何かありました?」
何も無かったかの様に男に声を掛けた。男は抵抗せず立ち去って俺は安堵していた。ギプスしてるから他校の子を連れて逃げれないからな。
「もう大丈夫ですよ。大変でしたね」
女子生徒は此方に振り返ったら、困った様な表情をした相澤さんだった。俺も驚いた。
「あれ? 相澤さんでしたか」
「あぁ……吉住さん……ありがとうございます」
「様子が変だったので、見てしまって無視して後悔したくなかっただけですよ」
「……本当に助かりました」
「もう大丈夫です。それでは俺は失礼しますね」
そのまま病院に向かおうとしてケーキの事を思い出した。
「あっ! そういえばケーキありがとうございました。美味しかったですよ」
「お口にあって良かったです」
困惑顔も無くなり相澤さんは笑顔になっていて俺は安心した。挨拶も終わり病院に足を向けたら相澤さんが呼び止めてきた。
「吉住さん、駅はこっちですよ?」
「俺は帰るんじゃなくて、今から病院に行くんですよ」
駅を過ぎ去ろうとした俺を疑問に思い、声を掛けた様だ。俺の答えに相澤さんは何か考えてたみたいで、俺に話しかけてきた。
「私も病院に行きますね。もうすぐ、お婆ちゃんも退院なので荷物を取りに行きます」
「そういえば退院が近かったですね」
俺は相澤さんと一緒に西城駅から足を進めて病院へと向かった。
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