第14話 2回目の…

 退院まであと数日。


 俺は暇すぎて病室に居る事は少なかった。

 斎藤さんは退院の日まで来ないし、陽一郎達も練習だと言っていて、誰も来ない事を安心してベッドを空にして外出していた。


 勿論、義父で主治医でもある透さんに相談し、病院外に出ない事、病室から出ても動き回らない事を条件に許可を貰っていた。


 病室に居ないといっても、談話室に居るか、屋上のベンチで本を読むかのどちらしか無かったが良い気分転換にはなった。


 そろそろ夕食の時間が近付いてきたから部屋に戻る。それにしても、病室の夕食って何でこんなに早い時間なんだ?


 俺は部屋に戻って食事をしていると同室の人に見舞い客がやって来た。


「お婆ちゃん、来たよ。具合はどうかな?」


 うん? 何処かで聞いた事のある声だな?


 顔を見たら、見覚えがあった。うん。正直に言ったら会いたくなかった。そりゃそうだ、色々と話して誤魔化したけど、泣き顔を見られた相手だったんだから……


 とりあえず、見なかった事にしよう……


 あの時の恥ずかしさを思い出し、俺は知らない人の振りをした。


「あ……」


 声が聞こえた。やっぱり駄目だった……俺は諦めた。


「えっと……相澤さん、こんにちは」


「吉住さん……こんにちは。ご無沙汰ですね」


「遥香。吉住くんと友達だったのかい? そういえば同じ高校1年生だったね」


「あっ! 相澤さん、違いますよ。屋上で偶然会ったんです。俺が松葉杖を滑らせて転けそうになった所を助けて貰ったんです」


「そうなのかい。遥香、吉住くんは良い子だよ。今の子みたいにチャラチャラしてないし、真面目だし……私は昔のお爺ちゃんを思い出してしまうよ」


「お婆ちゃん! 止めてよ! 吉住さんも困ってるでしょ!」


 俺はお爺ちゃんみたいなのか……落ち着いてると言われるが、皆にはお爺ちゃんに俺は見えてたのか?……でも、予想はしていたが、相澤さんの身内だった。大部屋に来て名札を見た時に「まさか……」と思ったけど、やはりそうだったか。それにしても、この前と違い相澤さん元気だな。大きな声も出るんだな。


 とりあえず、泣き顔を見られた事がバレずに誤魔化せた事に安堵していた。


 相澤さん、同学年だったのか。色々と話したけど、学校の話はしてないし、名前すら最後だったからな……


「吉住さん。退院は予定通りなんですか?」


「ええ、おかげさまで来週には退院しますよ」


「お婆ちゃんより早いですね。お婆ちゃんは来月なんです」


「相澤さん、退院したがってましたよ。入院が苦痛みたいで」


「そうなんですよ! 聞いてください! お婆ちゃん、本当は退院予定がもう少し早かったんですよ。それなのに我慢出来ずに動いて悪化させたんですよ!」


「それは……なんと言えば良いのか……そんな感じがしますね、大変ですね」


何故か「じーーっ」とした視線を感じる。


「……あんた達……仲良かったんだね」


「えっ……いやっ……」


「あ……お婆ちゃん……違っ……」


 相澤さんのお婆さんはニコニコしていた。


「まぁ、良いじゃないの。遥香がそんなに話てる所を見たのは久しぶりだし、吉住くんも遥香と普通に話せるじゃない。吉住くんも学校の友達が来てる時とは感じが違うよ?」


 そりゃ、琢磨達は野球の時は頼もしい仲間だけど、普段は陽一郎と2人で琢磨と翔に翼、この3人をお守りをしてる感じだからな。あの3人は琢磨を筆頭に落ち着きがない。


 その後、俺達は相澤さんのお婆ちゃんも交え3人で色々と話し相澤さんは帰っていった。

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