番外編9 魔女

「そういえば、なんで魔女は、あんなふうに夢を見せる魔法をかけていたんだろう?」


 あの国から少し離れたところで、僕はソフィアに尋ねた。


「さあ、分かりません。……強いて言うなら、魔女は綺麗な死体を集めているのではないですか?」


 綺麗な死体を集める? 


「夢を見ながら死んでいった人達はみんな、綺麗な状態でしたから。眠ったまま死んでいくので、人体が大きく破損することはありません」


「でも、なんのために?」


「それは分かりません。ですが、色々考えられますね。死体を使って、なにやら恐ろしい実験をしているとか。それか、黒魔術を使って、死体を操るみたいな。あ、もしかしたら、死体愛好家かもしれませんね」


 どうしてそんなに、次々と想像できるんだい? 少しソフィアが怖く感じた。


「まあ、何はともあれ、無事にあの国から出ることができて、良かったですよ。魔女は多分、国のどこかにいましたから」


「ソフィア、見たの?」


 僕は魔女らしき人を見た覚えがない。


「いいえ、何となくそんな感じがしただけですよ。死体はいずれ腐敗していきます。でも、あそこは全く死臭がしませんでした。死体処理班の方が、腐敗する前に回収しているのです。魔女のために」


「じゃあ、その死体処理班の人が、魔女と通じているってこと?」


「はい、おそらく。彼女は色々と国や魔法について、詳しかったですしね」


 僕は身震いした。もしあそこで目覚めていなかったら、僕は死体処理班に回収されて……

 考えるのはやめておこう。とりあえず、今生きててよかった、と、僕は安心した。


「でも、ソフィアはその死体処理班の人と話したんでしょ? 魔女が死体を集めているのなら、殺されていたかもしれないんじゃない?」


「その可能性は、ほとんどないと思います」


 ソフィアは断言した。


「どうして?」


 するとソフィアは、笑って言った。


「まあ、私の憶測が全て正しければの話ですけど、きっと魔女は、生きた人間には、興味がないのでしょう。目を覚ましてしまえば、私たちは用済みです。魔女は綺麗な死体だけを求めているのですから。さっさと出て行ってもらった方が、死体処理班にとっても楽です。戦闘にでもなれば、せっかくの獲物がぐちゃぐちゃになってしまいますし、その後の処理も大変ですからね」


 笑顔で残酷なこと言わないで……


 世界には、色んな人がいるんだなと、改めて感じた僕であった。そして、なんとも言えない、恐怖と安堵と哀愁と、色々なものが入り交った複雑な気持ちになった。


 

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