番外編2 満月の日は要注意
ブラッドたちと別れてから、一ヶ月ほどの月日がすぎた。グレイは、とある町で大道芸をしながら生活していた。
「今日は満月か……」
今日はしっかりと宿に泊まる。この日のために、お金は少しとってある。
グレイは宿主にお願いをした。
「夕方頃、暗くなる前に、俺を縄で縛って、部屋の柱に括りつけて欲しいんです」
宿主は不思議そうに首を傾げた。
「なぜだい?」
「実は……」
グレイは今までの経緯を話した。理由を言わなければ、不自然に思われる。ただの変人だ。狼男だと言えば、断られてしまう可能性も考えたが、それを承知で頼むと、親切な宿主は快く引き受けてくれた。
「月の光さえ浴びなければ、狼になることはありません。でも、万が一、狼になって、俺が縄を引きちぎって暴れてしまいそうになったら、迷わずに殺してください」
命懸けだ。宿主は拳銃を持ってきて、部屋に置いた。
「分かった。殺さなくていいことを祈るよ」
宿主は幸運を祈ってくれた。
*
夕方、僕は布で目隠しをし、宿主に、手足を拘束してもらい、そのまま柱に体ごと縄を巻いてもらった。これで絶対に動けない。無意識に動いてしまうことも無い。
カーテンもきっちり閉まっている。念の為に、窓が隠れるくらいの大きな板も立てかけている。だから完璧だ。完全に光は入ってこない。
グレイの横には、拳銃が置かれている。もし狼になってしまえば、これで撃たれて死んでしまう。
やがて、夜がやってきた。緊張がはしる。きっと大丈夫だと、心を落ち着かせる。
グレイは知らぬ間に、眠りに落ちていた。
*
朝がやってきた。宿主が部屋に入ってきて、拘束を解いてくれた。
グレイはほっとした。狼にならなかった。上手くいったのだ。
清々しい朝だ。これで安心して、次の満月の日まで過ごすことが出来る。
「協力してくれて、ありがとうございます」
「いやいや、これくらいお安い御用さ」
「でも、どうして引き受けてくれたんですか? 失敗していたら俺、あなたやこの宿に迷惑をかけたかもしれないのに……」
グレイは宿主に尋ねた。
「宿には、様々な旅人が泊まるんだよ。当然、訳ありな人も沢山来るんだ。だから慣れているんだよ」
宿主は語る。
「俺はね、どんな客でも受け入れるようにしているんだ。たとえそれが狼男でも、吸血鬼でも、幽霊でも。やっぱり宿主として、誰かの役に立ちたいんだ。それに、俺はこの仕事が楽しいんだよ。日々色んな発見があってさ」
「とにかく、ありがとうございました。すごく助かりました」
「旅人が笑顔で旅立っていく姿を見るのが、俺の生きがいなんだ。そういうことだよ」
そう言うと、宿主はニヤリと笑った。
いい人に出会ったなとグレイは嬉しくなった。世界中の人々が、この宿主みたいな優しい人だったらいいなと思った。
「ブラッド、俺、ちゃんと生きていけそうだよ。いつか再会する時まで、待っててな」
グレイは、やっと迎えることのできた、新しい朝に向かって、そっと友達の名を呟いた。
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