第152話 自律感覚絶頂反応
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
ある日の放課後、私は廊下でばったり出会った2年生の
「ゆき先輩って最近は声優のお仕事されてるんですか? この前のアニメは結構評判になってましたけど……」
「オファーは今も来ておりますけど、わたくしはあくまで女子高生ですので学業と部活に影響のない範囲でしか声優業はできませんの。しばらくは単発のお仕事だけにしているのですけど、
ゆき先輩は少し前まで『最近何だか
「あー、何か聞いたことあります。セクシーなお姉さんや美青年の声とかを聞いて気持ちよくなるやつですよね」
「収録に参加するだけで結構なお礼を頂けるのでバイトとしては美味しいのです。既にいくつか別のご依頼も来ていましてよ」
「おっと、ちょうどよかった。堀江さん、ちょっと声のお仕事を引き受けてくれないかな?」
視聴覚室から出てきたのは日本史を主に教えている社会科の永井先生で、先生はゆき先輩に頼み事があるらしかった。
「野掘さんはまだ1年生だから見たことないと思うけど、僕の授業では途中で寝てしまう生徒が多くて、ひどい時は終わった時に数人しか起きていなくてねえ。1年生ならともかく2年生や3年生相手の授業だから、流石にどうにかするよう教頭先生からも頼まれてねえ」
「あー、それは確かに深刻な問題ですね……」
永井先生はあと数年で定年を迎えるベテラン教師だが、温和な性格とスローペースな喋り方、そして人を安心させすぎる穏やかな声質から授業中に爆睡してしまう生徒が例年続出しているとは噂で聞いていた。
先生に付いて私も視聴覚室に入るとそこでは先生がICレコーダーに発声を録音していた形跡があり、先生は生徒がどうしても寝てしまう自分の喋り方を改善しようと必死に練習していたらしかった。
「そういうことでしたらわたくしから発声法の指導をさせて頂けますけど、永井先生には今の話し方も大切にして欲しいと思いますわ。指導のお礼として、先生のお話を録音したデータとその使用権を頂けませんかしら?」
「そんなことでいいならもちろんお渡しするよ。教科書の内容を解説する音声でいいかな?」
ゆき先輩はこれから永井先生に発声法を指導する見返りとして先生の音声データを貰うことにしたらしく、私はそんなデータを一体何に使うのだろうと不思議に思った。
その1か月後……
>同人作品販売サイトDLスペース全年齢部門 週間ランキング第1位
>ジャンル:同人音声(安眠)
>「あなたの心に平穏を ベテラン日本史教師(58)が夢の世界に誘います」
>購入者の声:
>「数年以上も不眠症に悩まされていたのですが、就寝時にこの音声を流すだけで翌朝までぐっすり眠れるようになりました。本当にありがとうございます」(46歳男性・会社員)
>「リラックスしながら日本史を勉強できると聞いて購入したのですが、毎回10分も経たずに寝てしまって勉強になりませんでした。ですが安眠できたおかげで朝から勉強がはかどり、この前の模試では偏差値が大幅に向上しました。今後も愛用させて頂きます」(19歳男性・浪人生)
「キィー! わたくしのASMRが永井先生のASMRに売り上げで負けておりますわ! 先生の音声を聞いて真似しようにも毎回寝てしまって練習になりませんの!!」
「先輩も安眠できてよかったじゃないですか」
永井先生の音声を販売して儲けつつ売り上げで負けて悔しがっているゆき先輩に、私はASMRに限らず人の発声は天然物が最強なのかも知れないと思った。
(続く)
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