第114話 オープンソース

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「野掘さん、これが今度コンテストに応募するブラウザゲームなのですよ。未公開のURLを送るので自分のスマートフォンで遊んでみて頂けませんか?」

「ありがとう。今時はスマホでもブラウザゲームを遊べたりするんだね」


 ある日の放課後、私は柔道部員でプログラミングの心得がある国靖くにやすまひるさんから制作中のブラウザゲームのテストプレイを頼まれていた。


 最近では漫画を中心とする創作物の違法ダウンロードサイトや違法ビューアサイトの氾濫が社会問題となっており、それに対して警鐘を鳴らす意味もあって経済産業省は先月から「著作権」をテーマとしたブラウザゲームのコンテストを開催していた。


 コンテストで入賞したブラウザゲームは経済産業省の公式サイトで無料公開され、広告表示数に応じて継続的に収益を得られるということもあって国靖さんは余暇を利用してブラウザゲームを制作していたのだった。


「ブラウザゲームのジャンルにも色々あるのですけど、今回は誰でも気軽に遊べるように2Dアクションゲームにしました。小さな子供からお年寄りまで遊べるよう、ゲームオーバーになりにくい設計にしてシンプルで爽快感のある操作にしてみたのです」

「それ面白そう。どれどれ、画面タッチでゲームを開始して……」


 国靖さんのノートパソコンからメッセージアプリで送って貰ったURLをクリックすると、スマホのブラウザ上には昔ながらのゲーム機を模した画面が現れた。



>「星のローミィ マンガの村の物語」


>マンガを読むことが大好きなローミィは、今日も自分の部屋でマンガを読んでいました。

>ローミィが住んでいるマンガの村では、誰もがあらゆるマンガを無料で自由に読むことができたのです。

>ところが突然仮面の騎士チョサッケンが現れ、村中のマンガを全て奪っていってしまいました。

>村の人々に無料でマンガを読む楽しみを取り戻すため、ローミィはチョサッケンを追って旅に出たのでした。



「何かこのストーリーどっかで見たような……」

「ローミィはただのアクションゲームではなく、敵を吸い込んで様々な能力を手に入れて進んでいくのが特徴なのです。最初に説明画面が出ますよ」



>ローミィはAボタンをクリックするとジャンプし、そのままAボタンを何度もクリックすると空中に浮遊します。浮遊は無限に続けることができるので、攻略が難しい時は敵の上空を飛んでいって戦闘をスキップできます。

>最大の特徴がBボタンで使える「吸い込み」能力! 雲の敵を吸い込めばマンガをインターネット上で共有できるクラウド能力が手に入り、剣を持った敵を吸い込めば紙の本のマンガを裁断することができ、カメラのような敵を吸い込めば裁断したマンガを画像データとして取り込むことができます。敵の能力を次々に手に入れ、チョサッケンに奪われたマンガをインターネット上に無料で公開していきましょう!!



「いやこれ絶対どっかで見たことあるよ!? ていうかほぼそのままだよ!!」

「うーん、そう思われますか? 確かにヨンテンドーの昔のゲームソフトからデータをぶっこ抜いて改変して作ったのですが」

「それ絶対駄目なやつじゃないの!?」

「野掘さん、私たちプログラマーの界隈にはオープンソースの精神というものが根付いていま」

「市販のゲームのデータぶっこ抜いてソースコードも何もないでしょうがぁ!!」


 国靖さんは私の意見を受けてローミィの無限浮遊能力やコピー能力を廃止したが、それはそれで個性のない2Dアクションゲームになってしまいコンテストにも入賞できずに終わってしまった。



 その数か月後……


「野掘さん、前回の反省を生かして今回はブラウザゲームを一から作ってみました。『ローミィのフリーライド』というレースゲームで、スマホでも操作しやすいようボタンを実質1つしか使わないという画期的なゲームデザインを思いついたのですよ」

「うん、確かに画期的だったよね……」


 車輪の再発明的なアイディアを嬉々として報告してきた国靖さんに、私は大手ゲーム会社の制作力ってやっぱりすごいなあと思った。



 (続く)

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