そのに 自力救済

 東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には(後略)



「灰田さん……雑誌社を襲撃するには何が必要かしら? まずは仲間を集めるべき?」

「志乃先輩、いきなり何言ってるんですか!」


 ある日の放課後、硬式テニス部の部室に行った私は2年生の宇津田うつだ志乃しの先輩に恐ろしい話を聞かされた。



「この漫画雑誌の広告にあった2万円のジュエリーを買えば幸運が訪れるっていうから貯金はたいて買ったのに、幸せになるどころか不幸続きなの。自宅の裏の庭木は倒れるし、猫よけの超音波装置はカラスにつつかれて壊れるし、収集日前日にごみ出しをしてたら近所のおばさんに怒られるし。こんなの詐欺でしかないわ……」

「庭木とカラスはともかく、ごみ出しの件は自業自得では……」


 志乃先輩はベリーロングヘアの美人で近隣にある男子校のアダムスミス高校に彼氏がいるリア充だけど、以前からちょっとした不幸に見舞われがちな体質だった。



「だから雑誌社に電話して文句を言ったのに、広告の内容にはいちいち責任を取れないっていうの。それなら直接出向くしかないかなって」

「気持ちは分か……らなくもないですけど、トラブルを司法の力によらず解決するのは自力救済になっちゃうから駄目ですよ。どうしても納得できないなら弁護士さんに頼むか、他の合法的な解決策を見つけた方がいいと思います」


 正直言って志乃先輩に同情できる部分はほぼ皆無だったけど、先輩に余計なトラブルに巻き込まれて欲しくはないので私はそう助言した。


「確かに、灰田さんの言う通り。じゃあ、私は合法的な手段で、自力で自分を救済するから……」


 志乃先輩はそう答えるとテニスウェアに着替え始め、私はともかく最悪の事態を避けられてよかったと思った。



 その翌週……


「志乃ちゃん、今日は俺にプレゼントしてくれるんだって? でも、5万円もしたグッズをタダで貰うのは申し訳ないよ」

「大丈夫、あくまで私の気持ちだから。気が引けるなら2万円だけくれる?」


 日曜日に路上を歩いていた私は志乃先輩が彼氏とデートしている場面に出くわし、慌てて物陰に隠れた。


 志乃先輩と彼氏はそのまますぐそこの公園に入り、ベンチに座ると志乃先輩は例のジュエリーをバッグから取り出した。



「これは超常的な力を持つ開運ジュエリーで、私が個人的な伝手つてで手に入れたの。ミト君に勉強と部活で活躍して欲しくて……」

「そうなの? 志乃ちゃんの気持ちに応えるためなら2万円なんて全然平気だよ! 今すぐ払うね!!」

「ありがとう。これで私たちはお互いを救済できるのよ……」


 ダークな笑みを浮かべながら彼氏から2万円をだまし取った志乃先輩に、私は誰も大損はしてないからこれはこれでいいかと思った。



 (続く)

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