第17話 厚焼き玉子

 その日、長谷川綾子の部下である平山は、ある人物と密会していた。

 荒川という同じ会社に勤める、つまり綾子の部下の女性である。

 実は、平山は、この荒川とも付き合っていた。

 肉体関係も持っている。

 だが、平山は綾子と付き合いたかった。

 結婚したかった。

 荒川は、平山の思いを知っていた。

 だが、「男とはそういうもの」と割り切ってきた。


「負けた」

 平山は星ノ宮市内にあるバーで荒川相手に飲んだくれていた。

 いや、飲まないとやっていけないのだろう?

「そう? あの筋肉オッサンって平山君より人気なさそうだけど……」

 荒川は甘めのカクテルを飲む。

「そうじゃねぇんだよ……なんだろうなぁ、厚焼き玉子みたいな奴なんだよ」

「は?」

 平山はカウンターに潰れたままマスターにビールのおかわりをした。

「『いる、いらない』の問題じゃないんだ。『いて当たり前』の存在なんだよ。お互いあがさぁ……俺の出るところないじゃん」

 おかわりのビールを飲み干す平山。

「それなのに、あのオッサン……『俺がいたら綾子を不幸にする』って……その言葉が綾子さんを不幸にしているってぇの」

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