ジョルジオとアンドレ
ジョルジオ・デュフレス。
年の離れたアンドレの義兄であり、長男でありながら庶子であるために後継から外されている人物。
アンドレは、ジョルジオ令息のことを非常に優秀だと評していたけれど、実際に調べてみると実はとんでもない放蕩息子・・・なんていう事もなく、本当に良く出来た人だった。
アンドレとは七つ歳が離れている。
つまり、彼は今、23か24歳なのだ。
半分とはいえ、血が繋がった兄弟同士。
後継者と認められていないとはいえ、公爵の血を引く息子として正式に認知されている。
顔立ちもアンドレと似たところのある美形なのだが、どうやら婚約者なども決まっておらず、結婚する気もないのでは、という噂がちらほらと立つほどだ。
「学業成績も優秀。父親の執務の手伝いもしたことがあり、その能力は証明済み。だけど後継ではないため、三年前に騎士爵を目指して騎士団に入団、か」
報告書を読み終わり、椅子の背もたれに寄りかかった。
「確かに・・・アンドレの言うことも尤もなんだよなぁ」
素行におかしなところはなく、8歳まで市井で暮らしていたせいか、貴族によく見られる傲慢さや誇り高さはない。
謙虚で穏やかな人物で、アンドレとの仲も良好。
そして、かなりの生真面目タイプ。
・・・なるほど。
融通が効かないアンドレとは波長が合いそうだ。
アンドレよりもジョルジオ殿の方が、物事への対応が臨機応変に出来そうだけれども。
「ジョルジオ殿が家督を継いだら話は早いんだけどなぁ」
こればかりは当主が決めること。
アンドレの父親、デュフレス公爵がそれを良しとしないのなら、もうどうしようもない。
「でも、母親が亡くなったと知ってすぐに公爵家に引き取ったんだから、最低限の誠実さはありそうだけど」
アンドレが後継の話をしても聞いてくれなかったらしいからな。
僕は、報告書の紙を引き出しに放り込むと、一つ溜息を吐いた。
あれから二回、夜会でジョルジオ殿に遭遇している。
まだなんの動きもない。
心配そうに、少し苛立たしげに、アンドレたちの姿を見つめてはいるけれど。
「・・・ん?」
エントランスの方が、何やら騒がしい。
何かあったのかな、そう思って腰を上げかけた時、ノックの音がした。
現れたのはショーンだ。
基本、無表情のショーンが、珍しく眉を下げている。
「・・・ショーン? どうかした?」
「・・・お客さまがお見えです。その、デュフレス令息が」
「・・・」
来たか。
ショーンの表情とその言い方から、デュフレス令息とは、ジョルジオ殿の方だろう。
友人である僕からアンドレを諌めてやってくれ、とかそういうのだろうな。
そう思って、エントランスに向かったのだ、が。
「・・・なんでアンドレ?」
エントランスで僕と会いまみえた人物は、我が友、アンドレの方のデュフレス令息だった。
しかも、大きな鞄を三つも抱えている。
一人で運んできたのか? 一体どうして?
「・・・セス、落ち着いて聞いてくれ」
元から無愛想な顔を、さらに無愛想に眉を顰めて、アンドレはそう切り出した。
「父上と兄上と喧嘩した。だから家を出て来た。暫くここに厄介になる」
「はあ?」
何を言ってるんだ、こいつ?
「ふむ、やはり持つべきものは友だな。すぐに快諾してくれるとは。いや、助かる」
「はあ?」
僕がいつ快諾したよ?
アンドレは重たそうな鞄をドサドサとフロアに置いた。
従者も伴も付けず、本当に一人で飛び出して来たらしい。
いや、前から変な方向に行動力がある男だったけれども。
けれども、だ。
「暫くの間、世話になるぞ。親友」
そう言って右手を僕に差し出した。
「・・・」
うん、分かるよ?
勢いで飛び出しても、僕のところ以外に行く当てなんてないって事はさ?
お前、友達いないもんな。いや,僕も人のことは言えないけどさ。
「はあ・・・」
アデラインか慌てて階段から降りて来る姿が見えた。
アンドレが嬉しそうに手を振っている。
僕はまた、盛大な溜息を一つ吐いた。
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