もの凄い誤解
「お話を伺う前に、ランデル令嬢にお聞きしたいのですが」
いつもの冷静な表情に戻ったランデル令嬢に、僕はまずそう告げた。
あら、とでも言いたげに眉が上がったが、彼女はただ、「何でしょうか」とだけ口にした。
「お二人のご親切には心から感謝しているのですが、不思議で仕方ないんです。どうして僕たちにここまでしてくれるのか」
当初から抱いていた疑問を口にすると、ランデル令嬢は成程と頷いた。
「そう思われるのも当然ですわ。別に頼まれた訳でもないのに、こちらが勝手に始めたことですものね」
「いえ、感謝しているのは本当です。ただ不思議で」
せっかくの好意を悪く取っているとは思って欲しくない。
寧ろありがたいのだ、と説明すると、彼女はふふ、と薄く笑んだ。
「分かっておりますよ。セシリアンさまが良い意味で取って下さっているのは。なにせ貴方は、あの扱いが恐ろしく面倒なアンドレさまが認められた方ですもの」
「はい?」
なんか今、さらっとアンドレに失礼なことを言わなかったか?
「ああ見えてアンドレさまは感謝しておられるのですよ、セシリアンさまに」
その言葉には驚いた。
別に今はもう、アンドレに苦手意識はないけれど、でも感謝されていると思ったことはない。
「・・・僕としては、つい最近まで嫌がらせをされていた記憶しかないのですが」
エウセビアは、まあ、と笑う。
「当然ですわ。実際にその通りでしたもの」
だよね。
うん、僕の被害妄想とかではなく、本当にいろいろやられたからね。
「あれはただの悪あがきですわ。男として自分がセシリアンさまに劣る事を認めたくない余り、子どもじみた真似を色々と仕出かしただけです。本当にみっともないったらありませんでしたわ。見ていて笑ってしまいました」
にっこりと微笑みつつ、ズバッと言うなぁ、この人。
「とにかく、アンドレさまは5年かけて、漸く自分の負けを認める気になったのですよ。ですから、どうか許してやって下さいな」
なんか、母親みたいな台詞だけど、同い年だよね、確か。
「・・・別に気にしていないですよ、もう」
「そうですか? なら良かったですわ」
でも、何故。
ランデル嬢はこんなに親身になってくれるんだろう。
アデラインにも、僕にも、・・・アンドレにも。
「さて、もう余り時間がありませんから本題に移りますね」
逸れかけていた意識が、エウセビアの言葉で引き戻された。
「アデラインさまのことですけれど」
ランデル令嬢は僕の目を真っ直ぐに見た。
「どうやらアデラインさまは、ご自分のせいでセシリアンさまをお辛い目に遭わせていると思っておられるようですわ」
「え・・・?」
僕が、辛い?
アデラインのせいで?
目をまん丸にした僕を見て、ランデル令嬢は困ったように眉を寄せた。
「そうですよね。もの凄い誤解ですわよね」と。
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