夜会

15歳になった今、貴族令息令嬢として社交の場に出ることが求められるようになる。



二人揃ってのデビュタントの準備となると、なかなかに慌ただしいものだった。



衣装を揃えたり、マナーの復習をしたりと、やる事が一杯で忙しい毎日だったけれど、ダンスの練習時間が増えたことはすごく嬉しくて。



だって、僕のダンスパートナーはアデラインだから。



今日も今日とて基礎から難しいステップまで、二人で踊りながらチェックする。



昔は身長が僕の方が少し低かったから、ダンスの練習をしていても少しアデラインの方が目線が高くて、ちょっとだけ残念に思ってた事もあったっけ。


格好いいところをどうにかして見せたくて、必死に難しいステップを覚えたりして。



必死すぎ?


そう思われるかもしれないけど、仕方ないと思う。


だって、ダンスレッスン用のホールは、一つの壁全体が鏡張りになっていて、アデラインよりも頭ひとつ小さな僕を、どこにいようとばっちり映し出してしまう。



ほら、男ってさ、好きな子の前では格好つけたいものだろう?


なのに、あの身長差じゃ婚約者には全く見えなくて、まんま弟って感じで、それが悔しくて堪らなかった。



でも今度初めて出席する夜会は違う。


戸籍上は義弟だけど、立場は婚約者。

そして今は、そんな立場に見合う見た目になったと思うから。



つまらない男の意地と言えばそれまでだけど、でもやっぱり、そう、出来ることなら、アデラインの目に格好いい男として映りたい。



一個一個、良いところを見せられるようになれば、もしかしたら、もしかしたら、いつか僕への恋心が育ってくれるかもしれない。



そんな淡い期待を胸に抱いて。






デビュタント当日、真っ白のドレスを身に纏ったアデラインは天使みたいだった。


同じくデビュタントである僕も真っ白の夜会服を着込み、アデラインをエスコートしながら会場へと足を踏み入れる。



今夜デビュタントを迎える人が身につける純白が会場の彼方此方に散らばっている。



最初のダンスは、僕たちデビュタント組が踊るものだ。



緩やかなワルツが流れ始め、僕たちはホールの中央へと進み出る。


僕はアデラインの腰をホールドして、アデラインは僕の肩に手を置く。


そして微笑みを浮かべながら滑るようにステップを踏み出した。



ホール中央は、真っ白な花を散らしたように、彼方此方でくるくると純白のドレスが回り、揺れ、広がる。



アデラインの手を取って、アデラインを見つめながら踊る至福の時。



最高の気分だ。



だけど、その時。

一瞬、視界の端に捉えてしまった。



ノッガー侯爵、そうアデラインの父であり僕の義父である侯爵の姿を。



・・・なぜそんな顔を。



捉えた一瞬を確認したくて、もう一度、ターンをしながら彼の表情を盗み見る。



どういうことだ。



無関心なのだと思っていた。


子を養うという義務は果たすけれども、積極的に関わるつもりはないと。


養育を拒否しないだけマシだと、そう思えばいいと。



だけど。



あれは、あの眼は、あの視線は。

ずっとアデラインの姿を追いかけていて。



「・・・無関心、なんてどうして」


「え?」



ついぽそりと溢れた言葉に、アデラインが目を瞬く。



「どうかした? セス」


「・・・いや」



義父と話さなくては。


僕はもしかしたら、何も分かっていなかったのかもしれない。



「セス?」


「・・・ごめん。あまりにアデルが綺麗で、見惚れちゃってた」


「まあ、セスったら上手なんだから」



くすくすと笑うアデラインの向こうに侯爵が見える。



まだ話せない。アデルには何もまだ。


理由も根拠も何もない。



僕が感じただけ。



ただ、視線が、侯爵の視線が、さも愛おしげにアデラインを追っていただけ。



それに気づいただけだから。

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