第164話 祈りを聞き届けてくださったんだ
突如として空から降ってきた燃え盛る隕石が、エンシェントトレントの幹に直撃した。
凄まじい爆音が轟き、遅れて猛烈な熱風が吹き荒れる。
「「「ああああっ!?」」」
エルフたちの多くが吹き飛ばされ、地面を何度も転がった。
「な、何が……起こった……?」
「隕石だっ! 空から隕石が落ちてきた……っ!」
「まさか、祈りが通じたのか……?」
見ると、彼らが放つ矢では、その樹皮にすらほとんど傷をつけることができなかったというのに、隕石が直撃した箇所に巨大なクレーターができていた。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
さらにそこから炎が燃え広がっていて、エンシェントトレントが枝葉を振って必死に消火しようとしている。
「聖母様だっ!」
誰かが叫んだ。
「聖母様が、祈りを聞き届けてくださったんだ! きっとそうに違いない! だってこんなタイミングで、空から隕石が降ってくるなんてあり得ないだろう!」
「そ、そうだ! 聖母様だ!」
「危機に瀕する我らを、救ってくださったんだ!」
「「「聖母様! 聖母様! 聖母様!」」」
エルフたちが涙ながらに感謝の声を上げる。
と、そんな彼らの元に、空からもう一つ、今度は先ほどの隕石よりも遥かに小さなものが降ってきた。
「聖母様? 僕、見ての通りまだ赤ん坊なんだけど?」
それは小さな人間の赤子だった。
しかも彼らの聞き間違いでなければ、言葉を喋っている。
「「「え?」」」
一体何だこの赤子は、と驚くエルフたち。
大地から伸びる巨大な根っこが再び蠢き出したのは、その直後である。
「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「っ! ま、まだ生きているのか!?」
「火が消えているぞっ!」
巨大トレントはいつの間にか幹の炎を消し飛ばしていた。
焼け焦げた部分からはまだ煙が上がっているが、再びその根っこを動かし、エルフの里を破壊しようとしている。
「さすがエンシェントトレントだね。一発じゃ倒せないか。ってことで、もう一発」
ふわふわと宙に浮かぶ謎の赤子がそう呟いてから、数秒後。
空からまたしても隕石が降ってきた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
そして狙ったかのように、エンシェントトレントの幹に直撃する。
「……聖母様が、また隕石を?」
「そ、そうとしか考えられないだろう!? 少なくとも、あの変な赤子がやったなんてあり得ない! ……はず」
「というか、何なんだ、あの赤子は……」
困惑するエルフたち。
一方、二度目の隕石をほぼ同じ個所に喰らったエンシェントトレントは、幹が半分近くまで削られて、いつ折れてもおかしくないような状態になっていた。
「アアア……アアア……」
幹の洞から、呻き声のような音が聞こえてくる。
巨大トレントといえど、今度こそお仕舞だろうと、エルフたちが思ったそのとき、
メキメキメキメキッ!!
猛烈な破砕音が鳴り響き、ついに幹が折れて倒れ込んできた。
……エルフの里の方に。
「こ、こっちに来るぞ!?」
「「「避けろおおおおおおおおっ!」」」
慌てて左右に逃げるエルフたち。
そして幾つかの家屋を巻き込みながら、巨大トレントが盛大に倒伏した。
「……あちゃ~。ちゃんと倒れる方向を考えるべきだったね」
謎の赤子が手で額を覆っている。
ともあれ、倒れる速さがゆっくりだったこともあって、下敷きになった者はいなさそうだ。
家屋は幾つか潰れたが、それはまた建て直せばいいだろう。
「助かった……のか?」
「いや、まだ虫の魔物がいる」
「だがこの程度なら……っ!」
残った虫の魔物を一掃し始めるエルフたち。
しかし彼らの危機は、まだ去っていなかった。
「ん? 何だ? エンシェントトレントの枝葉が騒めき出した……?」
「お、おい! 動いているぞ!? まだ死んでなかったのか!?」
「違うっ……これはっ……」
エンシェントトレントの枝葉が、それぞれ独立した意志を持って動き出したのである。
どうやら一本の巨大なトレントから、無数のトレントが無性繁殖したらしい。
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