第149話 もはや完全な不正ですね
「助かったよ、リル」
「あの程度、主のためならお安い御用だ」
はた迷惑な俺の両親を、フェンリルが無理やりおうちに連れて帰ってくれた。
しっかり脅してくれたみたいだし、これで当面はちょっかいを出してこないだろう。
「まぁ、あの両親のことだから、性懲りもなくまた俺を連れ戻しにくる可能性は高いけど」
「いっそ殺してしまえばいいのでは?」
リルが物騒な提案をしてくるが、さすがにそういうわけにはいかない。
「それより、リル。せっかく人の姿をしてるんだし、冒険者登録してみたらどうかな?」
「冒険者登録……?」
「冒険者になっておけば、依頼を成功させたときに報酬を貰えるようになるんだ」
通常の依頼ではその報酬総額が変わらないため、四人で分けることになってしまうのだが、依頼の中には一人当たり幾らという形となっていて、人数が多いほど稼げるようなケースがった。
「我が主が言うなら否はない。その冒険者登録とやらをしよう」
忠誠心を示すリル。
その素晴らしい心意気に、俺はその大きな胸に全身を埋めた。ぐへへへ……。
『……しかしマスター。冒険者登録には、試験をパスする必要があります。実技は余裕でしょうが、フェンリルに筆記試験を合格できるとは思えません。マスター以上に、人間の常識など知らないでしょうから』
「その心配は要らないぞ、リンリン」
対策はしっかり考えてあるのだ。
『我が主よ。試験とやらが始まったぞ』
『よしよし、それじゃあ、紙を配られたと思うんだが、今からその文字を読んでもらえるかな?
……あ、もちろん、声に出しちゃダメだよ』
俺は筆記試験を受けているリルと、念話を通してやり取りしていた。
『なるほど。念話で答えを教えるつもりですか。もはや完全な不正ですね』
「ははは、バレなきゃ不正じゃないんだよ、バレなきゃ」
呆れた様子のリントヴルムを余所に、俺はリルから問題文を教えてもらう。
『ふむふむ……』
『解答の方にはなんと書けばよいのだ?』
『ええと……その答えは……』
『答えは?』
『…………………………………………ヤバい、俺にも答えが分からない』
『常識に欠けたもの同士では成立しないやり方でしたね、マスター』
仕方がないので、ファナやアンジェにも頼ることにした。
彼女たちから答えを教えてもらい、それをリルに伝えていく。
少し時間がかかってしまい、完答したときにはすでに時間ギリギリだったが、こうしてどうにかリルは筆記試験を乗り越えたのだった。
ちなみに点数は九十点という高得点だったようである。
「筆記さえ合格できれば、あとは余裕だよね」
リルは神話級の魔物であるフェンリルだ。
人型では能力が半減してしまうようだが、それでもAランク冒険者であるファナやアンジェを軽く凌駕する実力がある。
冒険者になるための試験くらい、簡単に突破できるだろう。
不安があるとすれば、人間の常識がない彼女を単独行動させて大丈夫かという点だが、
「心配は要らない。与えられた課題をその通りにやるだけなのだろう?」
「そうだよ。試験管の言うことをよく聞くようにね」
「承知した」
「一応、筆記のときみたいに念話ができるようにしておくから。何かあったら質問してよ」
「大丈夫だ。主の手を煩わせるようなことはしない」
◇ ◇ ◇
二十歳前後と思われる青年が、集まった受験者たちに告げた。
「それではこれより実技試験を行う」
彼はBランクの冒険者で、今回の実技試験の試験官を担当することになっていた。
さらに二人のCランク冒険者がサポートとして帯同し、合計三人で審査する予定である。
リルを含む筆記試験の突破者計十二名が集合しているのは、冒険者ギルドの地下だ。
どうやら実技試験は、『ベガルティア大迷宮』内で行われるらしい。
「試験会場はここの三階層。主にコボルトが棲息するフロアだ」
--------------
書籍版に準拠して書いているため、筆記試験に関して第17話と少し矛盾が出ています。ご了承くださいm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます