第86話 戦うしかないでしょ
細長い通路を抜けると、そこは広大な空間が待っていた。
溶岩の池が点在するその最奥に鎮座していたのは、真っ赤な鱗に覆われた巨大な魔物だった。
「あれはまさか……」
「レッドドラゴン!?」
驚く受験者たちに、ゲインが言う。
「その通り。この階層のボスであるレッドドラゴンだ。これより君たちにはあの魔物と戦い、討伐してもらう」
「マジかよ……」
「き、危険度Aの魔物だぞ……」
「六人で危険度Aの魔物を倒せないようでは、Aランクなど夢のまた夢だ。無論、討伐に成功したとしても、全員が合格とはならない。戦いぶりを我々試験官が見た上で、合否を決定することになる」
残った六人で協力し、レッドドラゴンと戦う試験らしい。
思わず身構えている彼らに、エミリーが安心させるように補足した。
「心配しなくていいよー。少々の怪我なら、あたしが治してあげるからさー。まー、さすがに死んじゃったら無理だけどー」
あははー、と楽しそうに笑う。
「や、やるしかねぇか……」
「危険度Aの魔物くらい、倒してやるぜ……っ!」
覚悟を決めた受験者たちが武器を構える。
一方、それまで眠っていたのだろう、じっと伏せったままだったレッドドラゴンが、ゆっくりと瞼を開いた。
こちらの侵入に気づいたのか、巨体を起こして咆哮を轟かせる。
「グルアアアアアアアアアアアッ!!」
ビリビリ、とその大音量に空気が震えた。
「なんてデカさだよ……」
「に、二十メートルはあるのでは……?」
起き上がるとその巨大ぶりがさらに顕著になり、受験者たちが思わず後退る。
「……? おかしいな? あそこまで大きかったか?」
そう呟いて首を傾げたのはゲインだ。
「事前調査でも確認したが、もう一回りくらいは小さかったような……」
そんな彼の疑問を余所に、レッドドラゴンが地響きを鳴らしながらこちらへと迫ってくる。
そこで確信したように、ゲインが叫ぶ。
「いや、間違いなく大き過ぎる……っ! 一体どういうことだ!? ただのレッドドラゴンではない!?」
「「「え?」」」
「ちょっ、それはどういう……」
次の瞬間、レッドドラゴンが首を撓めたかと思うと、猛烈なブレスを吐き出してきた。
回避不能の広範囲攻撃に、
「あ、アイスシールドっ!」
エミリーが咄嗟に氷壁を作り出す。
それで皆をブレスから守ろうとしたのだろう。
ジュワアアアアッ!!
だがブレスに触れた瞬間から、あっという間に融解していく。
そしてあっさり壁が消滅し、僅かに威力が衰えただけのブレスが皆に襲いかかる。
「おおおおおおおおおおっ!」
そこへ突っ込んでいったのがゲインだ。
煌々と光る剣を掲げ、ブレスと激突する寸前に振り下ろした。
ブレスが左右に割れる。
後ろにいた皆の脇を炎が通り過ぎていく。
しかし自らはブレスを完全には防ぎ切れなかったようで、身体が焼け焦げたゲインが地面に倒れ込む。
エミリーが慌てて駆け寄った。
「ゲイン!? い、今、治癒を……っ!」
「あ、後で、構わない……それより、て、撤退だ……。あれは、やはり、並のレッドドラゴン、ではない……明らかに、大き過ぎる……ブレスも、こんな威力では、なかった、はずだ……」
どうやら想定外のことが起こっているらしい。
「試験は中断! 今すぐ撤退するよ! 君、ゲインを!」
「は、はいっ!」
負傷したゲインを受験者の一人が抱え、この場から撤退しようとする。
しかし来た道を戻ろうとしたところで、足を止めることなった。
見えない壁に阻まれてしまったのだ。
「これは結界か!?」
「どういうことだ!? 来たときにはなかったはずだぞ!?」
「くそっ、他に逃げ道はっ!?」
慌てて周囲を見渡す受験者たちだが、それらしきルートは見当たらない。
その間にも、レッドドラゴンがこちらに迫って来ていた。
「ま、マジかよっ……一体どうすれば……」
「どうするって、戦うしかないでしょ」
「なっ!?」
「ん。やるしかない」
他の受験者たちが愕然とする中、迎え撃つ意志を示したのはアンジェとファナの二人だった。
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