第85話 この子たちが異常ってことだね
「倒したわ」
エスケイプリザードを討伐したアンジェが戻ってくる。
魔物が泥塗れになっているのは仕方ないだろう。
「ん。お疲れ」
「ちっ、あんたに負けたか……」
「師匠はもっと早かった」
「何であんたまで参加してんのよ?」
「つい」
ゲインは泥だらけのエスケイプリザードを確認して、
「……間違いないな。まさか、たったの十分で三人目もクリアしてしまうとは……いや、受験者としては二人か……」
「実は結構簡単だったりしないわよねー?」
「そ、そんなはずは……。事前に自分でもやってみたが、あらかじめ攻略法を考えてあってもニ十分はかかったのだぞ?」
「じゃー、この子たちが異常ってことだねー」
エミリーのその言葉を証明するように、それからしばらく誰も戻ってこない時間帯が続いた。
やがて三十分以上が経った頃だろうか。
ようやく三人目がエスケイプリザードの死体と共に帰ってきた。
「あー、厄介な試験だったぜ……。って、俺より早い奴が二人もいたのか。ん? 何で死体が三体あるんだ?」
そして四人目が戻ってきたのは、五十分が経とうかという頃。
五人目と六人目はギリギリ滑り込む形で、制限時間内に間に合った。
「……時間だ。一次試験の合格者はここにいる六名だな」
「結局、九名が脱落しちゃったってわけかー。……普通に難しい試験だったわねぇ……」
合格者六名は次の試験に挑むこととなった。
さらに五階層ほど潜って、場所はニ十階層。
「あ、熱いわね……。いるだけで体力が奪われてしまうわ……」
顔を顰めながら垂れてくる汗を拭うアンジェ。
そこは洞窟内のあちこちに煮え滾る溶岩が流れている、灼熱地帯となっていた。
他の受験者たちも汗が止まらない様子だ。
そんな中、ファナだけが涼しげな顔をしていた。
「ちょっと、あんた、何で汗一つ掻いてないのよ?」
「師匠が涼しい」
「どういうことよ? って、冷たっ!?」
訝しげにファナが抱えている俺に触れて、アンジェが声を上げる。
「魔法で身体を冷やしてるんだ」
「ん。ひんやりして、凄く気持ちいい」
ぎゅっと俺を抱き締めてくるファナ。
お陰で顔が胸に強く押し付けられた。
「ず、ズルじゃないのっ?」
アンジェの抗議に、試験官が答えた。
「今は移動中だからな。それくらいなら構わないだろう」
「ていうか、そんな魔法まで使えるんだねー」
そういう試験官たちもこの灼熱の中で平然としている。
よく見ると二人の身体を薄い水の膜が覆っていて、それが熱さから彼らを護っているようだ。
魔力から判断するに、エミリーの魔法だろう。
「だ、だったら、あたしにも寄越しなさいよ!」
「仕方ない」
おおっ、アンジェが自分から俺を抱こうとしてきたぞ。
「ああ~、確かにこれは冷たくて気持ちいいわね~」
俺を抱き締めて恍惚とした顔になるアンジェ。
俺もアンジェの胸に挟まれて気持ちいいよ……ぐへへへ……。
しかしかなり汗を掻いているようで、正直かなりびしょびしょだ。
まぁそれが良いだけどな!
「……熱い」
一方、今度はファナが熱そうにしている。
「ん。いいこと思いついた」
そう言って、何を思ったか、アンジェの反対側から俺を抱き締めてきた。
「ちょっと、何してんのよ!?」
「共有。これでどちらも涼しくなれる」
「そうかもしれないけど、歩きにくいでしょうが!」
「心配ない。わたしが後ろ向きに進む」
「そ、そういう問題じゃ…………か、顔が近くて、恥ずかしいし……」
「? 何か言った?」
「ななな、何でもないわよ!」
二人の言い合いが頭の上から降ってくる中、俺はというと、顔がアンジェの胸に、頭はファナの胸に包まれていた。
ふふふ、なかなか素晴らしいサンドイッチである。
是非とも永遠に味わっていたかったのだが、そうこうしている内に、どうやら目的地に着いてしまったらしい。
「ここだ。この通路の向こうが、二次試験……いや、最終試験の会場となっている。……非常に危険な試験だから、心して望んでくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます