第75話 お嫁に行けないよぉ

「うぅ……あたしもう、お嫁に行けないよぉ……」


 治療が終わって、ぐったりした様子のコレット。

 何やら恨めしそうに呻いているが、俺の治療法をマスターすれば、自分で幾らでも稼げるようになるので、お嫁に行かなくても生きていけるだろう。


「でも、魔力回路が整って、自分の魔力の流れが感じ取れるようになったでしょ?」

「魔力の流れ……分かるような、分からないような……?」


 首を傾げているが、すぐに実感できるようになるはずだ。


「この治療を受けることで、魔法職はもちろんのこと、前衛職も大きくレベルアップできる。つまり冒険者とか戦いを生業にしている人たちにとって、この治療は喉から手が出るほど受けたいものなんだ」


 もちろんコレットのような治癒職にも効果的だ。

 だが彼女に治療を施したのは、治療をする側になってもらうためである。


「あ、あたしが、今のを……?」

「うん。お姉ちゃん、元から治癒魔法が得意でしょ? そういう人が一番適任なんだ」

「……って、あんな真似、他の人にできるわけないよぉっ!? だ、だって、相手は裸で……」

「大丈夫。患者は下着を付けたままで良いから」

「じゃあ脱ぐ必要なんてなかったよね!?」


 それに使うのは指先のみなので、身体の上に乗っかったりする必要はない。

 俺は見ての通り赤子だから這いずり回っているだけだ。


「さあ、それじゃあ実際に治療の練習をしてみよっか。ファナお姉ちゃん」

「ん。了解」


 まずは他人の魔力回路を診れるようになることからだ。

 ファナには患者役をやってもらう。


 その場で服を脱ぎ捨てるファナ。

 まるで躊躇することなく下着も脱いでしまった。


「下着まで脱がなくていいんじゃなかったの!?」

「最初はこの方が見やすい」

「だからって……」

「心配ない。わたしは気にしない」

「す、少しは恥じらいというものを持ってください……っ!」


 それからというもの、吹っ切れたのか、コレットは必死に治療法の習得に勤しんだ。

 できれば色んな人の身体を診ておいた方がいいので、アンジェに練習台をやってもらうこともあった。


「いいけど、下着だけは着けさせてもらうわよ!?」

「その方がありがたいですっ!(常識人がいてよかった……)」


 ただ、ファナとアンジェの二人はすでに治療済みだ。

 俺が綺麗に整えた状態なので、やはり治療前の魔力回路とは違う。


「そんなわけで、そろそろ実際の患者相手に治療をしてもらおうと思って、今日はチルダお姉ちゃんを連れてきたよ」


 チルダは前から色々とお世話になっている女冒険者だ。

 魔法使いで、色っぽい感じのお姉さんである。


 なのに最近はなぜか俺のことをやたらと避けていた。

 こんなに可愛い赤子なのになぁ。


「連れてきたっていうか、ほとんど拉致だった気がするんだけど!?」

「ちょっ、レウスくん!? 拉致って!?」

「あはは、やだなぁー、チルダお姉ちゃん。赤子が大人を拉致するだなんて、荒唐無稽なこと言っちゃってさー」

「それが事実だから恐ろしいのよ!」


 まぁ傍からだと、大人が赤子を連れ去っているようにしか見えなかっただろう。


「ああほんと、関わると毎回ロクなことがないんだから……」


 嘆いているチルダに、俺は言う。


「じゃあお姉ちゃん、服を脱いでね」

「ひえっ!?」

「レウスくん、怯えてるから! ちゃんと説明しないと!」


 コレットが代わりにこれから行う治療について説明してくれた。


「なるほど……それが急に二人が強くなった秘密……。ギルド長を圧倒したっていう噂も、本当だったのね……」


 もちろんファナたちが強くなったのは、この治療だけのお陰ではなく、その後の厳しい訓練に耐えことや、本人たちのセンスなどもある。

 だが強くなる上で必須であったことは間違いない。


「分かったわ。まだ不安だけど、それなら受けてみることにする」

「コレットお姉ちゃんは治療初心者だけど、僕が傍にいるから安心してよ」

「……むしろかえって安心できないんだけど?」

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