第74話 ちゃんと研修を受けないと
「ん、師匠、ごめんなさい。わたしのせい」
「気にしなくていいよ、ファナお姉ちゃん。悪気はなかっただろうし」
あれからも冒険者たちが俺を探し回っているという。
お陰で俺は姿を隠さずには冒険者ギルドに行けなくなってしまった。
「自分はタダでしてもらってこんなこと言うのもあれだけど、治療に大金を要求したらどうかしら? それなら少人数で済むでしょ」
そうアンジェが提案してくるが、俺としては若い女冒険者だけなら幾らでも治療をするが、男にはどれだけ大金を積まれても遠慮したいところだった。
というか、あの治療は別に俺じゃないとできないようなものじゃない。
前世の頃は当たり前の治療だったくらいだ。
「それより僕の代わりに治療できる人を育てる方が早そうだね」
「難しそう」
「そんなことないよ。まぁ下手な人がやると、魔力回路が壊れちゃって、酷い後遺症が残ったりするけど」
なのでちゃんとした人に治療してもらわないといけないのだが、前世では安い値段で悲惨な治療を施す悪質な治癒者が増えたりして、色々と大変だった。
治療法を安易に一般公開してしまった、当時の俺が大いに反省すべき点である。
というわけで今世では、信頼できる人にしか治療法を伝授しないようにしよう。
そこで選んだのが、
「久しぶりだね、コレットお姉ちゃん」
「レウスくん! 噂で聞いてるよ。冒険者になってから、すごい活躍だって」
「大したことないよ。それよりお姉ちゃんはお仕事見つかった?」
「それが……実はまだなの。幾つか候補はあるんだけど、優柔不断で、どれにするか迷ってて……」
コレットは冒険者試験のときに一緒だった少女だ。
冒険者の厳しさを悟り、他の仕事を探していたようだが、幸いまだ仕事に就いているわけではないらしい。
俺はその大きな胸に抱き着きながら言う。
「でもお姉ちゃん、実家に借金があって、お金をたくさん稼がないといけないんだよね?」
「う、うん……だから早く良い仕事に就かないとなんだけど……」
「そっかー。……実はね、そんなお姉ちゃんに、すごーく良いお仕事があるんだけど」
「え?」
俺はにっこり赤子スマイルをしながら、
「月に金貨百枚、ううん、二百枚は余裕だと思うよ」
「ききき、金貨二百枚!? そ、それは何か危ない仕事じゃないよね!?」
「全然危なくないよ。基本的には冒険者を対象にした仕事で、ギルド公認(予定)だから、安心安全、後ろ盾バッチリだよ」
そう、俺はコレットに治療法を教え込むつもりだった。
「ただし、ちょっとした研修を受けてもらう必要はあるけどね」
「研修……?」
「うん。教えるのは僕だけどね」
「レウスくんが……?」
ふふふ、まずは自分の身体で体験してもらうのが一番だからな……。
「ねぇレウスくん!? 何であたし、裸にされちゃってるのかな!?」
「大丈夫大丈夫。心配しないで」
「本当にこれが研修なの!? あたし騙されてない!?」
「騙してなんかないよ。ほら、お姉ちゃん、お金たくさん稼ぎたいんでしょ? だったらちゃんと研修を受けないと」
「なんか弱みに付け込んでない!? もしかして身体を売るタイプのお仕事じゃないよね!?」
涙目で喚くコレットに、場所を提供してくれているファナが言う。
「心配ない。師匠を信じて」
「そもそもあなたは誰なんですか!?」
「師匠の弟子」
「何を言ってるかよく分からないんですけど! あと、あんまり見ないでください!」
「それは断る。見て学ばないといけない」
どうやらファナは治療を見学する気らしい。
「コレットお姉ちゃん、それじゃあベッドに寝転んでね」
「まだやるって決めてないよね!?」
「……ファナお姉ちゃん、お願い」
「ん。任せて」
「ちょっ、何をっ……ひゃっ!?」
ファナによって無理やりベッドの上に寝転がらされるコレット。
「大丈夫。すぐによくなる」
「何がですかあああっ!?」
「じゃあ、コレットお姉ちゃん。治療を始めるね」
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