第70話 心外なんだけど

「『岩壁の洞窟』で未発見領域を発見っ!? ていうか、ダンジョンの壁って穴を開けれるんですか!? しかも危険度B以上の魔物がごろごろ!? それに危険度Aの魔物アトラスを倒して、素材を持ち帰った……っ!?」

「そうよ。俄かには信じがたいかもしれないけれど、間違いないわ。あたしとそこのファナも確認したから」

「は、ははは……なんかここ数日で、数年分くらいは驚かされてる気がします……」


 乾いた笑いを零すイリア。

 アンジェが苦笑する。


「心中察するわ」

「でも、アンジェさん、助かりました……。ちゃんと心の準備をさせてから話してくださったお陰で、衝撃が幾らか和らいだ気がします……」


 何だろう、俺、別に悪いことしてないよな?


「前例のないことばかりだから事務処理が大変なのよ! せめてもう少し時間を空けてからやらかしてくれないと!」

「やらかすって……」


 たまたまオークが大量発生したり魔族がいたりという事件が起こり、俺はそれを解決しただけだ。

 今回の件だって、未発見領域が存在していたから見つけたのであって、決して俺自身が原因ではない。


「いいえ、分からないわよ。レウスくんが色んな問題を引き寄せてるのかも」

「……人を疫病神みたいに言わないでよ」


 俺は溜息を吐いてから、


「でも心配しなくていいよ。開けたのは小さな穴だし、誰かが入り込んじゃったりすることはないと思うから」

「そもそもダンジョンの壁に穴を開けれるとか、聞いたことないんだけど……」


 それから解体場へ。

 まずは未発見領域で倒した危険度Bの魔物たちの死体を、亜空間から取り出す。


「これはアームグリズリー……。それにグリフォンやデビルスネイクも……。どれもこれも、この近くじゃ見つからない魔物だわ……」


 窓口を他の受付嬢に任せてついてきたイリアが、呆然と呟く。


「それでこれがアトラスね」

「っ!?」


 二十メートルを超える巨体が亜空間から滑り出てくると、圧倒されたのか、イリアはその場に尻餅をついた。


「これがアトラス!? 大き過ぎない!? レウスくん、こんな化け物、一体どうやって倒したのよ!?」


 一方で、この解体場を仕切っている筋骨隆々の解体師ボドックが、死体を確認しながら首を捻った。


「……いいや、違うな。こいつはそこの怪物ボウズが倒したんじゃねぇ。もし怪物ボウズなら、素材を傷つけないよう、もっと綺麗に仕留めるはずだ」


 怪物ボウズって、もしかして俺のことだろうか?

 いつの間にか勝手に仰々しい呼び方をされていた。


「なに言ってるんですか、ボドックさんっ? こんなの倒せるの、レウスくん以外にいないでしょう!」

「ん、違う。アトラスも含め、すべてアンジェとわたし二人で倒した」

「ふぁっ、ファナさんたちがっ!? いやいや、いくらお二人でもアトラスを討伐するのは無理でしょう!? それこそAランク冒険者じゃないと……っ!」

「あー、それはまだ言ってなかったわね……。イリア、悪いけれど、そいつの言う通りよ」

「アンジェさん!? まさか、お二人まで常識外の存在になってしまわれたんですか!?」

「……こいつと一緒にされるのは心外なんだけど」


 むしろ俺の方が心外である。

 とそこへ、騒ぎを聞きつけたのか、ギルド長のドルジェがやってきた。


「ったく、聞いたぜ。また仕出かしやがったんだってな。本部に報告する身にもなってみろ。ホラばかり吹いてんじゃねぇって怒られたばかりなんだぞ」

「ぎ、ギルド長、聞いてください!」

「どうした、イリア? まだ報告されてないことでもあるのか?」

「それが……どうやらこの危険度Aの魔物を、ファナさんとアンジェさんのお二人だけで倒したそうで……」

「……は?」


 ギルド長は一瞬呆気に取られてから、


「お、おいおいおい、マジかよ? アトラスだぞ? Aランク冒険者がパーティを組んでも苦戦するような相手だぞ? それを二人だけで……? た、確かにこの街の冒険者たちの中じゃ、最もAランクに近い奴らだとは思っていたが……それでもまだ数年はかかるはずだと……」

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