第65話 脳筋だからね

「うんうん、お姉ちゃんたち、順調に魔力が増えてきてるね」

「ん。最初より枯渇しなくなった」

「確かに、身体強化を長く維持できるようになってきたわ!」


 俺の指導のかいあって、あれから二人の魔力量が大幅に増加した。

 本人たちもそれを実感しているようだ。


 あれからも継続して俺は二人の訓練に付き合わされていた。

 ファナが相変わらず俺を師匠と呼んでいるように、本当に弟子を取ったようになってしまっている。


 その代わり胸を堪能させてもらっているけどな。

 アンジェは未だに少し抵抗があるようだが、俺からタダで教わっていることへの後ろめたさもあるのか、最近は抱っこを要求しても断らなくなっていた。


 ……なお、バハムートは亜空間の中に入ってもらっている。

 もちろんリントヴルムのいる亜空間とは別の空間だ。


 あいつは俺が他の女と一緒にいるだけで嫉妬し、何をしてくるか分からないからな。

 ただ、ずっと入れていると今度は『わたしはやっぱり要らない存在……自爆する……』とか言い出しかねないので、定期的に外に出してやらないといけない。


「それじゃあ、せっかくだし、その魔力を使った実戦的な技も習得してみよっか」

「「実践的な技?」」

「うん。前衛職にとっても凄く役に立つやつだよ。ちょっと見ててね」


 俺は地面を蹴って跳躍する。

 空中に浮かんだところで、さらにそこからもう一度、ジャンプしてみせた。


「……二回飛んだ?」

「ちょっ、何よ、今の!? もしかして何かの魔法!?」


 驚く二人に、今の技のカラクリを教えてあげる。


「魔法じゃないよ。ただ足元に魔力の塊を作り出して、それを足場にすることで空中ジャンプしたんだ。その名も『天翔』」


 これも前世で剣神が教えてくれた技だが、その中でも初歩中の初歩のもの。

 縮地などと比べれば遥かに簡単で、この赤子の身体でもそれほど難しくないにも関わらず、色んな場面で有効な便利な技だった。


「これを使って立体的に動けるようになったら、機動力が格段に上がるでしょ。そうなると自分よりずっと大きな敵と戦うこともできるようになるよ」

「すごい」

「けど、こんなの、あたしたちにも使えるの……?」

「練習すればすぐにでも使えるようになるはずだよ。すでに身体強化魔法で、魔力の流れが掴めるようになってきてると思うし」


 ちなみにファナなら風魔法で似たようなことができるのでは、と思うかもしれない。

 確かに間違ってはいないが、コントロールが難しい風魔法でやるよりも、この天翔の方がずっとおススメだ。


 無属性の魔力を使うということもあって、即応性が高い点も優れている。


「あと、これとは別に、せっかく魔力が増えたんだから、アンジェお姉ちゃんは土魔法も練習した方がいいと思うよ」

「土魔法? 何で土魔法なのよ?」

「魔力を見れば、だいたい得意な属性が分かるんだ。ファナお姉ちゃんは風魔法だけど、アンジェお姉ちゃんは土魔法に適性がある魔力をしてる」

「本当に? 今まで使ったことはおろか、練習したことすらないんだけど……。それに、土魔法ってなんか地味だし……」


 確かに土魔法には地味なイメージがある。

 基本となる火、水、土、風の四属性魔法の中では、人気なのはやはり派手な火魔法だろう。


「でも土魔法は色々と便利だよ。攻撃力は火魔法が一番高そうに思えるけど、意外と土魔法の方が威力あったりするし、敵の足元を泥化させて動きを鈍らせたり、土の壁で攻撃を防いだりとか、かなり汎用性の高い魔法でもあるんだ。お姉ちゃんの戦い方にも幅が出ると思うよ」

「そういう搦め手的なのは嫌いなんだけど……」

「脳筋だからね、アンジェお姉ちゃんは。だけど、必ずしも正面から打ち倒せる相手ばかりじゃないでしょ。そういうときに土魔法が使えたら、状況を打破できるかもしれない」

「ノウキン? 何だか分からないけど、物凄く侮辱されたような気がするわ!」


 憤慨するアンジェだが、その横でファナがうんうんと頷きながら「ん、間違いない。アンジェは脳筋」と呟いていた。

 ……ファナもあんまり人のこと言えないけどな。

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