第61話 互角ってところかな

「身体強化魔法って、こんなに使えるものだったのね!」

「うん。魔法使いだけじゃなくて、剣士とか武闘家とか、肉体派にも必須の魔法だと思う。ちなみに極めれば、もっと強化倍率を高められるようになるよ」


 今のアンジェで、だいたい一・二倍くらいだろうか。


「へえ。もしかして、あんたも使ってるの?」

「うん。普段は五十倍くらいで」

「ごごご、五十倍!?」


 思い切り仰天してから、アンジェは何かに納得がいったというふうに頷いた。


「なるほどね、赤子のくせにそこまで動けるのは、身体強化魔法のお陰だったわけね! 普通だったら立つこともできないでしょ!」

「使ってなくても、走ったり跳んだりくらいはできるけど?」


 俺はいったん身体強化魔法を切り、その場を走り回ってみせた。

 宙返りとかもしてみる。


「何で素でそんなことができんのよ!?」

「師匠は特別」

「特別っていうか、これでもちゃんと鍛えてるからね」


 幾ら身体能力を五十倍にしたところで、元が脆弱過ぎると意味がないからな。

 逆に元が強ければ強いほど、身体強化によって格段に強くなれるわけだ。


「鍛えてるって……はぁ、なんかもう、別格過ぎて対抗心すら湧いてこないわ……」


 アンジェが溜息を吐く。

 赤子相手に対抗心を抱くのもどうかと思う。


「だけど、あんたは別よ!」

「わたし?」

「同じ条件になった今なら、あんたに勝てるはず! 今度こそ勝負しなさい!」

「……ん。望むところ」


 身体強化魔法を覚えて強気になったのか、ファナを挑発するアンジェ。

 どうやらファナもそれに応じるらしい。


 ファナは二本の剣を構え、アンジェは拳を構えた。

 ちなみに徒手空拳である。


「行くわよッ!」

「勝負」


 それから二人の手合わせというには激しい戦いが始まった。


 先に攻めたのはファナだ。

 二本の剣で繰り出される凄まじい連撃を、しかしアンジェは拳で跳ね返していく。


 刃とぶつかっても拳に傷一つ付いていないのは、〝気〟を拳に集めてその強度を高めているからだろう。


「今度はこっちの番よっ!」


 アンジェが攻めに転じた。

 ファナの懐に飛び込んで自分の間合いに持ち込むと、そこから拳をラッシュする。


 だがファナはそこで風魔法を使い、風圧の壁を作り出してアンジェの攻撃をガード。

 そのまま風の後押しを受けて彼我の距離を取る。


「……やるわね」

「そっちこそ」


 そうしていったん仕切り直してから、再び彼女たちは激突した。


「まぁ実力はほぼ互角ってところかな」


 そんな二人の様子を見ながら俺は呟く。


 拮抗していることもあって、彼女たちの攻防はなかなか決着がつかないまま、やがて硬直状態へと陥ってしまった。

 ただ、それが十分もすると、


「っ……身体が……っ!?」

「ん……力が……入らない……」


 二人そろってふらふらし始め、その場に膝を突いてしまう。


「どういうこと……? まだ体力はあるのに……」

「ん……これは……」


 元から魔法が使えたファナはこの状態の理由を理解しているようだが、アンジェの方はどうやら初めてらしい。

 俺は教えてやった。


「魔力の欠乏症だよ、アンジェお姉ちゃん」

「欠乏症……?」

「うん。言葉通り、魔力が枯渇しちゃったんだ。幾ら魔力回路を整えて、効率よく使えるようになったと言っても、それだけ全開で使ってたらさすがにね」

「うぅ、確かに気も使い過ぎるとこんな感じになるわ……。最近は気が増えてきたから、滅多に欠乏しないけど……」

「魔力も同じように増やすことができるよ」

「どうやって?」


 魔力を増やす方法はとても単純だ。

 魔力を消費するのである。


「魔力総量は、消費された魔力が回復するときに増えるんだ。だから魔力を増やしたいなら、とにかく魔力を消費すること」

「なるほど。さすが師匠。詳しい」

「ということは、いちいち回復するのを待たないといけないってことね……。使って、回復させて、使って、回復させて……なかなか面倒ね」

「そうでもないよ」

「「……?」」

「実はもっと手っ取り早いやり方があるんだ」

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